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【研究成果】公共データベースを活用したメタ解析により複数の家畜動物とそれらの原種間で発現が異なる遺伝子を複数同定

〜データ駆動型ゲノム育種に向けた育種候補遺伝子の選出〜

本研究成果のポイント

  • 家畜動物はそれらの原種動物※1から家畜化される過程で、異なる生物種間で共通した形質※2の変化が見られる。
  • 本研究では、公共データベースに蓄積されたブタ・ニワトリ(家畜動物)とそれぞれの原種の遺伝子発現データ※3,4を用いたメタ解析※6を行い、家畜動物と原種を比較すると、家畜動物で10の遺伝子が、原種で7つの遺伝子が共通して発現変動※5していたことを発見した。
  • 発現変動は形質変化の要因の一つであり、異なる生物種間で共通した家畜動物と原種の発現変動の把握は、家畜化過程の実態の把握につながる。
  • 本研究成果は、家畜化過程における遺伝子発現変化の背景理解に寄与し、さらにゲノム編集※7などの技術を用いた、家畜動物のさらなる育種や、家畜化が行われていない動物の効率的な家畜化に役立つことが期待される。

概要

 広島大学大学院統合生命科学研究科の烏野素生大学院生と坊農秀雅教授は、家畜動物とその原種※1間で発現が変化している遺伝子を同定するため、公共データベースに蓄積された大規模遺伝子発現データ※4を取得し、メタ解析※6を行った。
 家畜動物はその原種動物※1からの家畜化によって、様々な形質※2の違いが見られることが知られている。形質と遺伝子発現は密接に関連しており、家畜動物とその原種の遺伝子発現の違いに関する理解は、今後の家畜育種において非常に重要である。そこで本研究では、公共データベースに蓄積されていた家畜動物とその原種に関する複数の研究結果を統合し、再解析することで、家畜-原種間で共通して発現が変化していた遺伝子の同定を行った。その結果、家畜動物で10の遺伝子が、原種動物で7の遺伝子が共通して発現変動しており、それらは免疫応答やストレス応答と関与していた。これらの結果は、今後のより良い家畜育種と新たな動物の家畜化のための情報基盤となる。

論文情報

  • 著者: Motoki Uno1) and Hidemasa Bono1)2)*
    *Corresponding author(責任著者)
    1) 広島大学大学院統合生命科学研究科
    2) ゲノム編集イノベーションセンター
  • 論文タイトル: Transcriptional Signatures of Domestication Revealed through Meta-Analysis of Pig, Chicken, Wild Boar, and Red Junglefowl Gene Expression Data
  • 掲載誌: Animals
  • DOI: https://doi.org/10.3390/ani14131998

背景

 急速な人口増加などの影響により、近い将来、家畜動物由来のタンパク質が食べられなくなることが懸念されている。家畜動物のさらなる育種は、この課題を解決するための1つの方法である。
 現在、広く一般に流通している食肉用の家畜として主流であるブタとニワトリは、それぞれイノシシと主にセキショクヤケイを原種として、人の手により長い年月をかけ家畜化されてきた。この家畜化の過程で、異なる種間でも、成長速度や肉質の向上などのさまざまな形質が、共通して選択されてきた。しかし、このような人間にとって有用な形質が選択されてきた一方で、骨格が肉体の成長に追いつかないなどの、家畜動物にとって障害となるような現象が見られるようになった。今後、家畜動物のさらなる育種を進めるなかで、有用な形質を向上させるだけではなく、家畜動物にとって障害となる形質を抑えることが求められている。そのためには、家畜化による遺伝子発現の変化を理解することが重要である。

研究成果の内容

 本研究では、公共データベースに蓄積された複数の研究から得られたブタ-イノシシ、ニワトリ-セキショクヤケイの遺伝子発現データを、それぞれ46ペアと59ペア取得し、メタ解析を行った。
 ブタとイノシシでは、ウイルス感染防御や、筋肉合成に関連する遺伝子の発現が変化しており、ニワトリとセキショクヤケイでは、骨の強さや行動の頻度に関連すると考えられる遺伝子の発現が変化していた。これらの変化は、家畜化過程で選択されてきた形質との関連が示唆されるものであった。
 次に、家畜動物(ブタとニワトリ)と原種動物(イノシシとセキショクヤケイ)の異なる種間で、共通して発現が変化している遺伝子を複数同定した。家畜動物では10の遺伝子が発現上昇※8しており、その中には、免疫応答に関与する遺伝子が複数含まれていた。一方、原種動物では、7つの遺伝子が発現上昇しており、その中には、ストレス応答に関与する遺伝子が複数含まれていた。これらの遺伝子は、種を超えて家畜-原種間で発現が変化していたことから、共通して変化した形質と関連している可能性が考えられる。

今後の展開

 本研究では、ブタとニワトリを対象に、異なる種の家畜動物とその原種間で共通して発現変動している遺伝子を複数同定した。これらの遺伝子は、家畜動物に見られる共通した形質との関連が示唆され、家畜化過程における遺伝子発現変化の理解に貢献する。今後、対象とする家畜動物を増やし、統合して比較解析を行うことで、より多様な種において、家畜化過程で普遍的に発現が変化している遺伝子が同定されることが予想される。さらに、本研究で得られた遺伝子に関する機能解析が進むことで、さらなる家畜育種の促進に寄与し、また、家畜化の進んでいない生物に対し、ゲノム編集などの技術を用いた、効率の良い家畜化プロセスを適用することが可能になることも期待される。

用語解説

※1 原種動物 : 家畜の祖先にあたる野生動物、ヒトが飼いならす前の動物
※2 形質 : 生物のもっている体の形や特徴
※3 遺伝子発現 : 生物を構成しているタンパク質などの物質は、DNA上に存在する「遺伝子」を設計図として作られ、設計図(遺伝子)の情報をもとに、タンパク質などがつくられる過程を指す。
※4 遺伝子発現データ : サンプルに含まれているRNAの配列を、次世代シーケンサーにより、網羅的に解読することで得られるデータ。遺伝子の発現量を定量的に解析することができる。
※5 遺伝子発現変動 : 全ての遺伝子から常に同じ量のタンパク質などが作られる、つまり、常に全ての遺伝子が一様に発現するわけではなく、異なる細胞の種類や周囲の環境、見た目(形質)の違いでも、この遺伝子発現の程度が異なってくる。逆に言えば、遺伝子発現の程度やパターンが異なることが、細胞の種類や環境への適応、形質などの違いを生む1つの要因といえる。
※6 メタ解析 : 複数の異なる研究により得られたデータを統合し、再解析することで、単独の研究では捉えることができず見落とされていた知見を得ることができる。
※7 ゲノム編集 : CRISPR/Cas9に代表されるゲノム編集ツールを用いて、ゲノムの狙った箇所に変異を誘発し、ゲノム情報を編集する技術。
※8 発現上昇 : 本研究では、「家畜動物の遺伝子発現の量」と、「原種動物の遺伝子発現の量」を比較している。原種動物と比較し、家畜動物で遺伝子発現量の値が高かった遺伝子を「家畜動物で発現上昇」とし、反対に、家畜動物と比較し、原種動物で遺伝子発現量の値が高かった遺伝子を「原種動物で発現上昇」とする。つまり、過去と現在の比較によって、「発現上昇」とするものではない。

参考資料

ブタ⇔イノシシ・・・ブタ : 240遺伝子 イノシシ : 206遺伝子
ニワトリ⇔セキショクヤケイク・・・ニワトリ : 206遺伝子 セキショクヤケイ: 200遺伝子
ブタ・ニワトリで共通・・・10遺伝子
→家畜動物で共通して発現変動している遺伝子(10遺伝子)
イノシシ・セキショクヤケイで共通・・・7遺伝子
→原種動物で共通して発現変動している遺伝子(7遺伝子)

【お問い合わせ先】

広島大学大学院統合生命科学研究科  教授  坊農 秀雅
Tel:082-424-4013
E-mail : bonohu*hiroshima-u.ac.jp
 (*は半角@に置き換えてください)
 


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