広島大学平和センター
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7月27日(土)に、広島大学平和センター主催の国際シンポジウム「分断される国際社会: いま私たちにできること」を開催し、約70人の方にご参加いただきました。
まず、越智学長から「戦後、戦争のない平和な世界を目指してきた日本、その担い手である市民社会、さらには、核なき世界平和を標榜してきたヒロシマは、今後一体何をすべきなのでしょうか。市民社会の大きなうねりが、国際社会そのものを動かす原動力となりうることを期待し、本日のシンポジウムで、具体的な解決策と道筋が議論されることを願っております。」と開会挨拶のビデオメッセージがありました。
続いて、国内外からお集まりいただいた専門家の方から講演いただきました。
Pham Lan Dung氏(ベトナム外交学院・学長代行)には、「Asia and contemporary challenges in Asia and beyond.」と題してご講演いただきました。アジア太平洋地域は、全体的な平和、安定、発展を享受しているものの、政策立案において地域諸国をより困難な立場に追い込む可能性のある挑戦に直面し、米中間の戦略的競争、経済問題、潜在的な紛争の火種、新興技術、そして非伝統的な課題に至るまで、政治的、経済的、法的な側面が相互に絡み合っており、各国が何とか解決策を見出す必要があると指摘されました。具体的には、軍備管理努力の再活性化、危機コミュニケーション・管理の強化、包括的な戦略的安定対話の促進、紛争防止・解決への投資という4つの提言がなされました。
黒木英充氏(東京外国語大学・教授)には、「イスラエルの対パレスチナ・ジェノサイドと国際社会」と題してご講演いただきました。ガザにおける事実上のジェノサイドは、ヨーロッパ・キリスト教世界におけるユダヤ人差別の問題がホロコーストというジェノサイドを経てもなお未解決のまま、パレスチナにイスラエルという排他的人種主義国家として移植された結果の悲劇であること、この国際的な問題の矛盾がついに露呈したことで、国際社会における分断も国連におけるイスラエルとアメリカ等の孤立という新たな形で顕在化したこと、イスラエルが核兵器使用意思をほのめかし、ガザでのジェノサイドも文明と野蛮というレトリックで自らを正当化してきたこと、などが指摘されました。こうしたパレスチナ/イスラエル問題の構造を正しく認識したうえでジェノサイドをめぐる二重基準を容認しない姿勢を明確にすることは、人類社会において最初に核兵器攻撃を受けた都市・広島として重要であると結びました。
戸﨑洋史氏(広島大学平和センター・准教授)は、「ウクライナ戦争と核をめぐる分断」と題し、講演しました。同氏は、ロシアによるウクライナ侵略では、核兵器が力による一方的な現状変更の手段として積極的に利用され、米・NATO諸国の行動を抑制し、核軍備管理・軍縮にも大きな影響を与えているとし、核をめぐる言説を含め、国際社会の分断が一層深刻化するなかで、広島・日本が講じるべき施策について問題提起しました。
パネルディスカッションでは、川野徳幸広島大学平和センター長がモデレーターを務め、講演者が参加者からの数多くの質問に答えながら,議論を深めました。
本シンポジウムを通して、台湾海峡周辺をめぐる緊張、南シナ海の領有権問題、パレスチナ・ガザ地区への暴力、ロシアの核兵器使用の威嚇といった、国際社会の分断の現状分析、歴史的背景への理解が進みました。さらに、これらの分断に対して、日本は、そして平和を希求するヒロシマはどのように対峙していけばよいのか、多くの示唆を得ることができました。自由、民主主義、法の支配の維持に総力で対応する姿勢をさらに明確にし、外交努力の継続、そしてそれを後押しするヒロシマの役割の大きさを再確認しました。本事業は、国立大学経営改革促進事業の一環である「国際社会の分断克服のためのフラットフォーム・ハブの構築」事業として実施しましたが、このフラットフォーム・ハブでは、引き続きこうした具体的テーマを通じて、国際社会の分断の現状を理解し、その解決に向けて具体的な議論を展開し、解決策を模索し続けます。

越智学長から開会のビデオメッセージ
講演するPham Lan Dung氏
講演する黒木英充氏
講演する戸﨑洋史氏
モデレーターを務める川野平和センター長
参加者からの質問に答えるPham Lan Dung氏
参加者からの質問に答える黒木英充氏
参加者からの質問に答える戸﨑洋史氏
閉会の挨拶を行う川野平和センター長