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【研究成果】口腔内の状態が良くない急性期脳梗塞患者は回復が遅く、肺炎のリスクが高いことが判明

本研究成果のポイント

  • 急性期脳梗塞で広島大学病院脳神経内科へ入院された患者さんの入院時における口腔内の状態が不良なほど、発症3ヶ月後の機能予後(※1)不良となることが分かりました。
  • 口腔内環境が不良なほど院内肺炎を発症するリスクも増多することが分かりました。
  • 広島大学病院口腔総合診療科で開発された8項目からなる包括的な口腔内評価を行い状態確認することが入院後のケアにおいて重要と考えられます。
     

概要

  • 口腔ケアは脳卒中患者さんの肺炎予防や摂食嚥下機能の改善において重要であることが知られています。しかし、多面的な口腔状態の評価を行うことと、脳卒中発症後の機能予後や院内肺炎との関連を調査した研究は少ない状況でした。
  • 当院では、脳卒中患者さんが入院された際に口腔総合診療科へほぼ全例ご紹介し、概ね3日以内に8項目からなる「修正口腔アセスメント評価(modified Oral Assessment Grade (以下mOAG、図))」を用いて口腔内の状態を確認しています。
  • 本研究では解析に必要なデータ収集ができた247人の急性期脳梗塞患者さんを対象としました。その結果、mOAGスコアが高い(口腔状態が不良な)患者ほど、3ヶ月後の機能予後不良と関連し、院内肺炎の発症リスクが高いことが判明しました。
     

発表論文

  • 掲載誌: Clinical Oral Investigations (2024 年 7 月) 
  • 論文タイトル: Oral condition at admission predicts functional outcomes and hospital-acquired pneumonia development among acute ischemic stroke patients
  • 著者: Futoshi Eto1 (江藤 太), Tomohisa Nezu1* (祢津 智久), Hiromi Nishi2 (西 裕美), Shiro Aoki1 (青木 志郎), Saki Tasaka1 (田坂 沙季), Susumu Horikoshi2 (堀越 励), Kanako Yano3 (矢野 加奈子), Hiroyuki Kawaguchi2 (河口 浩之), Hirofumi Maruyama1 (丸山 博文) 
    1.広島大学大学院医系科学研究科 脳神経内科学
    2.広島大学病院 口腔総合診療科
    3.広島大学病院 診療支援部 歯科部門
    *責任著者
  • DOI:10.1007/s00784-024-05833-w
  • URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00784-024-05833-w

研究成果の内容

 先述の通り、8つのカテゴリー(唇、舌、舌苔、唾液、粘膜、歯肉、口腔衛生、うがい)について各項目を0〜3点で評価し、合計0〜24点で急性期脳梗塞患者さんの入院時の口腔内環境を評価しました(点数が高いほど口腔内環境が不良であることを表しています)。分析の結果、以下の知見が得られました。
 1.  高齢、入院前のmodified Rankin Scaleスコア(※2)が高いこと、慢性心不全の存在、入院時のNational Institute of Health Stroke Scaleスコア(※3)が高いことが、mOAGスコアの上昇(口腔状態の悪化)と関連していました。
 2.  mOAGスコアが1ポイント増加するごとに、3ヶ月後の機能予後不良(modified Rankin Scaleスコア3以上で何らかの介護が必要な割合)のリスクが1.31倍(95%信頼区間(※4): 1.17-1.48)、院内肺炎の発症リスクが1.21倍(95%信頼区間: 1.07-1.38)増加することが明らかになりました。
 3.  機能予後不良を予測するmOAGのカットオフ値は7点(リスク 4.26倍(95%信頼区間: 2.14-8.66))、院内肺炎発症を予測するカットオフ値は8点(リスク 7.89倍(95%信頼区間: 1.96-52.8))であることが示されました。
 4.  入院中に2回目のmOAG評価を受けた患者(全体の66.0%)では、初回評価時と比較して口腔状態の改善が見られました。

今後の展開

 本研究成果により、急性期脳梗塞患者さんが入院された際に早期から包括的な口腔アセスメントを行う事の重要性が示されました。
 mOAGを用いた口腔評価は脳卒中以外の他疾患を有する患者さんでも使用しており、今後それぞれの疾患に応じたハイリスク患者さんを早期に指摘し、より効果的な口腔ケア介入プログラムにつなげることが期待されます。また、多職種連携による口腔ケアシステムの構築や、長期的な予後との関連を調査する研究が今後求められると考えられます。

参考資料

図. mOAG(原著をもとに著者が和文に修正)

用語解説

(※1)機能予後:ある疾患や創傷を治療した際の見通し(予後)のうち、後遺症に着目したもの
(※2) modified Rankin Scale
脳卒中患者の機能的転帰を評価するための尺度です。0(症状なし)から6(死亡)までの7段階で、患者の日常生活における自立度を測定します。
(※3) National Institute of Health Stroke Scale
脳卒中の重症度を評価するための標準化された尺度です。意識レベル、言語機能、運動機能など複数の項目を0~40点の間で点数化し、脳卒中の程度を定量的に表します。
(※4) 95%信頼区間
母集団の真の値が95%の確率で含まれると推定される範囲のことです。データのばらつきや標本サイズを考慮して計算され、推定値の精度を示す指標として用いられます。

この研究成果は、日本学術振興会 科学研究費助成事業による支援を受けて得られたものです。

【お問い合わせ先】

 大学院医系科学研究科 脳神経内科学
 Tel:082-257-5201 FAX:082-505-0490
 大学院生 江藤 太 (現 広島市立広島市民病院 脳神経内科)
 講師   祢津 智久
 E-mail:tomonezu*hiroshima-u.ac.jp
 (*は半角@に置き換えてください)
 


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