富川 光(とみかわ こう)
大学院人間社会科学研究科
教師教育デザイン学プログラム
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本研究成果のポイント
- 和歌山県の沿岸の潮間帯から新種のヨコエビが発見されました。
- 新種はパンダメリタヨコエビ(学名:Melita panda)と命名されました。
- 体は白と黒のパンダ模様。
- 本研究結果は、日本列島の沿岸環境における生物多様性の高さを示すひとつの成果です。
概要
和歌山県の沿岸の潮間帯から新種のヨコエビ、パンダメリタヨコエビ(学名:Melita panda)が発見されました。パンダメリタヨコエビは体の模様が白黒のパンダ模様という特徴的なカラーリングです。体長は5~8mmで、砂地の転石下に生息します。この種は以前より、西日本各地の沿岸からその存在が知られていましたが、分類が難しく、種が明らかではありませんでした。
今回、形態解析とDNAデータに基づく分子系統解析を行った結果、メリタヨコエビ属の新種であることが判明しました。
この新種の発見により、日本の沿岸域におけるメリタヨコエビ属の種多様性が、従来の研究で予想されていた以上に高いことが明らかになりました。
今後、パンダメリタヨコエビの生態や行動を詳しく調べることで、パンダ模様をもつ理由を明らかにできることが期待されます。
背景
- 日本沿岸は、世界でもヨコエビ類の種多様性が高いことで知られています。
- メリタヨコエビ属は世界で60種以上が知られる大きな分類群ですが、日本近海における分類学的研究は十分には行われてきませんでした。
研究成果の内容
- 今回、和歌山県と大阪府の沿岸の潮間帯でフィールド調査を行ったところ、白黒のパンダ模様をしたメリタヨコエビ属の未記載種が見つかりました。
- 本種の分類学的位置を明らかにするために、形態解析とDNAデータに基づく分子系統解析を行いました。
- 詳細な形態比較により、新種ヨコエビは特徴的なカラーリングや脚の形態により同属の全ての既知種から区別されることが分かったため、パンダメリタヨコエビ(学名:Melita panda)として記載・命名されました。
- 分子系統解析の結果、パンダメリタヨコエビは、比較的地味なグレーの体色のカギメリタヨコエビやビンゴメリタヨコエビに近縁であることが分かりました。
- 新種ヨコエビに特徴的なパンダカラーは、パンダメリタヨコエビの種分化にともなって獲得された形質である可能性が示唆されました。
今後の展開
- パンダメリタヨコエビの生態や行動を詳しく調べることで、パンダ模様をもつ理由を明らかにできることが期待されます。
- パンダ模様をもつ理由についてはよく分かっていませんが、捕食者から逃れるためのカモフラージュの役割を果たしていると考えられます。この種は交尾前に雄が雌を背中側から抱える行動(交尾前ガードといいます)を示します。興味深いことに、この雄が雌におんぶするように重なった交尾前ガードの状態でも雌雄の白黒模様はうまく重なって、カラーパターンが連続するのです.ふだんよりも動きが遅くなってしまう交尾前ガード中では、このパンダ柄のカラーリングが天敵の眼を欺くのに効果的なのだと考えられます。
パンダメリタヨコエビの交尾前ガードの様子で、向かって左が頭部(左が雌、右が雄)
- 未調査地域におけるヨコエビ類の分類学的研究を進めることで、さらなる新種の発見が予想されます。このような分類学的研究を続けることで、日本列島の沿岸環境における生物多様性の解明が期待されるとともに、種の保全に向けた重要な基礎データとなることが期待されます。
参考資料
本研究成果は、動物の新種記載論文を中心に掲載している国際学術雑誌ZooKeys(ブルガリア)に、2024年9月21日、オンライン掲載されました。
タイトル:Melita panda, a new species of Melitidae (Crustacea, Amphipoda) from Japan
著者:Ko Tomikawa, Shigeyuki Yamato and Hiroyuki Ariyama
巻・ページ:1212巻・267~283頁
年月日:2024年9月21日
DOI:https://doi.org/10.3897/zookeys.1212.128858
用語解説
- ヨコエビ : 最も大きな特徴は、体をヨコにして素早く動き回ること。多くの種類で体長約5mm〜1cm。生息地は非常に幅広い。最も多いのは海で、潮間帯などの浅い海から水深1万メートルを超えるマリアナ海溝まで生息するが、淡水環境、内陸環境に進出したグループもある。これまでに世界から約10000種、日本からは約400種が知られているが、毎年多くの新種が報告されており、調査が徹底すれば日本のヨコエビは1000種を超えると予想されている。富川教授含む研究チームは、これまでに、ペルー北部の温泉で新種(ヒアレラ・ヤシュマラ)を発見した。
- 潮間帯 : 干潟のように、潮の干満により干上がったり海の中になったりする場所。
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