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【研究成果】COPI-SNAREタンパク質の欠損はゴルジ体の集合化を引き起こす

本研究成果のポイント

  • ゴルジ体(※1)は細胞内の輸送に関わる重要な細胞小器官であり、その基本単位であるゴルジ層板(※2)は、哺乳類では核周辺に集合してゴルジリボン(※3)を形成する一方、ショウジョウバエなどでは分散していることが知られている。
  • 本研究では、ショウジョウバエにおいてCOPI-SNARE(※4)が欠損すると、分散していたゴルジ層板がトランスゴルジ網(※5)を中心に集合してゴルジリボンを形成することを明らかにした。

概要

 ゴルジ体は、扁平な膜袋が4層に積み重なったゴルジ層板を基本単位とします。1つの細胞内には多くのゴルジ層板が存在しますが、細胞内での分布は種によって異なっており、ショウジョウバエ・線虫・植物などでは、細胞質中に散在しているのに対して、哺乳類細胞では、核周辺部に集合しゴルジリボンと呼ばれる連続した構造を形成しています。
 小胞体とゴルジ体の間では密接な物質輸送を行っており、このうちゴルジ体から小胞体への輸送を行っているのがCOPI小胞で、膜融合タンパク質(COPI-SNARE)により小胞体に融合します。
 広島大学大学院統合生命科学研究科の佐藤明子教授らのグループと理化学研究所の豊岡公徳研究チームは、本研究においてショウジョウバエ視細胞でCOPI-SNAREを欠乏させると、散在していたゴルジ層板が集合化することを発見しました。佐藤等は以前の研究でゴルジ体から細胞膜への輸送小胞の形成を阻害するとゴルジ層板が集合化することを報告しました (Fujii et al 2020 JCS)。これらの結果をあわせて考えると、ゴルジ体からの小胞形成による膜やタンパク質の搬出がゴルジ層板を散在させる役割を持つことを示唆しています。この発見は、ゴルジ層板の集合に関する新しいメカニズムの理解につながります。
 

論文情報

  • 掲載雑誌名: Frontiers in Cell and Developmental Biology
  • 論文名: Golgi clustering by the deficiency of COPI-SNARE in Drosophila photoreceptors
  • 著者名: Tago T., Yamada Y., Goto Y., Toyooka K., Ochi Y., Satoh T. and Satoh AK.
  • DOI: 10.3389/fcell.2024.1442198
  • 掲載日時: 2024 Sep 04

背景

 ゴルジ体はシス槽、メディアル槽、トランス槽、トランスゴルジ網が積み重なったゴルジ層板(Golgi stack)を基本単位とし、1つの細胞内には10-100以上ものゴルジ層板が存在します。このゴルジ層板の細胞内での分布は種によって異なっており、ショウジョウバエ・線虫・植物などでは、細胞質中に散在しているのに対して、哺乳類細胞では、核周辺部に集合し、ゴルジリボンと呼ばれる連続した構造を形成しています。現在、ゴルジリボン形成の意義とメカニズムは明らかとなっていません。
 細胞内の輸送はタンパク質が選択的に積み込まれた小胞のやり取りによって行われています。小胞体からゴルジ体に輸送される小胞にはCOPIIコートタンパク質が用いられることからCOPII小胞、逆にゴルジ体から小胞体に輸送される小胞はCOPIコートタンパク質が用いられることからCOPI小胞と呼ばれています。形成された小胞が目的の細胞小器官に融合する際にはSNAREタンパク質が必要ですが、COPII小胞とCOPI小胞では異なる種類のSNAREタンパク質が利用されており、各々 COPII-SNARE・COPI-SNAREと呼ばれています。SNAREタンパク質が融合の際にどのように機能するかはよく調べられてきましたが、その欠損がゴルジ体の形態にどのような影響を及ぼすのか、その詳細についてはまだ調べられていませんでした。

研究成果の内容

 本研究では、ショウジョウバエ視細胞において小胞体からゴルジ体への輸送(順行性輸送)に重要なCOPII-SNAREとゴルジ体から小胞体への輸送(逆行性輸送)に重要なCOPI-SNAREをそれぞれ欠乏させ、共焦点レーザー顕微鏡や電子顕微鏡により観察しました。その結果、COPII-SNARE欠乏下ではゴルジ酵素が小胞体に移行し、ゴルジ層板が散在したまま小胞集団へと変化すること、また、COPI-SNARE欠乏下ではTGNを中心にゴルジ層板が集合しゴルジリボンを形成することを発見しました。順行性輸送の欠損によりゴルジ体が小胞集団化することは以前にも報告がありますが、逆行性輸送の欠損がゴルジ層板を集合化させゴルジリボン形成を促進することは本研究が初めての報告です。

今後の展開

 哺乳類におけるゴルジ層板の集合化には微小管が必要ですが、近年、微小管が正常に形成されていても、ある種の生理学的条件下や、ALS、パーキンソン病、アルツハイマー病といった神経変性疾患による病理学的条件下では、ゴルジ層板が散在することが明らかとなってきました。これらのことから、哺乳類におけるゴルジ層板の集合に関して微小管以外の要因があることが明らかとなっており、そのメカニズムと機能が注目されています。また、COPIコートサブユニットの欠損が遺伝性自己免疫・自己炎症性疾患を引き起こすことも報告されました。今後はこれらの病態とゴルジ体の集合性・COPIの機能の関連を検討していくことで疾患の診断や早期治療に貢献していきたいと考えています。

参考資料

図 COPI-およびCOPII-SNARE欠乏視細胞におけるゴルジ層板の構造変化。COPII-SNARE欠乏では、ゴルジ層板はCOPII小胞と同じ直径の小胞クラスターに変化した(左)。一方、COPI-SNARE欠乏では、ゴルジ層板は横に長く伸び、ゴルジリボン様構造を示すか、TGNの周りに集合した(右)。これらのゴルジリボン様または集合したゴルジ層板は、COPI小胞の直径を持つ小胞を伴っていた。

用語説明

(※1) ゴルジ体
ホルモンや消化酵素などの分泌タンパク質や膜タンパク質の生合成に必要な細胞小器官であり、一端(シス面)から新規タンパク質を受け取り、もう一端(トランス面)からタンパク質を送り出す。

(※2) ゴルジ層板(Golgi stack)
ゴルジ体の基本単位。シス嚢,メディアル嚢,トランス嚢,トランスゴルジ網が積み重なったパンケーキ状の構造をしており、1つの細胞内に10-100以上も存在する。

(※3) ゴルジリボン
哺乳類においてゴルジ層板が微小管によって核周辺に集合し、さらにゴルジ層板同士が連結し合って形成する高次構造体。

(※4) COPI-SNARE
COPIコートタンパク質により形成されたCOPI小胞の小胞体への融合に必要なSNAREタンパク質のこと。SNAREタンパク質は小胞とターゲット膜との特異性の認識と、その後の融合に必要な因子と考えられている。

(※5) トランスゴルジ網(Trans Golgi Network: TGN)
ゴルジ体の最もトランス側に存在する網目構造の膜。様々な細胞小器官や細胞膜ドメインへ向かう小胞が形成される区画であり、膜タンパク質が選別されて小胞へと詰め込まれている。

(※6) 微小管
細胞中に見いだされる直径約25nmの管状の構造であり、主にチューブリンと呼ばれるタンパク質からなる。
 

【お問い合わせ先】

大学院統合生命科学研究科 佐藤明子
Tel: 082-424-6507
E-mail: aksatoh*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください。)


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