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【研究成果】世界発!理論上は可能とされた“らせん構造”を実現ー分子が自発的につくるナノチューブ構造、未来の材料開発に光ー

本研究成果のポイント

  • 世界初:Aib[1]のみからなるペプチド[2]が与えるαヘリックス[3]の結晶構造を実証
  • 自己組織化[4]によるナノスケール“超らせん状チューブ”の構築
  • 分子設計による構造スイッチングの実現可能性を提示

概要

 広島大学持続可能性に寄与するキラルノット超物質国際研究所(WPI-SKCM2)の佐藤弘志特任教授と理化学研究所創発物性科学研究センター(CEMS) 創発ソフトマター機能研究グループの相田卓三グループディレクター(東京大学卓越教授)らの共同研究グループは、理論的には可能とされながらも、これまではっきりとは確認できていなかった人工アミノ酸由来の“αヘリックス構造”を、初めて結晶構造として明らかにすることに成功しました。この成果は、分子が自己組織化してナノサイズのチューブ構造を作るという新しい材料設計の可能性を示すとともに、通常は不安定で安定に取り出すことが不可能な化学種をネットワーク構造(金属–有機構造体(MOF:Metal–Organic Framework)[5])に埋め込むことで安定化できるという新たなコンセプトを提示するものです。

 本研究は、化学雑誌『Journal of the American Chemical Society』の掲載に先立ち、オンライン版に5月15日に掲載されました。

論文情報

  • 論文のタイトル:An α-Helically Folded α-Aminoisobutyric Acid (Aib) Oligomer that Assembles into a Metal–Peptide Superhelical Nanotube
  • 著者: Wei Yuan, Jenny Pirillo, Yuh Hijikata, Takuzo Aida, Hiroshi Sato
  • 掲載雑誌:Journal of the American Chemical Society
  • DOI:https://doi.org/10.1021/jacs.5c03534 
     

 本研究は科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR221T)、および 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(18H05260、20H02705、24K01463)の支援により行われました。

背景

 私たちの体を構成するタンパク質は、アミノ酸が鎖状につながった「ペプチド」が複雑に折りたたまれてできています。こうした折りたたみ(立体構造)は、生命活動に必要な機能を発揮するために不可欠な要素です。その中でも特に「αヘリックス」と呼ばれる、らせん状の構造は、多くのタンパク質で見られる重要な立体構造です。一方で、「Aib(α-アミノイソ酪酸)」というアミノ酸は、天然には非常にまれにしか存在せず、αヘリックスとは少し異なる「310ヘリックス[6]」という構造をとりやすいことが知られています。これまでの研究でも、Aibを含むペプチドが310ヘリックスを形成する例は数多く報告されていましたが、“Aibだけで構成されたペプチドがαヘリックス構造をとる”というのは、理論的には予測されていたものの、これまで実際にはっきりと観測されたことは一度もありませんでした。

研究成果の内容

 本研究では、Aibを6個連結し、その両端に金属イオンと結合可能なピリジル基という部分を導入したペプチド(Py-Aib6-Py)に、亜鉛イオン(Zn²⁺)および別の有機分子(5-ニトロイソフタル酸)を加え、溶液中でゆっくり結晶化させる(図1a)という手法を用いることで、このペプチドが明確なαヘリックス構造をとり、さらにそれが自己集合して“超らせん状ナノチューブ”を形成する様子を初めてX線結晶構造解析[7]で確認しました。この成果は、これまで“実現できない”とされてきた分子の折りたたみ構造を、金属と有機分子の精巧な組み合わせで誘導できることを示した重要な一歩であり、「ペプチドのような構造柔軟性をもつ分子がどのように折りたたまれるか」を自在に制御する技術への道を開くものです。

 完成したナノチューブ構造(AibMOF-1)は、直径約2ナノメートルのサイズで、内側と外側に複数のチャネル構造(通路)を持つ多孔性構造(空隙率45%)となっており、分子を選択的に取り込む「フィルター」のような性質を示します。

 

図1.人工アミノ酸Aibペプチドが与えるらせん構造から作られる結晶

今後の展開

 将来的には、医薬品の輸送やセンサー、ガス分離材料などへの応用が期待されます。また、合成条件をわずかに変えるだけで、310ヘリックス構造へと折りたたまれた構造になる(図1b)ことも示され、分子の設計における新たな可能性が示唆されました。

用語解説

[1] Aib(α-アミノイソ酪酸)
炭素の周りに大きな“かさばる”置換基を持っており、分子を強制的に折りたたむ性質を持つ。

[2] ペプチド
アミノ酸が数個〜数十個つながった分子。タンパク質の“素”のようなもので、生体内でも重要な役割を果たす。

[3] αヘリックス(アルファヘリックス)
タンパク質の中でよく見られる、らせん状の立体構造のこと。髪の毛を巻いたような形で、アミノ酸の鎖がきれいに折りたたまれてできている。

[4] 自己組織化
分子が外部からの指示なしに、自然と一定の構造を作る現象。まるで玩具のブロックが自動的に組み上がるようなもの。

[5] 金属–有機構造体(MOF:Metal–Organic Framework)
金属イオンと有機分子が規則的につながった構造体。多孔性(たくさんの小さな穴)を持ち、ガス吸着や分離、触媒などに使われる。

[6] 310ヘリックス(スリー・テン・ヘリックス)
αヘリックスに似たらせん構造だが、1回転あたりの巻き方が少し異なる。アミノ酸「Aib」はこちらを作りやすい。

[7] X線結晶構造解析
原子の3次元的な整列状態を調べる方法。X線を結晶に当て、結晶構造を可視化する。

 

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
 広島大学 持続可能性に寄与するキラルノット超物質国際研究所(WPI-SKCM2) 特任教授 佐藤 弘志
 Tel:082-424-7246
 E-mail:hirosato[at]hiroshima-u.ac.jp

<報道に関すること>
 広島大学 広報室
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 E-mail:koho[at]office.hiroshima-u.ac.jp

 理化学研究所 広報部 報道担当
 Tel:050-3495-0247
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 東京大学 経営企画部国際戦略課 東京カレッジチーム
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