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2025年5月28日、エジプト・アラブ共和国の元観光・考古大臣であり、現在ユネスコ事務局長候補でもあるハーリド・エルエナーニー氏をお招きし、記念講演会を開催しました。会場には、本学の学生や教職員約80人が集まり、講演に熱心に耳を傾けました。
ハーリド・エルエナーニー氏は、2023年4月の正式立候補以降、アフリカ連合およびアラブ連盟の支持を受け、55カ国以上を歴訪。政府関係者、市民社会、若者、学術・文化機関、ユネスコ関係者との幅広い対話を重ねながら、「UNESCO for the People(人々のためのユネスコ)」というビジョンを構築してきました。この構想は、包摂性・現実性・連帯を柱に、21世紀の多様な課題に立ち向かうユネスコの新たな役割を示すものです。
今回の訪日は、そうしたグローバル対話のキャンペーンの一環として実現したものであり、日本での講演先として、被爆地・広島に立地する唯一の国立総合研究大学である広島大学が選ばれました。日本はエルエナーニー氏にとって55か国目の訪問国であり、講演に先立って広島平和記念公園および広島平和記念資料館を訪問。「これまで映像や書物で知っていた広島の出来事を、実際に現地で見て感じたことで、平和の重みをより深く体感した」と述べました。
講演会では、「古代エジプトにみるユネスコ(UNESCO in Ancient Egypt)」をテーマに登壇し、古代文明に根差す平和、教育、科学、文化、多様性といった価値が、現代ユネスコの使命とどのように結びついているかを情熱的に語りました。
冒頭では、ユネスコが1945年に設立された背景として、「戦争は人の心の中で生まれるものであり、平和もまた人の心の中に築かれねばならない」という設立理念が紹介されました。教育・科学・文化を通じた平和の構築というユネスコの原点は、古代エジプトの精神とも響き合うとし、真理と正義・秩序を象徴する女神マアト(Maat)や、世界最古の平和条約などを通じて、古代エジプトにおける倫理観・平和観が現代に通じる知の遺産であることが語られました。
さらに、古代エジプトにおける教育、科学技術、医療、建築、天文学といった多岐にわたる高度な知的営みについても紹介がありました。紀元前の時代には、すでに読み書きの教育制度が整っており、子どもたちは日々の訓練を通じて知識を習得していたとされています。また、身体的に特別な配慮を必要とする人々や女性、外国人に対しても、社会の一員として尊重され、役割が与えられていたことが強調されました。こうした古代の知と包摂の伝統は、現代のユネスコが目指す「持続可能な平和」の理念と深くつながっていると語られました。
講演では、2023年から展開している事務局長選挙キャンペーンについても言及。「UNESCO for the People(人々のためのユネスコ)」をスローガンに掲げ、教育を通じた平和の再構築、国際連携の強化、資金基盤の多様化、ユネスコの脱政治化と再ブランド化を重点方針として掲げていることを紹介しました。特に、UNESCOの活動の57%が教育分野に充てられていることに触れながら、女子教育やグローバル市民教育の推進、民間とのパートナーシップによる資金確保の重要性を訴えました。また、歴代11人の事務局長にアラブ出身者がいないことを指摘し、当選すればアラブ諸国では初、アフリカからは2人目の事務局長となることに言及。文化的多様性をユネスコのリーダーシップにも反映させる意欲を示しました。
質疑応答では、学生から「UNESCO事務局長になった場合、何に最も注力したいか」との質問が寄せられ、まずは加盟国との政治的連携の強化を挙げ、パリの本部だけでなく各国首都レベルでの協力を重視する方針が語られました。その上で、「平和教育(Peace Education)」を最優先課題とし、人権・グローバル市民意識・持続可能な開発の価値を子どもたちに伝えるための教育環境づくりに取り組む考えを示しました。
そして最後に、「教育こそが憎しみを超える力であり、平和の根源である」と力強く語り、教育と文化の力によって分断を乗り越える未来の可能性を提示。講演は、古代エジプトの知の遺産と現代のUNESCOの使命とを有機的に結び付け、国際的視野から平和の意味を見つめ直す貴重な機会となりました。
感謝状の授与

記念品の贈呈
記念撮影
質疑応答の様子
広島大学グローバル化戦略グループ