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【研究成果】薬用植物と植物乳酸菌を組み合わせて発酵された液が、 小麦アレルギーの症状を抑えられることを発見!

本研究成果のポイント

 薬用植物と植物乳酸菌を組み合わせて発酵させることで、小麦アレルギーの症状を抑える新たな保健機能性が付与されることを発見しました。今後、機能性食品や医薬品への応用が期待されます。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科 未病・予防医学共同研究講座(杉山 政則 教授)では、薬用植物「白朮(ビャクジュツ)」の抽出液を植物由来の乳酸菌で発酵させることで、小麦アレルギーの原因物質「グリアジン」によるアレルギー症状を抑える新たな生物活性が付与されることを発見しました。マウス実験では、アナフィラキシー症状の軽減や炎症反応の正常化が確認され、今後は機能性食品や医薬品への応用が期待されています。今回の研究成果は国際学術雑誌『Nutrients』に、2025年3月26日に掲載されました(Q1, IF4.8)。

発表論文

・論文名:Atractylodes Japonica Rhizome extract fermented with a plant-derived Lacticaseibacillus paracasei (Lactobacillus paracasei) IJH-SONE68 improves the wheat gliadin-induced food allergic reaction in mice
・著者名:Ma Q1, Noda M1, Danshiitsoodol N1, Sugiyama M1,*
 1:広島大学 大学院医系科学研究科 未病・予防医学共同研究講座
 *:責任著者
・掲載雑誌名:Nutrients
・DOI:10.3390/nu17071151  Q1 journal
 

背景

 小麦は世界中で食されていますが、重度のアレルギー症状を引き起こすアレルゲンにもなっています。グルテン不耐症(過敏症)とは、グルテンの中に含まれるグリアジンという成分に過敏に反応して、身体にあらゆる症状を発生させるもので、近年では国内外で有病率が増加傾向にあります。
グリアジンは難水溶性タンパク質であるプロラミンの一種であり、特に、WDEIA(小麦を食べた後に運動することで引き起こされるアナフィラキシー)の原因物質として特定されています。WDEIAは小麦の口腔摂取のみでははっきりとした症状が現われないことから、認識されにくいので、小麦アレルギー有病率は過小評価されています。
 このようなアレルギーに対する改善策の一つとして、「漢方薬」があります。例えば、薬用植物の一種マオウから分離した化合物の「エフェドリン」は咳止め薬として利用されています。このように薬用植物に含まれる有機化合物に関する研究は大学や製薬企業で進められてきました。

 世界最古の文明が発祥したメソポタミアで、「植物を病気の治療薬として用いた」との記録が残っています。本研究で用いた「薬用植物」には、ポリフェノール、食物繊維、配糖体などのさまざまな化合物が含まれています。漢方薬が未病改善、並びに病気の予防や治療を目的として使われてきたことも、その事実を反映しています。

研究成果の内容

 私たちの研究室で以下の現象を見出しました。例えば、乳製品の製造に用いられる動物由来の乳酸菌は薬用植物エキス中で増殖できませんが、植物乳酸菌は活発に増殖できることを発見しました。今回、薬用植物エキスを植物乳酸菌で発酵させることで、新たな保健機能性を調査しました。具体的には、植物乳酸菌ライブラリーとして保存している各種の乳酸菌株を各薬用植物エキスで培養し、小麦アレルギーを改善できるか否かスクリーニングしました。その結果、小麦のアレルゲンである「グリアジン」に対するアレルギーを示すマウスを用いた動物実験で、アレルギー症状を低減化させるのにふさわしい、生薬エキスと使用する植物乳酸菌株との組み合わせを見出しました。

 本研究では、白朮(ビャクジュツ;根茎)の抽出液をイチジク葉由来の乳酸菌Lactobacillus paracasei IJH-SONE68で発酵させ、得られた発酵液を実験動物に摂取させました。白朮は中国原産の薬用植物で、漢方として使用することで胃腸の働きを助けたり、身体のだるさやむくみをとってくれる効果があります。
具体的には、「グリアジン」投与でアレルギー症状を惹起させたマウスに発酵液を経口投与すると、その症状が有意に抑制されました。すなわち、本発酵液は、グリアジンで誘発させた「全身性アナフィラキシー症状」を低減化させるともに、炎症性サイトカインの分泌バランスを正常化することがわかりました(参考資料)。

今後の展開

 腸内細菌によって代謝されると、薬用植物に含まれる生物活性物質の量が変化したり、化合物が新たに生成したりします。従って、安全性の担保された植物乳酸菌株を用いた薬用植物エキス発酵液は、機能性食品や医薬品開発において利用ができるので、各種薬用植物と植物乳酸菌株との組み合わせ発酵を探索することを通じて、予防医学や創薬に寄与したいと考えています。今後は、医師主導型の臨床研究及び製薬企業と連携して、医薬品としての上市を模索していく予定です。

参考資料

図1:未発酵およびIJH-SONE68株発酵の白朮抽出液を小麦アレルギーモデルマウスに摂取させた場合におけるアナフィラキシー症状の変化
 

図2:未発酵およびIJH-SONE68株発酵の白朮抽出液を小麦アレルギーモデルマウスに摂取させた場合における血液中のIgE濃度(アレルギーで上昇)と、IFN(インターフェロン)-γおよびIL(インターロイキン)-4濃度(ともに免疫応答のバランスを調節)の変化

図3:本研究成果の概略図

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学大学院医系科学研究科 未病・予防医学共同研究講座
共同研究講座教授 杉山 政則
Tel:082-257-5280 FAX:082-257-5284
E-mail:sugi@hiroshima-u.ac.jp
<広報に関すること>
広島大学広報室
Tel:082-424-4383
E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp


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