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【研究成果】すい臓がんの手術前に行う化学療法の回数と、治療後の体力が関係することを明らかにしました

本研究成果のポイント

 すい臓がんの手術前に行う抗がん剤治療や放射線治療の回数が多いと、治療後の体力低下を引き起こしやすくなることがわかりました。

概要

 広島大学を中心とする研究チームは、2020年1月から2021年12月の間にすい臓がん手術前の術前化学療法(手術の前に行う抗がん剤治療や放射線治療)を実施した17人の患者を対象とし、術前化学療法中の身体機能(握力と持久力)を評価しました。
 その結果、握力、6分間歩行距離ともに術前化学療法前後で変化は認めず、全体的には身体機能が維持されていました。ただし、握力、6分間歩行距離が低下した患者では、術前化学療法の実施回数が多いことがわかり、術前化学療法の実施回数が多い患者では身体機能低下を予防する術前リハビリテーション(プレハビリテーション)が必要であることが示唆されました。    
 本研究成果は、日本時間2025月6月29日に、Integrative Cancer Therapies 誌に掲載されました。  

 

背景

 すい臓がんは致死率の高い癌のひとつであり、日本における5年生存率(病気と診断されてから5年後に生存している割合)は約12%に留まります。
 すい臓がんは手術によって直接がんを取り除く治療を行いますが、がんが周囲の血管(動脈や静脈など)を浸食していたりする場合、手術が難しいことがあります。
 すい臓がんにはいくつかの分類がありますが、その中のひとつに「BRPC(切除境界膵がん)」があります。BRPCとは、腫瘍が主要血管に接している状態のことで、手術で切除できる可能性がある一方、再発のリスクが高いため術前化学療法(手術の前に行う抗がん剤治療や放射線治療)により、腫瘍を縮小してから手術を行うことが一般的な戦略とされています。しかし、術前化学療法には身体的負担が伴うため、治療中の身体機能低下が術後回復や予後に悪影響を及ぼすリスクが懸念されていました。
 

研究成果の内容

 本研究は、2020年1月から2021年12月までに術前化学療法および手術を受けたBRPC患者17人(男性8人、女性9人、中央値年齢70.0歳)を対象に実施されました。患者の身体機能は、術前化学療法前後で「握力」と「6分間歩行距離(6MWT)」を用いて評価されました。

 全体の結果としては、術前化学療法による身体機能の有意な低下は認められませんでした。(握力:術前化学療法前 22.0kg → 術前化学療法後 21.5kg、P = 0.619)、(6分間歩行距離:術前化学療法前 477.0m → 術前化学療法後 502.0m、P = 0.298)
 全対象17人のうち、身体機能が低下したと判定された6人(約35%)では、平均術前化学療法回数が5.0回と、機能を維持した11人(約65%)の2.0回(±0.6)に比べて有意に多く、P = 0.042という統計的有意差が認められました。また、治療期間の中央値は機能維持群で58.0日(52.0–63.0)、機能低下群で81.5日(61.3–96.5)と、術前化学療法の長期化も身体機能低下と関連する可能性が示唆されました(P = 0.073)。
 この結果は、術前化学療法の累積回数が身体機能に影響を与えることを示唆しており、術前化学療法中のリハビリテーション(プレハビリテーション)の導入といった戦略が不可欠であると考えられます。
 

今後の展開

 本研究は、BRPC患者において術前化学療法の回数が増えると、術後の体力低下を引き起こすことを明らかにし、BRPC治療における術前化学療法と身体機能維持のバランスがいかに重要かを示しました。
 
 今後は、以下のような展開が期待されます:
1.    個別化医療の推進:年齢・体力・栄養状態などを踏まえた治療計画の策定
2.    プレハビリテーションの導入:運動・栄養・心理支援を治療前から実施する取り組み
3.    前向き研究の実施:本研究の結果を基に、大規模かつ多施設共同の臨床研究によるエビデンスの強化
 

参考資料

論文名:Impact of Preoperative Chemotherapy on Physical Function in Patients With Borderline Resectable Pancreatic Cancer: A Retrospective Study
著者:幸田剣1、浅枝諒2,3※、中島勇樹2、荒木武弥3、川崎真嗣4、石田礼乃5、長尾拓海5、前田慶明5、浦辺幸夫5、三上幸夫3
1.    和歌山県立医科大学リハビリテーション医学
2.    広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門
3.    広島大学病院リハビリテーション科
4.    和歌山県立医科大学附属病院リハビリテーション部
5.    広島大学大学院医系科学研究科スポーツリハビリテーション学
※ 責任者著者
掲載雑誌:Integrative Cancer Therapies
DOI:10.1177/1534735425134977

図1 術前化学療法前後における身体機能の比較

図2 身体機能維持・低下群における術前化学療法回数の比較

【お問い合わせ先】

病院リハビリテーション科 教授 三上幸夫
Tel:082-257-5566 FAX:082-257-5594
E-mail:mikamiy@hiroshima-u.ac.jp

病院診療支援部リハビリテーション部門 理学療法士 浅枝諒
Tel:082-257-5566 FAX:082-257-5594
E-mail:asaedam@hiroshima-u.ac.jp


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