広島大学 広報室
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2025年10月18日、霞キャンパス凌雲棟にて第99回広島大学講演会を開催し、歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏をお招きして、「西洋の道徳的危機に直面する今日の日本」と題してご講演いただきました。また、越智学長との対談も行われました。
トッド氏には、2024年11月2日に開催された「広島大学創立75+75周年 記念式典」での講演が予定されていましたが、体調不良により延期となっていました。1年越しの再訪となった今回は、「必ず伺う」との約束どおり、広島の地に足を運んでくださいました。
講演では、33年ぶりの広島訪問を通じて、平和記念資料館や宮島から受けた強い印象とともに、核兵器の脅威や世界の価値観の変化について語られました。かつて西洋は自由・平等・平和を重視していましたが、現在は脱工業化や教育の衰退、宗教の消失(宗教意識の希薄化)により人々の価値観が崩れ、ニヒリズム(虚無主義)が広がっていると指摘。ウクライナやガザの戦争では、「西側諸国が加害者であるにもかかわらず、自らを正義と信じており、危機感をもっている」と語られました。
また、宗教の消失が道徳の崩壊を招き、個人の孤立や社会の分断を生んでいると分析。特にプロテスタント文化圏ではニヒリズムの影響が強く、戦争への傾倒が見られると述べました。一方、日本は宗教の多様性や美への感性を保たれており、ニヒリズムに陥る危険性が低いと評価されました。
越智学長との対談では、日本の核武装について意見を交わしました。越智学長は「核兵器を持つことはリスクが高く、広島の歴史的背景からも心理的に非常に苦しいことであり、持つことはできない」と反対の立場を表明。一方トッド氏は、「日本がアメリカの核の傘に守られているというのは幻想であり、核兵器による恐怖の均衡が平和につながる」と述べ、異なる視点から議論が展開されました。
当日は本学の学生や教職員ら約240人が参加し、講演と対談に熱心に耳を傾けました。講演後には、越智学長より感謝状と記念品が贈呈されました。
越智学長は冒頭、「アカデミアの世界では、お互いの意見を聞き合い、周囲と考えをすり合わせていくことが大切だ」と述べました。今回の講演会は、異なる立場を持つ二人の対話を通じて、平和の本質やその実現に向けた思索を深める貴重な機会となりました。参加者にとっても、世界の現状を多角的に捉え、自らの立場を見つめ直す良い契機になりました。
1年越しの開催を歓迎する越智学長
穏やかな口調ながら、言葉には確かな力がこもるトッド氏
異なる立場をもつ学長とトッド氏の対談
参加者の質問にも対応
トッド氏の発言に聞き入る参加者
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掲載日 : 2025年10月24日
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