大学院医系科学研究科医化学講座 中津 祐介
Tel:082-257-5138
E-mail:nakatsu@hiroshima-u.ac.jp
本研究成果のポイント
・代謝機能障害関連脂肪肝炎 (MASH)の発症にPin1という酵素が関与することを明らかにしました。現時点では、ほとんど治療薬のない病気に対し、新たなアプローチでの治療法開発が期待されます。
概要
広島大学大学院医系科学研究科医化学講座の中津 祐介 准教授、浅野 知一郎 名誉教授を中心とした研究グループは、プロリン異性化酵素Pin1がMASHの発症に重要であることを明らかにしました。この病気は現時点で有効な治療薬がないのですが、今回の発見により、今後、Pin1を標的としたMASH治療法の開発につながる可能性があります。
論文タイトル:
Pin1 mediates metabolic dysfunction-associated steatohepatitis in mice fed high-fat, high-cholesterol diet by regulating both PPARα and acetyl CoA carboxylase.
掲載雑誌:Biochim. Biophys. Acta. Mol. Basis Dis. (2026年2月号に掲載)
著者:1中津 祐介、2佐野 朋美、1中西 魅加子、3松永 泰花、1, 4神名 麻智、
2兼松 隆、1浅野 知一郎
1. 広島大学大学院医系科学研究科医化学講座
2. 九州大学大学院歯学研究院口腔機能分子科学分野
3. John W. Deming Department of Medicine, Tulane University School of Medicine,
4. 山陽小野田市立山口東京理科大学工学部機械工学科
背景
代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)とは、肥満や糖尿病などの生活習慣病が原因で肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や線維化(傷)が起こる病気です。近年、患者数が増加しており、放っておくと肝癌につながる可能性があるため、早期の治療が重要ですが、現時点では生活習慣の改善や体重の減少などの手段しかなく、決定的な治療薬は存在しません。
決定的な治療薬がない原因の一つとして、MASHがどのようにして発症するのかがまだ十分に分かっておらず、病気のどの部分を薬で狙えばよいのかはっきりしない点が挙げられます。
そのため、MASHの発症に関わる新しい原因(因子)を見つけることが求められていました。
研究成果の内容
本研究では、Pin1という酵素が、上述したMASHの原因である可能性について調べるため、肝臓の大部分を占める肝細胞からPin1を取り除いたマウスを用いて解析を行いました。普通のマウスに高カロリーな餌を長期間与えると、肥満とともにMASHを発症します。一方、Pin1を取り除いたマウスに同じ餌を与えても肥満やMASHになりにくいことがわかりました。
そこで、その原因を調べたところ、Pin1がPPARというたんぱく質の働きを妨げていることがわかりました。PPARは肝臓で脂肪を分解したり、エネルギーの消費を促すホルモン「FGF21」を作るように促す働きがあるのですが、Pin1がPPARの機能を抑制することで、肝臓で脂肪が蓄積しやすくしていることを明らかにしました。さらに、Pin1には肝臓で脂肪を作り出す働きをもつ「アセチルCoAカルボキシラーゼ」という酵素を増やす働きもありました。
つまりPin1は、肝臓で脂肪の分解を妨げると同時に脂肪の合成を促す働きをもつため、肥満やMASHの発症に関与していることがわかりました。
今後の展開
今回の研究は、マウスを用いて肝臓のPin1を欠損させると肥満やMASHが改善することを明らかにしました。今後は、Pin1の選択的阻害剤の開発やPin1の阻害剤が肥満やMASHを改善するかを検討する必要があります。
謝辞
本研究は、科学研究費補助金(研究代表者:中津 祐介、浅野 知一郎、佐野 朋美)、土谷記念医学振興基金(研究代表者:中津 祐介)、山口内分泌疾患研究振興財団(研究代表者:中津 祐介)、薬理研究会(研究代表者:中津 祐介)、朝日生命成人病研究所研究助成(研究代表者:中津 祐介)、持田記念医学薬学振興財団(研究代表者:中津 祐介)の支援で行われました。
また、広島大学からの論文掲載料の支援を受けています。
参考資料
本研究の概略図

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