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【研究成果】肺が硬くなる病気を防ぐヒントは“遺伝子の調整役”にあった! ―マイクロRNA『miR-26a』を全身から無くすと 肺線維症を防げることを発見―

本研究成果のポイント

  • マイクロRNA*1(miR)の1つであるmiR-26aを持たないマウスでは肺が硬くなる変化(線維化)が起きにくいことを世界で初めて報告しました。
  • 本研究の成果によって、miR-26aを標的とした新たな線維化治療の開発につながることが期待されます。
     

概要

 広島大学大学院 医系科学研究科 分子内科学の濱田 亜理沙大学院生、下地 清史助教、中島 拓講師、服部 登教授は、同大学病院 未来医療センターの 味八木 茂教授(現 香川大学医学部 組織細胞生物学講座 教授)、免疫学の 保田 朋波流教授らと共同で研究を行い、「miR-26aが全身で欠損すると肺線維症が軽度になること」を発見し、そのメカニズムについて新たな知見を蓄積しました。この研究成果は肺線維症に対するマイクロRNAを使用した治療を開発する上で大きく貢献すると期待されます。
 本研究は、JSPS地域中核・特色ある研究大学強化促進事業JPJ00420230011の支援を受けたもので、研究成果は2025年11月4日に国際学術雑誌である『Molecular Therapy – Nucleic Acids』オンライン版に掲載されました。
また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。

発表論文

・ 論文名:Systemic miR-26a deficiency attenuates pulmonary fibrosis via PTEN upregulation and downstream TIMP-1 suppression
・ 著者名:Arisa Hamada1#, Kiyofumi Shimoji1#, Taku Nakashima1*, Kakuhiro Yamaguchi1, Shinjiro Sakamoto1, Yasushi Horimasu1, Takeshi Masuda1, Hiroshi Iwamoto1, Hironobu Hamada2, Yun Guo3, Tomoharu Yasuda3, Shigeru Miyaki4,5,6, and Noboru Hattori1
1:広島大学大学院医系科学研究科 分子内科学 2:同 生体機能解析制御科学
3:同 免疫学 4:同 整形外科学 5:広島大学病院 未来医療センター
6:香川大学医学部 組織細胞生物学
#:筆頭著者、*:責任著者
・ 掲載雑誌名:Molecular Therapy – Nucleic Acids(Q1)
・ DOI:10.1016/j.omtn.2025.102765

背景

 肺線維症は、もともとスポンジのように柔らかいはずの肺が少しずつ硬くなってしまう病気です。だんだんと呼吸がしにくくなり、現在も完全に治す方法のない難病です。
細胞の中では、遺伝子の働きを抑えるマイクロRNA(miR)と呼ばれる小さな核酸があり、遺伝子のスイッチを調整しています。最近ではこのマイクロRNAも線維化に関わることが分かってきましたが、どのマイクロRNAがどのような仕組みで線維化を引き起こすのかまだ十分に明らかになっていません。
 これまでの研究で、miR-26aというマイクロRNAを肺から無くすと、線維化が悪化するということが分かっており、そこからmiR-26aには“線維化を抑える働きがある”と考えられていました。しかし、肺だけではなく全身からmiR-26aが無くなった場合にどうなるのかはわかっていませんでした。
 そこで本研究では、全身からmiR-26aを無くした場合、肺線維症にどのような影響が出るのかを調べ、その仕組みを明らかにすることを目的としました。

研究成果の内容

「全身でmiR-26aが無くなると肺が硬くならない」
 本研究では、全身のmiR-26aを無くしたマウスと普通のマウスを用いてブレオマイシン*2による肺線維症モデルを作製し比較しました。すると、全身のmiR-26aを無くしたマウスではブレオマイシンを投与しても肺がほとんど硬くなりませんでした。さらに詳しく調べると、炎症の程度は普通のマウスとほぼ同じで、炎症の強さが違うから線維化が軽くなったわけではないことがわかりました。

「鍵は PTEN と TIMP-1」
 RNAシーケンス*3を行って詳しく調べると、全身のmiR-26aを無くしたマウスではブレオマイシンを投与した後に細胞の信号を抑えるタンパクPTENが増えており、その結果、線維化を進めるTIMP-1というタンパクが減ることがわかりました。

今後の展開

 今回の研究は、これまでに言われていた「(肺の一部で)miR-26aが無いと線維化が悪くなる」という報告とは逆に「(全身で)miR-26aが無いと線維化が軽くなる」という新しい視点を提示しました。これは、マイクロRNAが働きかける細胞の種類によって、肺での反応が大きく変わる可能性を示しています。今後、どの細胞でmiR-26aを抑えると効果が出るのかを詳しく調べることで、肺線維症の新しい治療につながる可能性があります。

参考資料

本研究の要旨

用語説明

*1 マイクロRNA:20〜25塩基程度の短いRNAで、標的となる遺伝子が
つくられる量(発現)を抑えることで、細胞の機能や病気の進行に影響を与える。

*2 ブレオマイシン:抗がん剤の一種であるブレオマイシンという薬をマウスの
肺に投与することで肺が硬くなり肺線維症に似た状態になる。

*3 RNAシーケンス:次世代シーケンサーを用いてメッセンジャーRNA(mRNA)
などの配列情報を網羅的に読み取り、遺伝子の発現量を解析する手法のこと。

【問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学大学院 医系科学研究科 分子内科学 中島 拓
Tel:082-257-5196 FAX:082-255-7360
E-mail:tnaka@hiroshima-u.ac.jp

<広報に関すること>
広島大学広報室
E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp


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