• ホームHome
  • 【研究成果】重曹がCO₂回収の最適解に – 低エネルギーで脱炭素社会を加速 –

【研究成果】重曹がCO₂回収の最適解に – 低エネルギーで脱炭素社会を加速 –

【本研究成果のポイント】

・水素エネルギー研究で培った熱力学(※1)の視点を、CO2回収に転用し、新たな理論を構築しました。
・材料の性質を予測する独自の新指標を開発し、多様な無機CO2吸収剤のデータを一本の曲線(マスターカーブ)(※2)に統合しました(図1)。
・安全・安価な含水炭酸ソーダ/重曹システムが、大気中のCO2を効率的に吸収し、低温廃熱で放出できることを熱力学的に示しました。

図1. 補正電気陰性度差によるマスターカーブの構築

出典: Yoshitsugu Kojima, A new predictive descriptor for accelerating DAC material design, Chemical Engineering Journal, 530 (2026)173509. 改変して使用(小島客員教授作成)

【概要】

 広島大学自然科学研究支援開発センター、先進機能物質部門の小島由継客員教授(名誉教授)は、大気中から二酸化炭素を直接回収する技術「DAC(Direct Air Capture)」において、最もエネルギー効率が良い無機吸収剤を特定するための新理論を確立しました。
 現在、大気中のCO2回収技術としては、プラントなどで用いられる「固体アミン法」や、飲料メーカーの自販機で採用されている「炭酸カルシウム固定法」が知られています。しかし、固体アミン法はCO2吸収剤の腐食性や毒性の課題が存在し(再生温度:100℃程度)、炭酸カルシウム法は吸収剤の再生に800℃以上の極めて高い熱エネルギーを要します。そのため、これまでの技術は「プラント限定」か、あるいは「吸収剤の使い切り運用」にならざるを得ず、私たちの生活圏での普及には大きな壁がありました。
小島客員教授は、長年の専門である水素貯蔵材料の研究で磨き上げた「熱力学」の知見を武器に、新指標「補正電気陰性度差(Ir)」(※3)を考案、無機吸収剤の化学組成からその性能を判定できる手法を編み出しました。
この理論により導き出された「含水炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)/炭酸水素ナトリウム(重曹)」システムは、以下の優位性を持ちます。

•    生活空間への普及:炭酸ソーダは固体アミンに比べ極めて安全性が高く、環境負荷が小さいCO2吸収剤です。また、特別な管理を必要とせず、耐久性が高く、調達コスト(30円/kg程度)も固体アミンの約1/100です。これにより、オフィスや住宅と言った私たちの生活圏内での「分散型CO2回収」を可能にします。
•    低エネルギー・高効率なプロセス:吸収したCO2を放出(再生)させる際、従来の炭酸カルシウム固定法では800℃以上の高温を必要としますが、本手法(重曹への転換)では工場の廃熱や給湯排熱(約100℃)での再生が可能です。
•    高い回収ポテンシャル: 大気中の薄い CO2を室温で効率よく捕まえ、約3ppm(※4)という低濃度まで回収可能です。 
 含水炭酸ナトリウムはこれまでもCO2吸収剤として研究されてきましたが、本研究では「マスターカーブ」を設計指針とし、CO2濃度に依存する発熱量や再生温度の理論値について、実測データを用いて検証しました。この成果が、水分量の制御といった実証研究の課題や、スケールアップなどの社会実装の課題に挑む後進にとっての確かな指針となり、新たな道が切り拓かれていくことを願っております。

掲載誌:Chemical Engineering Journal, 530, 15 February 2026, 173509.
論文タイトル:A new predictive descriptor for accelerating DAC material design
著者:Yoshitsugu Kojima(小島 由継)
DOI: https://doi.org/10.1016/j.cej.2026.173509
所属: Hiroshima University, Natural Science Center for Basic Research and Development (N-BARD)

【背景】

 地球温暖化対策として期待されるDACですが、最大の課題は「回収に多大なエネルギーがかかること」でした。小島客員教授は、水素を効率よく貯蔵・放出させる研究と、CO2を回収・放出させるプロセスが、エネルギーの観点(熱力学)で全く同じ原理であることに着目しました。
 既存データを理論的に再構築した背景には、「次世代のために、持続可能で現実的な温暖化対策の指針を残したい」という強い思いがありました。

【研究成果の内容】(図2)

1.    複雑なデータを一本の線に統合(マスターカーブの発見)
原子の性質(電気陰性度)に、分子の構造を反映させた新指標「Ir」を導入しました。これにより、従来は比較が困難だった多種多様な無機吸収剤が、グラフ上の一本の曲線(マスターカーブ)に並びました。この「魔法の物差し」により、膨大な実験をせずとも、計算だけで最適な無機吸収剤が見つかります。
2. 「安全・安価で高効率」な吸収剤の優位性を証明
理論から導き出した「最適解」は、水を含んだ炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウムでした。
安全: 炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)や炭酸水素ナトリウム(重曹)は、食品添加物(かん水、ベーキングパウダー)、洗剤や医薬品にも使われるほど安全です。
安価:炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムは、塩化ナトリウム(塩)と石灰石由来のCO2を消費物質として合成され、資源的に豊富で安価なため、大規模な展開に適しています。炭酸ナトリウムは熱に強く、普通に保管していれば長期間安定している物質です。
室温で吸収:含水炭酸ナトリウムは大気中の薄いCO2(430ppm)を室温で吸収して、炭酸水素ナトリウムが生成します。
100℃での再生:炭酸水素ナトリウムから水蒸気を脱離することで、CO2放出温度を下げ、100℃程度の低温(工場の廃熱など)で繰り返し使用できる仕組みを熱力学的に裏付けました。

【今後の展開】

 確立した新指標(補正電気陰性度差)を活用することで、探索の時間を劇的に短縮することが可能となります。身近な物質を活用するこの技術は、大規模な回収プラントへの導入にとどまりません。将来的には、オフィスや家庭のエアコン、キッチンの換気扇などに重曹フィルターが備わり、日常生活の中で自然にCO2が回収される。そんな、私たちの生活に密着した新しいカーボンニュートラルの姿を展望しています。

【参考資料】

図2. 補正電気陰性度差 Irを記述子としたDAC用無機吸収剤の普遍的設計指針

出典: Yoshitsugu Kojima, A new predictive descriptor for accelerating DAC material design, Chemical Engineering Journal, 530 (2026)173509. 改変して使用(小島客員教授作成)
 

【用語解説】

(※1)熱力学:熱をエネルギーの一形態とする立場から、熱現象に関する根本原則とその応用を研究する物理学の一分野
(※2)マスターカーブ:異なる条件下にある多くのデータに対して、特定の変数を用いることで一本の線にまとめたグラフ
(※3)Ir 補正電気陰性度差:結合の種類(電気陰性度差)に、分子の構造を反映させた新指標
(※4)ppm:全体を100万とした時の割合、大気中のCO2濃度は2026年1月、約430ppm https://gml.noaa.gov/ccgg/trends/weekly.html

【お問い合わせ先】

<研究内容に関すること>
広島大学 自然科学研究支援開発センター 先進機能物質部門 
客員教授 小島 由継
E-mail:kojimay@hiroshima-u.ac.jp

<報道に関すること>
広島大学広報室
TEL: 082-424-4518 FAX: 082-424-6040 
E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp


up