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【研究成果】肝腫瘍の腹腔鏡手術、どんな時に開腹に切り替える? 多施設前向き研究で「3回目以降の肝切除」と「男性」がリスク因子と判明

本研究成果のポイント

  • 肝腫瘍の腹腔鏡手術において、手術中に体への負担が大きい開腹手術に切り替えなくてはならない状況が発生することがあります。どのような状況で、この切り替え(コンバージョン)が発生してしまうのか、リスクとなる因子を明らかにしました。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科 消化器・移植外科学の大段秀樹教授らの研究グループは、広島臨床腫瘍外科研究グループ (Hiroshima Surgical Study Group of Clinical Oncology: HiSCO)に所属する7施設による多施設共同前向き研究を行い、腹腔鏡下肝切除において、手術中に用手補助腹腔鏡手術(HALS)または、開腹手術へ移行(コンバージョン)するリスク因子を明らかにしました。その結果、「3回目以降の肝切除」と「男性」であることが、コンバージョンのリスクであることが明らかになりました。
 本研究の成果は、2025年12月26日に「Scientific Reports」に掲載されました。

論文タイトル
Risk factors of conversion to hand-assisted laparoscopic surgery or open surgery in laparoscopic liver resection: a multicenter prospective study (HiSCO-08)

著者
Ko Oshita¹、 Michinori Hamaoka²*、 Tsuyoshi Kobayashi¹、 Takashi Onoe³、
Tomoyuki Abe⁴、 Toshihiko Kohashi⁵、 Koichi Oishi⁶、
Daisuke Takei⁷、 Tomoyuki Akita⁸、 Hideki Ohdan¹
*責任著者

1. Department of Gastroenterological and Transplant Surgery、 Graduate School of Biomedical and Health Sciences、 Hiroshima University
2. Department of Gastroenterological、 Breast and Transplant Surgery、 Hiroshima Prefectural Hospital
3. Department of Gastroenterological Surgery、 Kure Medical Center and Chugoku Cancer Center、 National Hospital Organization.
4. Department of Gastroenterological Surgery、 Higashihiroshima Medical Center、 National Hospital Organization.
5. Department of Hepato-Biliary-Pancreatic Surgery、 Hiroshima City North Medical Center Asa Citizens Hospital.
6. Department of Surgery、 Chugoku Rosai Hospital.
7. Department of Surgery、 Onomichi General Hospital.
8. Department of Epidemiology、 Infectious Disease Control and Prevention、 Graduate School of Biomedical and Health Sciences、 Hiroshima University.

掲載雑誌
Scientific Reports

DOI
10.1038/s41598-025-34013-3

背景

 肝腫瘍の治療において、腹腔鏡下肝切除という手法があります。これはお腹に小さな穴をあけて行う治療法で、出血量が少なく、手術後の痛みが軽く、早期に社会復帰可能といった利点から、体への負担が少ない手術として世界的に普及しています。とくに部分切除や外側区域切除といった小さな範囲の肝腫瘍を切除する際には、この治療法が標準的に選ばれることが多いです。
 一方で、腹腔鏡下肝切除では、手術中に安全性の担保や腫瘍を確実に切り取ることが困難となり、用手補助腹腔鏡手術(HALS)や開腹手術という手術法へ移行(コンバージョン)する症例が一定数存在します。コンバージョンすると、体への負担が増加し入院期間の延長につながることが知られており、どのような症例でコンバージョンリスクが高いかを手術前に把握することは、極めて重要な課題です。
 これまでにもコンバージョンのリスク因子に関する報告はありますが、その多くは後ろ向き研究(過去の記録を振り返る研究)でした。経験的にコンバージョンの可能性が高いと予測された症例は最初から腹腔鏡下肝切除を選ばないことが多く、実際に腹腔鏡下肝切除を試みたときに何が本当に影響するのかを正確に評価しにくいという課題がありました。このため、従来の研究では「腹腔鏡下肝切除を実際に試みた場合に、どの因子が真にコンバージョンに影響するのか」を正確に評価することが困難でした。実際、我々の経験でも、手術前にはコンバージョンのリスクが高いと予測して開腹手術を選択した症例において、後から振り返れば腹腔鏡手術が可能であったと思われる症例がありました。
 本研究ではこの課題を克服するため、肝切除の既往歴や肝硬変の有無などの背景に関わらず、適格基準を満たすすべての症例に対してまず腹腔鏡アプローチを行うという、これまでにない前向き研究(あらかじめ計画して将来の結果を追う研究)デザインを採用しました。これにより、選択バイアスを最小限に抑え、腹腔鏡下肝切除におけるコンバージョンリスクを、実臨床に近い形で検証することが可能となりました。

研究成果の内容

 本研究は、広島臨床腫瘍外科研究グループ(HiSCO)に所属する7施設が参加した多施設共同前向き臨床試験として実施されました。
 5cm以下の単発肝腫瘍に対して部分切除または外側区域切除を予定した患者を対象とし、すべての症例を腹腔鏡で手術を開始しました。199例が登録され、うち172例(86.4%)では腹腔鏡下肝切除を完遂しました。一方、27例(13.6%)では、術中の安全性や根治性の確保を目的として、HALSまたは開腹手術へコンバージョンしました。コンバージョンの主な理由は腹腔内癒着であり、特に複数回の肝切除を受けた症例で高頻度に認められました。多変量解析の結果、腹腔鏡下肝切除におけるコンバージョンの独立したリスク因子として、「3回目以降の肝切除」と「男性」であることが明らかになりました。
 また、コンバージョン症例では、腹腔鏡下肝切除を完遂できた症例と比較して、手術時間の延長、出血量の増加、術後入院期間の延長が認められました。一方で、重篤な術後合併症や周術期死亡は認められませんでした。

今後の展開

 本研究は、腹腔鏡下肝切除におけるコンバージョンのリスク因子を、前向きかつ多施設で検証した世界初の臨床研究です。本研究成果により、「コンバージョン高リスク症例を事前に把握したうえでの、慎重かつ現実的な手術戦略の立案」、「早期のHALS・開腹手術への移行を含めた、安全性を最優先とした判断」、「不必要な手術侵襲や合併症リスクの回避」が可能となり、腹腔鏡下肝切除全体の安全性向上が期待されます。
 また、本研究で明らかとなったコンバージョンのリスク因子は、腹腔鏡手術の適応を制限するためのものではなく、術中に生じ得る技術的困難を予測する指標として活用されるべきものです。高リスク症例においても、適切な準備と判断のもとで腹腔鏡アプローチを選択することは十分に可能であり、本研究はその判断を支える科学的根拠を提供します。
 今後は、本研究で得られた知見を基盤として、より高難度な肝切除や解剖学的切除への応用やロボット支援肝切除におけるコンバージョンリスク評価など、低侵襲肝手術の最適化に向けた研究を展開していく予定です。

図1: 本研究の要点

用語解説

  • 腹腔鏡下肝切除:お腹に数か所の小さな穴を開け、カメラ(腹腔鏡)と細い器具を用いて肝臓の一部を切除する低侵襲手術。
  • コンバージョン(開腹移行):腹腔鏡手術中に、安全性や確実性を優先するため、予定していた腹腔鏡手術を中止し、より侵襲の大きい手術方法へ変更すること。
  • 用手補助腹腔鏡手術(HALS):腹腔鏡手術の途中で、術者の手をお腹に入れて行う手術方法。腹腔鏡手術と開腹手術の中間的な手技。
  • 前向き研究:あらかじめ研究計画を立て、対象となる患者を登録し、将来に向かって結果を追跡・解析する研究方法。後ろ向き研究より結果に信頼性が高い。
  • 選択バイアス:研究対象の選び方によって、結果が偏ってしまうこと。
【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科 消化器・移植外科学
Tel:082-257-5220 FAX:082-257-5224
E-mail:hohdan@hiroshima-u.ac.jp


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