広島大学 IDEC国際連携機構
Center for the Planetary Health and Innovation Science (PHIS)
教授 丸山 史人(まるやま ふみと)
Tel:082-424-7048
E-mail:fumito*hiroshima-u.ac.jp
(*は半角@に置き換えてください)
広島大学IDEC国際連携機構のIshara Perera特任助教(現:山口大学共同獣医学部助教)、丸山史人教授は、チリ国立水産開発研究所(IFOP)、ラフロンティア大学、北海道大学、水産研究・教育機構などと共同で、チリ・パタゴニア地域における有害藻類ブルーム(赤潮)の発生を予測するための新たな複合モデリング手法を開発しました。本研究では、粒子追跡モデル(Parti-MOSA)、長短期記憶ニューラルネットワーク(LSTM)、および経験的動的モデル(EDM)という3つの予測手法を比較し、特にEDMを用いた手法では有害藻類であるPseudo-nitzschia seriataグループの発生予測において相関係数0.733という高い予測精度を達成しました。さらに、生物種間の因果関係に基づいて赤潮発生を予測するEDMの実用的応用は世界的にも例がなく、本研究は物理モデルやAIなど異なる手法を組み合わせることで赤潮早期警戒システムの予測精度を向上し得ることを示しました。
本研究成果は、2026年1月14日に生態学・環境科学分野のトップジャーナル(Q1、上位5%)である「Ecological Informatics」に掲載されました。
Multivariate S-map法により因果種を用いて予測された Pseudo-nitzschia 属の種群。予測精度は、ピアソン相関係数および p 値によって評価した。サブプロット(a, b)は Quellón、(c, d)は Melinka、(e, f)は Metri における結果を示す。
3つのSATREPSモデルを結合するためのプロトタイプ手法
有害藻類ブルーム(HAB、赤潮)は、特定の植物プランクトンが大量発生して海水が変色する現象です。養殖魚の大量死や貝類への毒素蓄積を引き起こし、世界中の水産業に深刻な経済的被害をもたらしています。チリは世界第2位のサーモン生産国であり、冷凍ムール貝の世界的輸出国でもありますが、過去数十年にわたりチリ南部はHABによる甚大な被害を受けてきました。2016年には、Pseudochattonella verruculosaのブルームによりチリのサーモン生産の18〜20%が影響を受け、約8億米ドルの損失が発生しました。
HABがどこでいつどの規模で発生するか予測することは、沿岸漁業や養殖業を守るために極めて重要ですが、HABを引き起こす藻類種の生態は複雑で、それぞれの種が環境条件に多様に応答するため、正確な予測は困難とされてきました。
本研究では、JST/JICA SATREPSプログラム「MACHプロジェクト(Monitoring of Algae in Chile)」の一環として、HAB予測のための3つの異なるアプローチを適用しました:
1. 粒子追跡モデル(Parti-MOSA):海洋物理モデルを基盤とし、HAB細胞の海流による輸送をシミュレートします。これにより、ブルームの空間的な拡散を予測できます。
2. LSTMニューラルネットワーク:DNAメタバーコーディングによるホロバイオーム*4監視データと環境パラメータを組み合わせた深層学習モデルです。環境条件のみから有害藻類種の存在を予測できます。
3. 経験的動的モデル(EDM):30年間にわたる長期植物プランクトンモニタリングデータを用いて、HAB原因種と他の植物プランクトン種との因果関係を同定し、この関係を利用することでHABの発生を予測できます。
特にEDMを用いた解析では、チリ南部の3地点(Metri、Quellón、Melinka)でPseudo-nitzschia属(ドウモイ酸を産生する有害藻類)の発生を予測し、Metri地点のP. seriata群において相関係数0.733(p < 0.0001)という高い予測精度を達成しました。
また、Ceratium属やLeptocylindrus属といった植物プランクトンがPseudo-nitzschia属と因果関係を持つことも明らかにし、これらの種をモニタリングすることでHAB発生の早期警戒に活用できる可能性を示しました。
本研究で開発した3つのモデルは、それぞれ異なる強みを持っています。Parti-MOSAはブルームの空間的拡散を予測でき、LSTMは環境条件から有害藻類種を検出でき、EDMは生物間の相互作用を利用して発生の有無を予測できます。これらのモデルを組み合わせた複合予測システムにより、より信頼性の高いHAB早期警戒システムの構築が期待されます。
今後は、リアルタイムの種同定技術(AIを搭載した画像認識装置など)との統合や、環境変数との組み合わせによってさらなる予測精度の向上を目指します。本研究の成果は、チリのみならず世界各地でHABに悩まされる沿岸地域への応用が期待されます。
・掲載雑誌:Ecological Informatics(生態情報学)
・論文題目:“A prototype coupled modeling approach for predicting harmful algal blooms: A case study in Chile”
・著者:Ishara Uhanie Perera, So Fujiyoshi, Daiki Kumakura, Carolina Medel, Kyoko Yarimizu, Osvaldo Artal, Pablo Reche, Oscar Espinoza-González, Leonardo Guzman, Felipe Tucca, Alexander Jaramillo, Jacqueline J. Acuña, Milko A. Jorquera, Shinji Nakaoka, Satoshi Nagai, Fumito Maruyama* (*責任著者)
・DOI:10.1016/j.ecoinf.2026.103615
*1 有害藻類ブルーム(HAB、赤潮):
特定の植物プランクトンが急激に増殖し、海水が変色する現象。魚介類への毒素蓄積や酸欠による大量死を引き起こし、水産業に甚大な被害をもたらす。
*2 経験的動的モデル(EDM):
複雑な生態系の時系列データから因果関係を推定する非線形解析手法。従来の統計モデルでは捉えきれない生物間の相互作用を検出できる。
*3 SATREPS:
Science and Technology Research Partnership for Sustainable Developmentの略。JST(科学技術振興機構)とJICA(国際協力機構)が共同で実施する、開発途上国との国際共同研究プログラム。本課題の詳細URLはこちら。https://mge.hiroshima-u.ac.jp/SATREPS_MACH/
*4 ホロバイオーム:
真核生物とその共生微生物の総ゲノム。HABの発生は、関連する微生物群集の影響を受ける可能性がある。
広島大学 IDEC国際連携機構
Center for the Planetary Health and Innovation Science (PHIS)
教授 丸山 史人(まるやま ふみと)
Tel:082-424-7048
E-mail:fumito*hiroshima-u.ac.jp
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掲載日 : 2026年04月07日
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