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【研究成果】悪性胸膜中皮腫に対する新規核酸医薬MIRX002の安全性を確認 ―マイクロRNAがん治療薬で世界初、新しい治療法の可能性―

本研究成果のポイント

  • 標準治療が無効または適切な治療法のない悪性胸膜中皮腫の患者さんを対象とした、新規核酸医薬MIRX002の2つの臨床試験(単回投与試験および反復投与試験)が終了し、いずれの試験においても主要評価項目である安全性・忍容性が確認されました。
  • 最大3回の反復投与においても問題となる副作用は認められず、継続投与が可能であることが示されました。
  • 本研究成果は、マイクロRNAがん治療薬として世界で初めて臨床における忍容可能な安全性プロファイルを実証したものであり、悪性胸膜中皮腫に対する新しい治療法の可能性を示すものです。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科・細胞分子生物学研究室の田原栄俊教授(研究代表者)および原爆放射線医科学研究所・呼吸器外科の岡田守人教授(治験調整医師)らの研究グループは、株式会社PURMX Therapeutics(本社:広島市、代表取締役社長 兼 CEO:田原栄俊)と共同で、アスベスト曝露との関連が強く示唆されている希少がん「悪性胸膜中皮腫」を対象に、新規核酸医薬MIRX002の臨床試験を実施してきました。
 MIRX002はヒトに存在する天然型マイクロRNA「miR-3140-3p」を有効成分とする核酸医薬です。このたび、がん細胞で不足している「miR-3140-3p」を補充する「マイクロRNAの補充療法」による単回投与試験(MIRX002-01試験)および反復投与試験(MIRX002-02試験)が終了し、いずれの試験においても「副作用が軽く安全に投与可能である」という主要な目的を達成しました。
 治験期間(初回投薬日から最終観察日まで)は、各々2022年1月12日から2025年6月23日まで、2022年12月13日から2025年9月16日までであり、広島大学病院、近畿大学病院、兵庫医科大学病院の国内3施設で実施しました。
 マイクロRNAを用いたがん治療薬の臨床開発では、これまで全身投与(静脈内投与)による臨床試験において重篤な免疫関連有害事象が発現し、開発が中止された事例(米国Mirna Therapeutics社のmiR-34a mimic「MRX34」の第Ⅰ相試験)が報告されてきました。これに対しMIRX002は、薬剤を病変近傍に直接届ける胸腔内投与(局所投与)を採用することで全身曝露を最小化する戦略をとっており、本試験において、マイクロRNAがん治療薬として世界で初めて臨床における忍容可能な安全性プロファイルを実証しました。

背景

 悪性胸膜中皮腫は、胸腔内面を覆う中皮細胞に発生する稀な悪性腫瘍であり、アスベスト(石綿)曝露との関連が強く示唆されていますが、発生メカニズムの詳細は未解明のままです。本邦における罹患患者数は、2030年頃をピークに年間約3,000人に達すると予測されています。免疫チェックポイント阻害薬の導入により治療パラダイムが大きく変化しつつあるものの、診断された時点で進行していることが多く、治療選択肢が限られていることから、新しい仕組みでがんの増殖を抑える治療法の開発が強く求められています。

 「miR-3140-3p」は、細胞老化に伴い発現が上昇するマイクロRNAの中から「がん幹細胞」および「薬剤耐性がん細胞」の双方に対して抗腫瘍効果を示す有望な核酸医薬候補として同定されたマイクロRNAであり、悪性胸膜中皮腫の組織および細胞株において、miR-3140-3pの発現量が低下していることが確認されています。MIRX002は、不足しているmiR-3140-3pを補う「マイクロRNAの補充療法」で、悪性胸膜中皮腫細胞に細胞死を誘導し、がんの進行を抑えることを目指した薬です。また、悪性胸膜中皮腫患者の胸腔内に直接投与することで、薬をがんの近くに届け、全身への副作用を抑えられる可能性があります。

研究成果の内容

 MIRX002-01試験(単回投与試験)では、標準的治療法が無効または既存治療を適切に実施できない悪性胸膜中皮腫患者を対象として、3用量群に3例ずつ、計9例に対しMIRX002を胸腔内に単回投与しました。臨床上問題となる副作用は認められず、最高用量まで安全に投与可能であることが示されました。
 MIRX002-02試験(反復投与試験)では、MIRX002-01試験に参加し、安全性に問題がなく、治療効果が期待できると判断された患者を対象として、計4例の胸腔内にMIRX002を28日間隔で最大3回反復投与しました。反復投与による副作用の増強は認められず、最大3回まで安全に投与可能であることが示されました。
 本研究成果は、マイクロRNA「miR-3140-3p」を有効成分とする核酸医薬「MIRX002」を悪性胸膜中皮腫患者の胸腔内に安全に投与可能であることを示した貴重なデータであり、副作用の少ない治療法として、将来的に治療選択肢の一つとなり得る可能性を示すものと考えています。
 

今後の展開

 今回得られたデータを踏まえ、株式会社PURMX Therapeutics社は、海外を含む次段階の臨床試験(グローバルP1/2試験)に向けた準備を進めています。2024年にはPre-IND相談においてアメリカ食品医薬品局(FDA)から科学的助言を受けており、国際的な治験体制の構築も開始しています。
 また、広島大学大学院医系科学研究科・細胞分子生物学研究室との共同研究講座では、MIRX002および他のマイクロRNAの作用機序などに関する基礎研究を継続しており、将来の承認申請に必要なデータの整備を進めています。
 今後は、より多くの患者さんを対象とした試験を通じて、実際の治療として使えるように開発を加速してまいります。

参考資料

 MIRX002の抗腫瘍効果
 悪性胸膜中皮腫細胞株をマウスの胸腔内へ移植し、MIRX002を1週間に3回、胸腔内に投与した結果、3週間の腫瘍増殖抑制が確認され、併せて生存期間の延長効果も確認されました。
 

用語解説

・第Ⅰ相試験
 新しい薬を初めてヒト(患者さん)に投与する段階の試験です。少数の患者さんを対象に、投与量を段階的に増やしていき、薬の安全性と適切な投与量、投与方法を調べます。抗がん薬の場合、通常は標準的治療法のない/効かない患者さんが対象となります。
・悪性胸膜中皮腫
 主に胸膜に発生するまれな悪性腫瘍(がん)で、この病気になる人の多くは、アスベストを吸入することの多い環境で勤務または生活していた経験があると言われています。切除が可能な場合は手術が行われますが、切除が難しい場合や手術後に再発した場合には、化学療法を行います。

マイクロRNA
定義: マイクロRNAは、ヒトの体内で作られる約22塩基長の小さなRNA分子であり、約2,600種類が機能的なマイクロRNAとして知られています。これらは非コードRNAの一種であり、直接タンパク質を合成することはありません。
機能: マイクロRNAは、特定のメッセンジャーRNA(mRNA)に結合し、その翻訳を抑制することで、遺伝子の発現を調節します。1つのマイクロRNAは、100以上の異なる遺伝子の発現を調整することができ、これにより細胞の機能や発生過程において重要な役割を果たします。
生物学的役割: マイクロRNAは、細胞の分化や発生、さらにはさまざまな疾患の発症に関与しています。特に、がんや心血管疾患などの病態において、その異常な発現が問題視されています。

 核酸医薬
 核酸医薬とは、生体内で合成される核酸(DNAやRNA)を構成しているヌクレオチドおよびその誘導体を基本骨格とする薬剤の総称です。

 株式会社PURMX Therapeutics (パームエックス セラピューティックス)
 広島大学大学院医系科学研究科・細胞分子生物学研究室 田原栄俊教授が2021年1月に設立した広島大学発のバイオベンチャーです。

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科 教授 田原栄俊
Tel:082-257-5290 FAX:082-257-5294
E-mail:toshi*hiroshima-u.ac.jp

(*は半角@に置き換えてください)


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