• ホームHome
  • 【研究成果】COVID-19罹患後症状の長期経過は感染した流行期と年齢で大きく異なる ― 2020〜2024年、成人・小児2、689人の追跡研究 ―

【研究成果】COVID-19罹患後症状の長期経過は感染した流行期と年齢で大きく異なる ― 2020〜2024年、成人・小児2、689人の追跡研究 ―

本研究成果のポイント

  • 広島県内の単一医療機関(第二種感染症指定医療機関)において2020年3月から2024年6月までに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された成人1,524人・小児1,165人の計2,689人を対象に、罹患後症状の有無・持続期間・日常生活への影響を自記式質問票で収集し、年齢層別・感染時期別(野生株流行期・アルファ株流行期・デルタ株流行期・オミクロン株流行期-2022・オミクロン株流行期-2024)※1に長期経過を解析した。
  • COVID-19罹患後症状の有症割合は感染時期によって異なり、デルタ株流行期に最も高く、オミクロン株流行期には約半減した。この傾向は2024年に流行したオミクロン亜系統においても変わらなかった。
  • 小児の罹患後症状の有症割合は、全流行期を通じて成人の3分の1から4分の1程度にとどまり、対象者の中では感染後2年以上にわたり日常生活に支障をきたした小児は認められなかった。
  • オミクロン流行期より前(野生株流行期・アルファ株流行期・デルタ株流行期)に感染した成人では、感染から2年を経過してもなお約2割、オミクロン流行期に感染した成人では約1割に何らかの症状が持続しており、2年を超えて残存した症状は本研究の観察期間内ではその後もほとんど改善しなかった。ただし、観察期間を超えた時点でのさらなる改善の可能性は否定できない。

概要

● 広島大学大学院 医系科学研究科 疫学・疾病制御学の杉山文講師、田中純子理事・副学長らの研究グループは、広島市立舟入市民病院、広島県感染症・疾病管理センター(ひろしまCDC)の協力を得て、2020年3月から2024年6月までにCOVID-19と診断された成人・小児2,689名を対象とした後ろ向きコホート研究を実施し、感染流行期別・年齢層別にみた罹患後症状(いわゆる「後遺症」)の長期経過を明らかにしました。罹患後症状の有症割合はデルタ株流行期に最も高く、オミクロン株流行期には約半減しました。この傾向は2024年に流行したオミクロン亜系統でも変わりませんでした。また、小児の有症割合は全流行期を通じて成人の3〜4分の1程度にとどまりました。一方で、デルタ株流行期以前に感染した成人の約20%では感染から2年を超えても症状が持続しており、長期的なフォローアップと支援の必要性が示されました。本研究成果は、2026年5月8日付でPLOS Oneに掲載されました。

● 本研究は、広島大学・広島県 官学連携による検査研究体制構築事業、ならびに国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「広島県官学連携COVID-19研究体制を基盤とした疫学・臨床医学・ウイルス学・医療システム学の視点から新たなエビデンス創出を目指す発展的研究(R3)」「官学連携COVID-19研究体制を基盤とした、新たな感染症流行に対する危機管理も見据えたサーベイランス・疫学研究(R4)」「長期コホート研究基盤の発展的拡充による COVID-19罹患後症状の予後予測法開発および実用化(R6-8)」の支援を得て実施されました。

発表論文

■ 掲載誌:PLOS ONE (Q1. IF: 2.6)
■ 論文タイトル:
Differences in the long-term course of post COVID-19 symptoms in adults and children across epidemic periods: A retrospective cohort study in Japan, 2020–2024
■ 著者名:
Aya Sugiyama1*, Toshiro Takafuta2, Kanon Abe3, Yayoi Yoshinaga1, Ko Ko1, Tomoki Sato2,4, Tomoyuki Akita1, Masao Kuwabara5, Shingo Fukuma1, Junko Tanaka1 
1 Department of Epidemiology Disease Control and Prevention, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan
2 Hiroshima City Funairi Citizens Hospital, Hiroshima, Japan 
3 Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, National Center for Geriatrics and Gerontology, Aichi, Japan 
4 Department of Pediatrics, Hiroshima City Funairi Citizens Hospital, Hiroshima, Japan
5 Hiroshima Prefecture Center for Disease Control and Prevention, Hiroshima, Japan* 責任著者
■ DOI: 10.1371/journal.pone.0348954
 

背景

 COVID-19は、感染後に長期間にわたって症状が持続する罹患後症状(いわゆる「後遺症」)を引き起こすことが広く知られています。世界保健機関(WHO)は、症状は一般的に時間の経過とともに改善し、多くの場合4〜9カ月以内に回復するが、感染から12カ月後においても約15%の患者に症状が残存すると報告しています。
 オミクロン株の出現以降(2021年12月-)、罹患後症状の頻度は低下したとする報告が相次いでいます。しかし、野生株・アルファ株・デルタ株・オミクロン株という複数の流行期にわたって長期経過を比較した研究は少なく、特に2022年以降に登場したオミクロン亜系統に関するエビデンスは乏しいままでした。また、小児と成人を同一の研究条件で比較した研究も十分ではありませんでした。さらに、感染から2年を超える長期経過に関するデータは世界的にも限られていました。
 本研究グループは、広島県内の医療機関との共同研究により、2020年から継続的に罹患後症状のコホート調査を実施してきました。今回は、以前に報告したコホート※2への追跡調査と、2024年に新たに診断された患者への追加調査を行うことで、野生株からオミクロン-2024までの全流行期を網羅した長期追跡データを構築し、これらの課題に取り組みました。

研究成果の内容

対象と方法:
 広島県内の第二種感染症指定医療機関において、2020年3月から2024年6月までにCOVID-19と診断された2,689人(成人1,524人、小児1,165人)を解析対象としました。感染時期は広島県のゲノムサーベイランスデータに基づき5つの流行期※1に分類しました。罹患後症状の有無・種類・持続期間・日常生活への影響を自記式質問票で収集し、区間打ち切り生存分析(Turnbull法)※3により時間的推移を推定するとともに、Cox比例ハザードモデル※4により症状消失に関連する因子を検討しました。
感染流行期による差異:
 感染6カ月時点の罹患後症状有症割合は、成人においてデルタ株流行期に最も高く(47%)、オミクロン株流行期-2022(23%)およびオミクロン株流行期-2024(21%)では約半減しました(図1)。日常生活に支障をきたす症状の割合もデルタ株流行期で最高(26%)でした。2024年に流行したオミクロン亜系統(EG.5.1、HK.3、JN.1等)における罹患後症状の頻度・持続期間・症状プロファイルは、2022年のオミクロン株と比較して実質的な差は認められませんでした。
成人と小児の差異:
 小児の有症割合は全流行期を通じて成人の3〜4分の1程度にとどまりました。感染2年以降において、日常生活に支障をきたす症状を有した小児は本研究の対象者では認められませんでした。一方、成人では感染2年時点でも、オミクロン以前の流行期感染者の約20%、オミクロン流行期感染者の約10%に症状が持続していました。
長期持続症状と症状プロファイル:
 感染2年を超えて残存した症状は、本研究の観察期間内においてその後もほとんど改善しませんでしたが、観察期間を超えた時点でのさらなる改善の可能性は否定できません。症状の種類については、デルタ株流行期では嗅覚障害・味覚障害が特徴的であったのに対し、オミクロン株流行期では咳嗽が相対的に多く認められました。
症状遷延の関連因子:
 Cox比例ハザードモデルによる解析では、罹患後症状消失が有意に遅い因子として、デルタ株流行期の感染(野生株流行期に比べ調整ハザード比0.79)、中高年(12歳以下と比較し、50-69歳の調整ハザード比0.33)、女性、急性期に酸素投与を要したことが独立して同定されました。

今後の展開

 本研究により、COVID-19罹患後症状の長期経過が感染流行期と年齢層によって大きく異なることが示されました。オミクロン株流行期においても一定割合の成人に2年以上症状が持続することから、現在もなお罹患後症状を抱える患者への継続的な医療・社会的支援が必要です。
 本研究で構築した長期追跡コホートのデータを基盤として、今後一般住民・医療従事者が簡便に利用できる罹患後症状予後予測ツールの開発・実用化を目指しています。

参考資料

図1.COVID-19罹患後症状(少なくとも1症状)有病割合の経時的推移 -感染時期別の分析-

用語解説

※1 各感染時期の定義は広島県のゲノムサーベイランスデータに基づきます。
野生株流行期(2020年3月〜2021年2月)、アルファ株流行期(2021年3月〜6月)、デルタ株流行期(2021年7月〜11月)、オミクロン株流行期-2022(2021年12月〜2022年7月)、オミクロン株流行期-2024(2024年1月〜6月)。
※2 本研究の基盤データベースについては以下の論文にて報告しています。
Sugiyama A, Takafuta T, Sato T, et al. Natural course of post-COVID symptoms in adults and children. Sci Rep. 2024 Feb 16;14(1):3884. doi: 10.1038/s41598-024-54397-y.
※3 区間打ち切り生存分析(Turnbull法)とは、「いつ症状が消えたか」を正確な日付ではなく「3か月後から6か月後の間に消えた」というような範囲でしか把握できない場合に用いる統計手法です。本研究では症状の持続期間を数カ月単位の範囲で収集したため、この方法を用いて各時点における有症割合を推定しました。
※4 Cox比例ハザードモデルとは、ある出来事(症状の消失など)が「いつ・どのくらいの確率で起こるか」に影響する複数の要因を同時に考慮し、それぞれの要因の影響度を数値(ハザード比)で表す統計手法です。ハザード比が1より大きければその出来事が起こりやすく、1より小さければ起こりにくいことを意味します。本研究では、年齢・性別・感染流行期・急性期重症度を同時に考慮した上で、罹患後症状の消失に関わる因子とその影響度の推定に用いました。

【お問い合わせ先】

大学院医系研究科 疫学・疾病制御学 講師 杉山文
Tel:082-257-5162 FAX:082-257-5164
E-mail:aya-sugiyama*hiroshima-u.ac.jp

(*は半角@に置き換えてください)


up