• ホームHome
  • 【研究成果】遺伝子をピンポイントで編集できる技術により高機能なシソの開発に成功 ─シソの遺伝子の働きをピンポイントに抑えることで、健康成分「ルテオリン」が大幅アップ─

【研究成果】遺伝子をピンポイントで編集できる技術により高機能なシソの開発に成功 ─シソの遺伝子の働きをピンポイントに抑えることで、健康成分「ルテオリン」が大幅アップ─

本研究成果のポイント

1 遺伝子(DNA)の狙った場所だけピンポイントで編集できるゲノム編集技術を用いて、シソに含まれる健康関連成分を高める代謝改変に成功しました。

2 見た目は「赤」から「緑」へ、抗炎症・抗酸化作用を持つ「ルテオリン」は約6倍に 増加しました。

3 高付加価値な食品・医薬品素材としての実用化へ期待されます。

概要

  広島大学(大学院統合生命科学研究科 坊農秀雅教授)、三島食品(株)、広島県立技術総合研究所(農業技術センター 松下修司主任研究員)の研究グループは、遺伝子(DNA)の狙った場所だけピンポイントで編集できるゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」(※1)を用いることで、シソに含まれる健康関連成分である「ルテオリン」(※2)の含有量を通常の約6倍に高めた、新しい緑色のシソ系統の開発に成功しました。本研究グループが2023年に達成した「シソの全ゲノム解読」に続く、シソの有用性を飛躍的に高める革新的な成果です。
 シソ(Perilla frutescens)は、古くから東アジアで広く栽培されている高価値な園芸作物です。本研究では、赤色色素(アントシアニン)を作る上で重要な分岐点となる酵素「フラバノン3-ヒドロキシラーゼ(F3H)」(※3)の遺伝子に着目し、これをゲノム編集によってピンポイントで改変しました。その結果、赤シソから赤色色素が消失して鮮やかな緑色へと変化しただけでなく、代謝経路のバランスが変化した結果、抗酸化・抗炎症作用を有する「ルテオリン」が約6倍に増えました。さらに、強い抗酸化作用を持つ「ロスマリン酸」の含有量も増加傾向が認められました。
 本研究成果は、複雑なゲノム構造(異質四倍体)を持つシソにおいて、狙い通りの成分を作らせる「代謝エンジニアリング」の有用性を世界に先駆けて実証したものであり、将来的な高付加価値品種の育成につながるものです。
 本研究で用いたゲノム編集技術は、外来の遺伝子を導入する「遺伝子組み換え」とは異なり、もともとシソが持つ遺伝子の一部を改変する技術です。

・論文タイトル:CRISPR-Cas9 disruption of flavanone 3-hydroxylase produces a green phenotype and alters flavone metabolites in allotetraploid perilla
・著者:Shuji Matsushita, Michiharu Nakano, Suguru Chokyuu, Masaki Kurao, Ayane Fujita, Junko Kimura, Chinatsu Nagata, Takeshi Ishikawa, Keita Tamura, Hidemasa Bono
・掲載雑誌名:Frontiers in Plant Science
・DOI番号:10.3389/fpls.2026.1877946

背景

 シソ科のシソ(Perilla frutescens var. crispa)は、日本をはじめとする東アジアで古くから親しまれている野菜・生薬です。日本では、植物の赤・紫・青の色をつくる天然色素アントシアニンを豊富に含み梅干しの着色やふりかけ等に加工される「赤シソ」と、爽やかな香りと見た目で刺身のつまや生食に広く使われる緑色の「青ジソ)」に分類され、それぞれ高い商業価値を持っています。
 シソにはこれまでに400以上の生理活性物質(健康に良い成分)が見つかっており、伝統的な中国医学では風邪や胃腸障害、不安神経症の治療にも用いられてきました。主な有効成分として、抗炎症・抗酸化作用を持つ「ルテオリン」や「ロスマリン酸」(※4)、特有の香り成分「ペリルアルデヒド」などが知られています。
 しかし、シソは「異質四倍体(2種類の異なるゲノムを併せ持つ複雑な遺伝子構造)」という極めて難解なゲノム構造をしているため、従来の交雑育種では特定の有用成分だけを狙って増減させることが技術的に非常に困難でした。
 こうした課題に対して、近年ではゲノム編集技術が有効な手法として注目されています。ゲノム編集技術は、従来の交雑育種に比べて、農作物の品種改良を飛躍的に加速させる革新的な技術として、世界中で研究開発や実用化が進められています。
 

研究成果の内容

 研究グループは、赤シソをベースに、アントシアニン合成経路の鍵となる酵素であるF3H(フラバノン3-ヒドロキシラーゼ)の遺伝子をゲノム編集技術によってピンポイントで改変しました。

 1 赤から緑へ、見た目のドラマチックな色の変化
 F3H遺伝子が働かなくなったシソは、赤色色素であるアントシアニンが作られなくなった結果、赤シソから「鮮やかな緑色」のシソ(見た目は青シソ)へと劇的に変化しました。
 

 2 成分プロファイルの大幅な改良(ルテオリンが約6倍に増加)
 代謝物分析を行ったところ、ルテオリンの含有量が野生型と比較して約6倍に増加していることが明らかになりました。さらに、別の有用ポリフェノールであるロスマリン酸の蓄積量も同時に増加する傾向が認められました。
 

 3 網羅的遺伝子発現解析による裏付け
 植物体内の遺伝子全体の働きを網羅的に調べるトランスクリプトーム解析を行ったところ、代謝物の変化と整合する形で、フェニルプロパノイドおよびフラボノイド合成経路に関わる遺伝子群の発現パターンが変化していることが確認されました

今後の展開

 今回の研究成果により、シソが秘めている成分スイッチを的確にコントロールできることが実証され、シソという作物自体の持つ新たな可能性が大きく拓かれました。今後は、今回開発した系統を活用し、シソの持つ複雑な機能への理解をさらに深めていきます。将来的には、これらの知見に基づき、シソの健康関連成分を高めた高付加価値な機能性食品や、医薬品の新たな天然由来素材としての活用に役立てていくための研究開発を展開していきます。

用語解説

※1 ゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」:
  遺伝子(DNA)の狙った場所だけピンポイントで編集できる技術
※2 ルテオリン:
  植物に含まれる黄色系のフラボノイドで、抗酸化・抗炎症などの働きを持つ健康成分
※3 フラバノン 3-ヒドロキシラーゼ(F3H)
  植物のアントシアニン合成経路において重要な役割を果たす酵素
※4 ロスマリン酸
  シソ科植物に含まれる天然のポリフェノールで、抗酸化・抗炎症作用やアレルギー抑制効果がある成分

【お問い合わせ先】

大学院統合生命科学研究科 教授 坊農 秀雅
Tel:082-424-4013
E-mail:bonohu*hiroshima-u.ac.jp

 (*は半角@に置き換えてください)


up