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【研究成果】人それぞれアレルギー病態が異なるのは、T細胞受容体が違うから!? -T細胞受容体の違いがもたらすアトピー性皮膚炎症状の相違が明らかに-

研究成果のポイント

  • T細胞(注1)によって引き起こされるアトピー性皮膚炎の病態の特徴が、T細胞受容体(注2)によって決められている可能性が明らかに。
  • T細胞やT細胞受容体を標的とした新たな治療法の開発に役立つ可能性。

概要

 広島大学 原爆放射線医科学研究所(疾患モデル解析研究分野)の神沼 修教授らの研究グループは、理化学研究所 バイオリソース研究センター(統合発生工学研究開発室)の井上 貴美子室長らと共同で、アトピー性皮膚炎の症状の違いが生じるメカニズムの一端を明らかにしました。

 アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患では、同じアレルゲン(アレルギーの原因物質)に反応して発症しても、その症状の現れ方や重症度は一人一人異なっています。しかし、その違いを生み出す要因は十分には解明されていませんでした。

 本研究では、全身のT細胞がダニ抗原を認識するT細胞受容体を発現するようにした2系統の核移植クローンマウス(注3)を用い、ダニ抗原によって引き起こされるアトピー性皮膚炎様病態を比較しました。その結果、両マウスともIgE抗体(注4)産生を伴うアトピー性皮膚炎様症状を発症しましたが、掻痒(そうよう:かゆみ)行動や皮膚局所における一部のサイトカイン(注5)発現が両系統間で明らかに異なっていました。さらに、両系統からT細胞だけを取り出して抗原応答性を比較したところ、増殖反応やサイトカイン発現パターンにも顕著な差が見られました。
 これらの結果から、同じ抗原によって引き起こされるアレルギー反応であっても、症状の現れ方や個人差の一部は、その抗原を認識するT細胞受容体の違いによって決まる可能性が明らかになりました。 
 この研究成果は、広島大学から論文掲載料の助成を受け、国際学術誌『Allergology International (Q1)』に2026年6月24日に掲載されました。

論文情報

論文タイトル
Distinct Allergen-Specific T Cell Receptor Clonotypes Drive Divergent Immune Programs in A Cloned Mouse Model of Atopic Dermatitis

著者
Uyanga Enkhbaatar, Kento Miura, Norimasa Yamasaki, Sawako Ogata, Ryoken Yamanaka, Fatemeh Beygom Mirkatouli, Anarkhuu Bold-Erdene, Tomofumi Numata, Tomoharu Yasuda, Kazumitsu Sugiura, Megumi Sasatani, Takashi Yamamoto, Kimiko Inoue, Atsuo Ogura, Osamu Kaminuma*
*:責任著者

DOI :10.1016/j.alit.2026.06.001

背景

  現在、多くの人がさまざまなアレルギー疾患に悩まされています。しかし、その病態の特徴は十人十色で、治療法も人それぞれです。これまで、そのような病態の多様性は、アトピー素因などの内的因子や、食住環境などの外的因子が強く関わると考えられてきました。一方、アレルギー患者さんの体内では、原因抗原を認識するT細胞受容体を発現し、抗原が体内に侵入した際に反応して病態発症や重症化に関わるT細胞が増えています。しかし、それぞれの患者さんや、同じ患者さんの中でも、増えてきた抗原反応性T細胞にはそれぞれ違うT細胞受容体が発現しています。このT細胞受容体が異なることが、どのようにアレルギー病態に影響を与えるのか、これまで明らかにされていませんでした。

研究成果の内容

 今回の研究では、マウスのアトピー性皮膚炎モデルを用い、抗原特異的T細胞受容体の違いが、その病態に与える影響を調べました。その実験を行うために、私たちが世界で初めて開発した、抗原反応性T細胞由来の核移植クローンマウスを用いました。同じダニ抗原に反応しながら、異なる抗原特異的T細胞受容体を発現する2種類のT細胞の細胞核を、核を取り除いた正常マウス卵子に移植して2種類のクローンマウス系統を誕生させました。このマウスの体内に出現する殆どのT細胞には、ドナーT細胞が発現していたダニ抗原特異的T細胞受容体が発現しますが、それらは両系統で異なっています。これらのマウスの皮膚にダニ抗原を反復塗布すると、IgE抗体産生や炎症細胞浸潤を伴うアトピー性皮膚炎病態が両系統ともに惹起されました(図1)。しかし、片方のクローンマウス系統では、病態の進展に伴い明確な掻痒行動が引き起こされたのに対し、もう一方の系統では起こりませんでした(図2)。その際、掻痒行動に関わるサイトカインの1つであるIL-22の皮膚における発現が、両系統で異なっていました。それぞれのマウスからT細胞を取り出して、ダニ抗原と共に培養してみると、増殖反応やサイトカインの発現パターンは明確に異なっていました。遺伝情報が完全に一致した近交系マウス(注6)の遺伝背景を持つ事から、これら2つのクローンマウス系統間で異なる部分は、T細胞受容体だけです。従って、同じ抗原に反応するT細胞でも、その抗原認識に関わるT細胞受容体が異なるだけで、引き起こされるアトピー性皮膚炎病態が異なる性質を示すことが明らかになりました。
 

図1:2種類のクローンマウス系統(Df#1、Df#2)の皮膚にダニ抗原(Der-f)を塗布し、発症する病態を調べました。両系統とも、炎症細胞浸潤を伴うアトピー性皮膚炎様病態を示しました。

図2:ダニ抗原塗布によって誘発される掻痒行動をクローンマウス系統間で比較しました。Df#1では実験開始10日目をピークに明確な掻痒行動がみられましたが、Df#2にはみられませんでした。

今後の展開

 アトピー素因などの内的因子や、食住環境などの外的因子だけでなく、T細胞受容体がアレルギー病態の特徴を規定する可能性が明らかになりました。この成果は、T細胞やT細胞受容体を標的とした新たな治療法の開発に役立つかも知れません。今後は、異なるT細胞受容体がどのようにして異なる病態に関わるのか、より詳細な解析を行うことが重要となります。

用語解説

注1) T細胞:免疫全体をコントロールする司令官であり、IgE抗体の産生を促したり攻撃の指示を出したりするリンパ球。
注2) T細胞受容体:T細胞の表面にある、異物(抗原)を見分ける役割を持つ免疫タンパク質。
注3) 核移植クローンマウス:あるマウスの細胞から「遺伝情報(設計図)」の入った核を取り出し、別の卵子に入れて誕生させた、元のマウスと全く同じ遺伝子を持つマウス。
注4) IgE抗体:抗原を検知してアレルギー症状を誘発する「センサー」の役割を持つ免疫タンパク質。
注5) サイトカイン:免疫細胞などから放出される、細胞同士が連絡を取り合うための情報伝達(メッセージ)物質。
注6) 近交系マウス:兄妹交配を何世代も繰り返し、すべての個体が「一卵性双生児(クローン)」のように全く同じ遺伝子を持つようになったマウス系統。

【お問い合わせ先】

【研究に関するお問い合わせ先】
広島大学原爆放射線医科学研究所 疾患モデル解析研究分野
教授 神沼 修
Tel:082-257-1556 FAX:082-255-8339
E-mail:okami*hiroshima-u.ac.jp

【報道に関するお問い合わせ先】
広島大学広報グループ
Tel:082-424-4518
E-mail:koho*hiroshima-u.ac.jp

理化学研究所 広報部 報道担当
Tel:050-3495-0247
E-mail:ex-press*ml.riken.jp

 (*は半角@に置き換えてください)


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