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【研究成果】がんゲノム検査で検出される「意義不明バリアント」の判定を効率化 - 診断や治療方針の検討に役立つ新たな評価の枠組みを提案-

本研究成果のポイント

  • がんゲノム検査で多数検出される「意義不明バリアント(VUS)(*1)=がんとの関わりが明確でない遺伝子変化」に対して、コンピュータ解析を行い、診断や治療に重要な候補を優先的に見つけ出す仕組みを構築
  • 研究を通じて、これらのVUSの病的意義を明らかにすることで、より適切ながん治療の選択や遺伝性腫瘍のリスク評価への応用が期待される
     

概要

 がんゲノム検査の普及により、治療に有用な病的バリアント(*2)が多数検出される一方で、その解釈が難しい「意義不明バリアント(VUS)」が、その数倍検出されることが、大きな課題となっています。
 広島大学病院・遺伝子診療科の中原 輝 特任学術研究員らは、遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の原因遺伝子であり、プラチナ製剤やPARP阻害剤といった有効な治療薬の選択に関わるBRCA1/2遺伝子(*3)のVUSに着目しました。
 広島大学病院(がんゲノム医療拠点病院)および関連12施設における2172例の包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)(*4)検査の結果を解析し、さらに、コンピュータによる病原性予測(in silico解析(*5))によって各バリアントの遺伝子機能への影響を評価しました。その結果をもとに、将来的な機能解析につながる候補を優先的に抽出する評価の枠組みを構築しました。
 この研究成果は、広島大学から論文掲載料の助成を受け、ヨーロッパ人類遺伝学会の公式機関誌『European Journal of Human Genetics (Q1)』に掲載されました。

論文情報

掲載誌:European Journal of Human Genetics(2026年3月2日掲載)

論文タイトル: A Prioritization Framework for BRCA1/2 Variants of Uncertain Significance Identified by Comprehensive Genomic Profiling

著者:Hikaru Nakahara1, Hiroaki Niitsu1*, Asuka Toshida1, Keisuke Goto2, Masami Yamauchi3, Khilola Saipova1, C. Nelson Hayes4, Nobuyuki Hinata2, Shiro Oka4, Takao Hinoi1
1. 広島大学病院 遺伝子診療科
2. 広島大学大学院医系科学研究科 泌尿器科学
3. 県立広島病院 臨床腫瘍科
4. 広島大学院医系科学研究科 消化器内科学
* 責任著者
DOI:10.1038/s41431-026-02058-1

背景

 近年、包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)の普及により、がんのゲノム異常を網羅的に解析することが可能となり、さまざまながん種において遺伝子バリアントをはじめとしたゲノム異常に基づく治療選択が行われるようになっています。
 
 一方で、検出されるバリアントの多くは「意義不明バリアント(VUS)」であり、その臨床的意義が明らかでなく、その解釈や臨床応用の面で、大きな課題となっています。VUSは原則として、病的バリアントとは扱われないものの、実際には遺伝子の機能に影響を及ぼす変異が含まれている可能性があります。
 
 BRCA1/2は、プラチナ製剤やPARP阻害剤といった有効な治療薬の選択に直結する重要な遺伝子であるとともに、遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の原因遺伝子でもあり、その病原性の評価は、治療方針の決定や、遺伝性腫瘍症候群の診断・血縁者解析に重要です。CGPの普及により、HBOC関連腫瘍だけでなく、HBOC非関連腫瘍からも多くのBRCA1/2バリアントが検出される一方で、VUSも多数検出され、この病原性の解釈は臨床上の課題です。

 このような背景から、本研究ではBRCA1/2遺伝子に着目し、VUSの中から臨床的意義を持つ可能性の高いバリアントを効率的に抽出し、実験的機能解析につなげる枠組みの構築を目指しました。

研究成果の内容

 本研究では、広島大学病院および関連12施設において実施された2172例のCGPデータを解析しました。その結果、BRCA1/2遺伝子において526個のバリアントが同定され、そのうち153個がVUSでした。これは、VUSが病原性変異の約3倍多く検出されることを示しており、臨床解釈の課題の大きさを明らかにしています。
 これらのVUSに対して、10種類のin silico病原性予測ツールを用いた統合評価を行い、機能的影響を持つ可能性のあるバリアントを優先的に抽出し、大規模網羅的解析との照合や新規の実験的機能解析の優先順位をつける枠組みを構築しました(図1)

 本手法は、VUSの病原性を直接判定するものではないものの、今後の機能解析や臨床検証の対象として優先順位を付けるVUS解析の再解析・再評価が進むことが期待されます。この枠組みの有用性を検証するため、BRCA2のスプライシング異常が予測されたバリアントに着目しました。実際に、このバリアントの機能解析を実施したところ、in silico解析の予測通りのスプライシング異常(*6)が確認されました(図2)

このバリアントを保有する2症例では、いずれの症例においても、プラチナ系抗がん剤ないしはPARP阻害薬に高い治療効果が確認され、このようなVUS再評価の枠組みが、実際の治療につながる例と考えられます。

今後の展開

 本研究で構築したVUS再評価へ向けた枠組みが、他の遺伝性腫瘍症候群や遺伝性疾患に応用可能か検討を進める予定です。

 また、in silico解析を日常のがんゲノム診療に組み込み、VUSの解釈精度向上に向けた取り組みを、広島大学病院を中心に継続していきます。

 将来的には、VUSの臨床的意義が明確になることで、治療選択肢の拡大や、遺伝性腫瘍に対する適切なサーベイランスおよび遺伝カウンセリングの実施につながることが期待されます。

用語説明

(*1) 意義不明バリアント(VUS)
 遺伝子の塩基配列の変化を指す用語として、従来は「遺伝子変異」が用いられていたが、必ずしも病気の原因となるとは限らないため、現在は中立的な表現として「バリアント」が用いられている。バリアントのうち、病気との関連が明確でないものをVUSと呼ぶ。

(*2) 病的バリアント
 バリアントのうち、病気の発症に明確に関与するとされるものを指す。

(*3) BRCA1/2バリアント
 BRCA1/2は、DNAの傷を修復する働きを持っている。この働きが破綻すると、遺伝子の傷が増えて、その結果がんの発生につながる。BRCA1/2の病的バリアントは、特に、乳がん、卵巣がん、膵臓癌、前立腺癌にみられ、治療薬選択基準ともなる。

(*4) 包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)
 がんの組織やがん患者さんの血漿から、がんに関連する多数の遺伝子を網羅的に解析する検査

(*5) in silico
 コンピュータを用いてシミュレーションやデータ解析を行う手法

(*6) スプライシング異常
 遺伝子情報をもとにタンパク質を作る際に、その鋳型となる部分が次々とつなぎ合わさっていく。これをスプライシングと呼ぶ。このスプライシングが異常をきたすと、正しいつなぎ合わせによる正常な鋳型ができないため、正常な機能を持たないタンパク質が作られてしまう。

【お問い合わせ先】

広島大学病院 遺伝子診療科 特任講師 新津 宏明
Tel:082-257-5965 FAX:082-257-2019
E-mail:hniitsu*hiroshima-u.ac.jp

(*は半角@に置き換えてください)


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