有尾両生類であるアホロートルやイモリは、失ったり傷ついたりした組織や器官を元通りに修復する非常に高い器官再生能力を持っており、古くから生物学において注目されてきました。しかしながら、飼育繁殖が難しく、効率的な遺伝子機能解析の方法が未確立であったことから、その高度な器官再生能力の秘密に迫ることは困難でした。
そこで、広島大学大学院理学研究科(基礎生物学研究所)の鈴木賢一特任准教授、鳥取大学医学部の林利憲准教授、基礎生物学研究所、学習院大学、京都大学らの研究グループは、飼育に手間がかからず性成熟が早い、新規モデル動物であるイベリアトゲイモリとゲノム編集ツールの一つであるCRISPR-Cas9を用いて、極めて高効率な遺伝子破壊動物(ノックアウトイモリ)作出による遺伝子機能解析法を確立しました。
この技術を用いて、迅速に眼や心臓の発生に重要な遺伝子の機能を解析することができました。さらには、器官発生に中心的な役割を果たすソニックヘッジホッグ遺伝子の転写調節領域の一部に、四肢が再生する際にも重要な機能があることを明らかにしました。
本研究成果は、米国科学誌「Developmental Biology」に掲載されました。
【用語の解説】
※1 イベリアトゲイモリ
イベリア半島原産のイモリの一種で学名はPleurodeles waltl。飼育が容易で、一年以内に性成熟(卵や精子を作ることができる雄雌個体になること)し、ホルモン注射により一年中受精卵を得ることが可能な動物。
※2 CRISPR-Cas9
ゲノム編集技術において最も利用されている人工DNA切断酵素の一つ。Clustered regularly interspaced short palindromic repeats-CRISPR associated protein 9の略。
※3 ソニックヘッジホッグ遺伝子
動物の器官発生において中心的な役割を担う分泌性タンパク質遺伝子の一つ。動物の器官再生においても重要であることが知られている。
※4 転写調節領域
遺伝子の転写をon/offするために重要な、いわばスイッチの役割をはたすゲノム上の配列のこと。本研究では、ソニックヘッジホッグ遺伝子の四肢特異的転写調節領域のある部分配列を破壊した。
イベリアトゲイモリ野生型(右)と色素合成遺伝子(左)をノックアウトした個体
ソニックヘッジホッグ遺伝子の四肢特異的転写調節領域の一部を破壊した個体の再生後の前肢。
野生型は元通り(4本指)に再生するのに対し、転写調節領域を破壊した個体は指の本数が少なくなる。