今回の研究では、地球内部の高温・高圧の環境を再現する実験により、水が鉄と反応することで新たな鉱物を作り出し、鉄元素がその鉱物内を高速で移動することを確認しました。これにより、マントルに水が存在することで低速度域の形成につながることが示唆されました。また、この領域の大きさを形成するには、約30京トンの水(地球全体の海水の約20%に相当)が必要であると推定されました。この発見は、地球表層の水がマントル、そして核にまで循環している可能性を強く示唆しており、地球の成り立ちや内部構造の理解に新たな視点を提供することが期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に、10月15日(火)18時(日本時間)に公開されました。
地震波の伝わり方は、地球内部の構造に関する情報をもたらします。地表からの深さ2900キロメートルは、液体の鉄でできた核と、鉱物でできたマントルが接する「核-マントル境界」です。地震観測データによると、この境界のマントル側には、地震波が極端に遅く伝わる領域「低速度域」と呼ばれる数十キロメートルにわたる厚さの領域が存在します(図1)。この低速度域の成り立ちは地球科学の大きな謎の一つであり、長年にわたり議論が続いています。
一つの有力な仮説として、核からマントルへの鉄元素の移動が提案されています。しかし、これまでの研究で明らかになったのは、マントルを構成するケイ酸塩鉱物※3内を鉄元素が移動する速度は非常に遅いという事実でした。46億年という地球の歴史を経ても、鉄元素の移動はわずか数メートルと見積もられ、低速度域の広がり(数十キロメートル)を説明することはできませんでした。
本研究成果は、2024年10月15日(火)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。
- タイトル:“Extensive iron–water exchange at Earth's core–mantle boundary can explain seismic anomalies”
- 著者名:Katsutoshi Kawano, Masayuki Nishi, Hideharu Kuwahara, Sho Kakizawa, Toru Inoue and Tadashi Kondo
- DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-024-52677-9
なお、本研究は、JSPS科研費(JP 22H01322)の支援により実施されました。
※1 核―マントル境界
地球内部における核とマントルの間の境界を指し、136万気圧、4000ケルビンの超高温・高圧の環境である。地球は、地殻(深さ約30キロメートルまで)、マントル(深さ30~2900キロメートル)、核(深さ2900~6400キロメートル)から構成されている。マントルは主にケイ酸塩鉱物からなる複数種類の鉱物で構成されている。一方、核の外側半分(深さ2900~5200キロメートル)は主に液体の鉄で構成されている。
※2 地震波超低速度領域
核―マントル境界付近にある、地震波の伝わる速さが非常に遅い領域。成因として、核からマントルへの鉄元素の移動や、沈み込んだ古いプレートの残骸、初期地球からの形成残留物など複数の仮説があり、地球内部の謎として長年にわたり議論が続けられている。
※3 ケイ酸塩鉱物
ケイ素 (Si) と酸素 (O) を主成分とした鉱物群で、地球のマントルや地殻に広く分布する。マントルは主にかんらん石やブリッジマナイトなどのケイ酸塩鉱物で構成される。これらの鉱物は鉄元素を含むが、鉄元素の動きは非常に遅く、長い時間が経ってもマントル内でわずか数メートルしか移動しない。
※4 水成分を含む鉱物
マントルには、結晶構造中に水成分(H2OやOH基)を含む鉱物(含水鉱物など)が存在する。これらの鉱物は、地球内部に大量の水成分を貯蔵することができる。このようにして地球内部に貯蔵される水の質量は、海水の数倍に及ぶと推定されており、マグマの生成やマントルの対流など、地球の進化に大きな影響を与えている。特に、プレートの沈み込みに伴うマントルの下降流によって、水がマントル内を循環することが、近年の研究で盛んに議論されている。
参考: すぐにわかる地球深部水の謎
https://www.youtube.com/watch?v=1Kxj9jQJbPE
※5 マルチアンビル装置
高温・高圧の環境を人工的に再現するための実験装置。8個の立方体状のアンビルを大型プレスで加圧し、中心に置かれた試料に力を集中することにより高い圧力を発生させる。地球深部のような極端な温度・圧力環境下での鉱物や物質の性質を研究することに使用される。
参考: すぐにわかる世界一硬いダイヤモンドの作り方
https://www.youtube.com/watch?v=HyNKfuxqzIo&t=6s
※6 フェロペリクレース
マグネシウム (Mg) と酸素 (O)、鉄 (Fe) からなる鉱物。フェロペリクレース中の鉄元素の移動 (拡散) 速度は、ケイ酸塩鉱物に比べて数桁速い。