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【研究成果】西日本豪雨災害の被災者においてアレルギー性鼻炎が増加していたことが判明しました。 ~災害によるアレルギー疾患への影響解明に向けて~

本研究成果のポイント

 2018年の西日本豪雨の被災者では、アレルギー性鼻炎の治点鼻薬の処方が1年間にわたり増加していたことが明らかになり、災害時のアレルギー対策の重要性が示唆されました。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科 分子内科学 小西花恵、岩本博志准教授、服部登教授、地域医療システム学 松本正俊教授、大学病院総合内科・総合診療科 吉田秀平助教、広島大学大学院医系科学研究科 救急集中治療医学 大下慎一郎准教授、広島大学大学院 耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学 竹野幸夫教授、竹本 浩太助教による医療レセプトデータを用いた研究により、2018年の西日本豪雨災害の被災者では、非被災者と比較して点鼻薬の処方数が被災後に有意に増加し、その影響は1年間持続したことが明らかになりました。この研究成果が世界アレルギー機構(WAO)の医学雑誌「World Allergy Organization Journal」に掲載されました。これまでの研究では、豪雨災害とアレルギー性鼻炎の関連について、大規模なデータを用いて災害の影響を受けた人々と適切な対照群を比較した報告はなく、本研究により被災とアレルギー性鼻炎の関連がはじめて実証され、自然災害がアレルギー鼻炎を発症、増悪させる可能性が示唆されました。

 本研究成果は世界アレルギー機構(WAO)の医学雑誌「World Allergy Organization Journal」に掲載されました。
 また、本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。

掲載誌:World Allergy Organization Journal
論文タイトル:Impact of 2018 Japan floods on allergic rhinitis prescriptions 
著者名: Hanae Konishi, Hiroshi Iwamoto,Shuhei Yoshida, Yasushi Horimasu, Shinichiro Ohshimo, Kota Takemoto, Noboru Hattori, Sachio Takeno, Masatoshi Matsumoto. 
 

背景

 自然災害がアレルギー疾患に影響を及ぼす可能性は以前から指摘されていますが、豪雨災害とアレルギー性鼻炎の関連については、これまで大規模なデータを用いて災害の影響を受けた人々と適切な対照群を比較したものはありませんでした。本研究は厚生労働省より許可を得て、西日本豪雨災害により大きな被害を受けた3県(広島県、岡山県、愛媛県)の医療レセプト(診療報酬明細書)データを用いて、アレルギー性鼻炎の治療薬である点鼻薬の処方数の変化を、災害前後(それぞれ1年間)で評価しました。

研究成果の内容

 本研究の対象となった6,176,299人のうち36,076人が自治体から被災者と認定されていました。被災者における点鼻薬の処方は、被災後1年間にわたり非被災者と比較して増加しており、特にスギとヒノキの花粉シーズンである2月から4月の間で顕著でした(参考図)。差の差分析の結果、被災者では非被災者と比較して点鼻薬の処方が災害3ヶ月後に統計学的に有意に増加し(調整ROR 1.40:95%CI 1.24-1.58)、災害1年後にも有意に増加していました(調整ROR 1.72:95% CI 1.56-1.95)。被災した人では、年齢や性別に関係なく、災害後に点鼻薬を処方された割合が非被災者よりも多いことがわかりました。また、多変量ロジステック回帰分析では、災害の影響と花粉の飛散量は独立して点鼻薬の処方量と関連していました。

今後の展開

 地球温暖化により自然災害が増加している今日において、自然災害がアレルギー疾患に与える影響を把握しておくことが重要です。本研究結果は、自然災害がアレルギー性鼻炎の発症や悪化に関与する可能性を示しています。
 豪雨災害発生時には、カビへの曝露や汚染物質、心理的ストレスなど、アレルギー発症のリスク因子を適格に把握しアレルギー性鼻炎の発症・悪化を念頭に診療や対策を行う必要があることを示唆しています。
 さらに、被災者では花粉症シーズンにおいて、花粉の影響に加えて被災の影響が上乗せされることが分かりました。これは被災者の長期的健康管理において有用な知見であるとともに、複数の環境因子が重なった際のアレルギー性鼻炎の病態解明にもつながると考えられます。
 

用語解説

点鼻薬:本研究では2018年時点で日本でアレルギー性鼻炎に対して保険適応を有していた、抗ヒスタミン点鼻薬とステロイド点鼻薬を指します。
ROR: Risk Odds Ratio, CI: "Confidence Interval

参考図:西日本豪雨災害前後の花粉量および点鼻薬・第二世代抗ヒスタミン内服薬の処方の推移

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学大学院分子内科学 小西 花恵
Tel:082-257-5555 
E-mail:d230799@hiroshima-u.ac.jp

<報道に関すること>
広島大学財務・総務室広報部広報室
Tel:082-424-4383
E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp


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