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【研究成果】1日1時間高音域の音楽を聴くだけで難聴者の脳が活性化し、 聞き取り能力が改善することが判明 ~新しい聴覚リハビリ手法として期待~

本研究成果のポイント

 高音質な音響デバイスで1日1時間高音域の音楽を聴くことで、難聴者の脳が活性化し、騒がしい環境でも言葉が聞き取りやすくなる効果が確認されました。補聴器を使わずに行える新しい聴覚リハビリとして期待されています。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科および広島大学病院の研究グループは、感音性難聴者を対象に、明瞭度の高い音(明瞭聴取音)を用いた「音楽聴取を活用した聴覚リハビリ」の効果を実証しました。難聴のある被験者が、1日1時間、高明瞭化音響デバイスから流れる音楽を35日間聴くことで、脳の聴覚中枢が活性化し、特に騒音下での言葉の聞き取り能力に有意な改善が見られました。
 本研究は、補聴器のように常時装用することが難しい方や抵抗がある方に対しても、自宅などで取り組める聴覚リハビリテーションの有効な選択肢を提示するものです。
 

高明瞭化音響デバイス

論文情報

タイトル:
Intelligibility Sound Therapy Enhances the Ability of Speech-in-Noise Perception and Pre-Perceptual Neurophysiological Response

著者:
Takashi Ishino, Kei Nakagawa, Fumiko Higashikawa, Sakura Hirokane, Rikuto Fujita, Chie Ishikawa, Tomohiro Kawasumi, Kota Takemoto, Takashi Oda, Manabu Nishida, et al.

掲載誌: Biology 2024, 13(12), 1021 
DOI: https://doi.org/10.3390/biology13121021 
URL: https://www.mdpi.com/2079-7737/13/12/1021

本研究は、特定臨床研究として共同研究機関であるユニバーサル・サウンドデザイン株式会社聴脳科学総合研究所の協力を得て行われました。
https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCTs062190028

背景

 日本では高齢化の進行とともに、感音性難聴を抱える方が増えています。感音性難聴は内耳の蝸牛や聴神経から脳の聴覚中枢までの障害により音の感知・認識機能が低下し、音が聞こえにくくなる疾患です。騒がしい環境下で会話の聞き取りが難しくなり、特に語音明瞭度(言葉を聞き分ける力)が低下するため、集中して聞こうとすることで疲れやすくなります。こうした状態が続くと、聴覚刺激の減少による聴覚機能の廃用や認知機能の低下、脳の働きへの悪影響が懸念されます。感音性難聴では、音量を上げても明瞭性が改善されにくく、耳から脳への音情報の伝達・処理が不十分になると、記憶や理解をつかさどる脳の働きも低下し、結果として聴覚剥奪による機能や認知の衰えを早める可能性があります。

 従来、難聴の対策としては補聴器の使用が一般的ですが、「長時間の装着が難しい」「使いづらい」といった理由から、継続して使えない方も少なくありません。そのような背景から、補聴器に代わる新しい聴覚リハビリテーションの選択肢として、明瞭で聞き取りやすい「高精細な音」を活用した音響療法が注目を集めています。

 今回の研究では、補聴器では補いにくい高音域(2kHz~8kHz)および超高音域(8kHz以上)の音を明瞭に再現する高明瞭化音響デバイスを用い、高音の聴こえが残っている難聴者に対して、短時間の音楽聴取を毎日続けることで、脳の音処理機能がどのように変化するかを検証しました。補聴器を装着しなくても実施できるこうした方法は、継続しやすく、脳の反応の変化を伴う効果的なリハビリ手法として期待されています。

研究成果の内容

 40人の難聴患者を対象に、明瞭聴取音療法群へ高明瞭化音響デバイスを用いた音楽療法:HQ(全症例)、HF-HQ(高音域の聴力が保たれているグループ))と対照群(Ctrl)に分け、35日間、毎日1時間の音楽聴取を実施しました。 

・難聴患者の騒音下における音声知覚能力が改善
:騒音下での音声聞き取りテスト(S/N比+10dB)で、IH音療法群(HQ、HF-HQ)に有意な改善を確認(p<0.05)しました。 

・明瞭聴取音療法(HQ、HF-HQ)が、聴覚に関する脳活動を活性化することが示された
:脳磁図計測では、聴覚皮質(左上側頭回)における神経反応(N1m-P2m、MMNm)が活性化しており、明瞭な音が聴覚中枢に的確な刺激を与えていたことが示唆されました。 

・明瞭聴取音療法は年齢に関係なく有効であることが認められ、特に高音域の聴力が比較的保たれている被験者(HF-HQ)では、より大きな効果が得られました。明瞭聴取音療法により脳の音声処理能力が向上し、「騒音下での聞こえ」の改善につながったと考えられます。
 

今後の展開

 本研究の成果は、高精細な音を活用した非装着型の聴覚リハビリとしての新しい選択肢を社会に提供する可能性を持っています。本研究で示された明瞭聴取音療法の有効性を踏まえ、今後はその実用化に向けた開発や臨床応用の検討を進めます。特に、最適な使用時間や期間の特定、補聴器との比較による満足度の評価など、より実践的な条件下での効果検証、長期的な効果や持続性の確認に取り組んでまいります。

参考資料

◆雑音下語音聴取能検査(SINT) (Figure 2.) 
明瞭聴取音療法群(HQ、HF-HQ)によるS/N比 +10における雑音下語音聴取能検査(SINT)の改善はすべての聴力レベルで観察され、音治療前の正確率が低い人ほど高い改善が見られた。
 

◆聴覚誘発電位(AEFs)におけるN1m-P2m振幅の改善(Figure 4.)
対照群(Ctrl)と比較して、明瞭聴取音療法群では、音治療後、左上側頭回(聴覚情報処理を行う部位)で脳活動を示すN1m-P2mの振幅が55dB(HQ)と60dB(HQ、HF-HQ)の刺激で有意に増加した。

◆ミスマッチ陰性電位(MMNm)反応の変化(Figure 6.)
明瞭聴取音療法群(HQ、HF-HQ)では音響療法前(pre)と比べ、音響療法後(post)で左上側頭回(聴覚情報処理を行う部位)(Lt)におけるミスマッチ陰性電位(MMNm)(注意機能に関する脳活動を反映)の振幅が有意に増加したが、対照群では認められなかった。

◆明瞭聴取音(IH音  intelligible-hearing sound):高音域を強調し歪みを抑えた高精細音。脳の聴覚処理を効果的に刺激します。 
◆雑音下語音聴取検査(SINT):雑音の中でどれだけ言葉を聞き取れるかを測る評価指標です。 
◆聴覚誘発電位、ミスマッチ陰性電位:脳磁図で捉えられる聴覚中枢の神経応答。聴覚刺激への脳の反応性や情報処理の状態を示します。
◆COMUOON pocket:現在は、本研究において高明瞭化音響デバイスに用いたIHスピーカー技術をベースにさらに開発をすすめパーソナルコミュニケーション支援システムとして、難聴者及びその支援の場において日常的に使用しやすく、高精細な音を届けることができる集音器として改良を重ねている(ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社、https://www.comuoon.jp/)。
 

【お問い合わせ先】

<研究について> 
広島大学大学院医系科学研究科耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学研究室
広島大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科/聴覚・人工聴覚機器センター 
講師 石野 岳志
電話番号: 082-257-5555(代表)
メールアドレス: tishino@hiroshima-u.ac.jp

<ユニバーサル・サウンドデザイン/コミューンについて> 
ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社 
代表取締役 CEO 中石 真一路 
電話番号: 0120-033-553 
メールアドレス: usd-press@u-s-d.co.jp 
 


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