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【研究成果】希少で高価な貴金属を用いず低濃度の二酸化炭素を直接資源化 ~マンガンを使った高耐久光触媒で人造石油原料を効率生成~

本研究成果のポイント

  • 地球に豊富な元素「マンガン」を使い、希少金属を一切用いずに二酸化炭素を還元する光触媒系を開発
  • 従来、二酸化炭素を人造石油の原料となる一酸化炭素に還元するには、ほぼ100%の高濃度二酸化炭素が必要であったが、この光触媒システムにより、希薄な濃度(1-10%)の二酸化炭素を還元することが可能となった
     

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の鴨川径特任助教、石谷治特任教授らの研究グループは、可視光照射により低濃度の二酸化炭素(CO2)を、有用な化学物質である一酸化炭素(CO)へ効率的かつ選択的に直接還元する光触媒システムの開発に成功した。
 今回開発された光触媒システムは、地球に豊富に存在するマンガンを含む金属錯体*1触媒と、有機色素*2からなり、希少で高価な金属を一切使わずにCO2を資源化できる。さらに今回開発された光触媒は、マンガン錯体の優れたCO2捕集能を活用できるので、低濃度(1-10%)のCO2を、濃縮することなく効率的に還元できる。この光触媒反応で選択的に得られるCOは、化学産業において有用な化合物であり、人造石油の原料でもある。本成果は、火力発電所や製鉄所からの排気ガス中のCO2を、エネルギーとコストのかかるCO2濃縮過程を経ずに直接資源化できるCCU技術*3への活用が期待される。

 なお、研究成果は、10月17日にアメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。また、広島大学から論文掲載料の助成を受けた。

 

論文情報

タイトル:Efficient and Selective Photocatalytic Conversion of Low-Concentration CO2 to CO Using Mn-Complex Catalysts.
掲載ジャーナル:J. Am. Chem. Soc. 2025, 147 (43), 39284-39297.
著者:K. Kamogawa*, H. Koizumi, O. Ishitani.*
  *責任著者
DOI:10.1021/jacs.5c10694
 

背景

 太陽光を利用したCO2の光触媒還元資源化は、人類が直面している地球温暖化とエネルギー及び炭素資源不足の問題を一挙に解決する技術として注目されている。しかし、これまで開発されたCO2還元光触媒の多くは、純粋なCO2を還元することを目指していた。しかし工場や発電所の排ガス中のCO2濃度は数%~20%程度と低く、その中からCO2を分離・回収するには多大なエネルギーと費用を要する。そのため、排ガス中の希薄なCO2を直接資源化できる光触媒システムの開発が求められている。また、多量のCO2を処理するためには、光触媒を形作る物質は、安価であり、かつ多量に使用可能でなければならない。

研究成果の内容

 本研究では、マンガン錯体触媒の配位子に立体的に嵩高いメシチル基を導入することで光触媒耐久性を大幅に向上させることに成功した。また、トリフルオロエタノール(CF3CH20H)と少量のジイソプロピルエチルアミン(DIEA、図1左上)を共存させると、このマンガン錯体触媒が、低濃度のCO2しか含まないガスからもCO2を効率よく捕集し分子内に取り込むことを見出した(図1)。この反応により捕集されたCO2は、今回開発した光触媒システムにおいて効率よくCOへと選択的に還元できる。
 

図1. マンガン錯体触媒によるCO2捕集反応:捕集されたCO2(赤字)は、光触媒反応システムで効率よく還元される。

 このマンガン錯体触媒と有機色素4DPAIPN*4(図2左)を含む溶液に可視光を照射すると、高い耐久性と効率でCO2がCOへと選択的に変換された。さらにこの光触媒システムは、反応容器中のCO2濃度を10%さらに1%へと低下させても優れた光触媒能を維持した。図2に、100%, 10%および1%CO2雰囲気下でそれぞれ光触媒反応を行った際のCO生成の経時変化を示す。10%と1%CO2雰囲気下では、100%CO2雰囲気下の約88%と44%の速度でCOが生成し、高い光触媒反応速度が維持されることがわかる。

図2. 有機色素4DPAIPNと様々なCO2濃度下での光触媒反応の結果

今後の展開

本研究によって、地球上に多く存在する元素だけで構成された触媒と有機色素を用いて、排ガス中の低濃度CO2からでも、濃縮過程を経ることなく有用な化学原料を生み出す新しいカーボンリサイクル技術を開発できる可能性が示された。今後は、さらなる耐久性の向上、実際の排ガス中での性能評価や水の還元剤としての利用など、実用化に向けて必要な機能の構築と評価に取り組んでいく。

従来研究と本研究の対比

項目 従来(貴金属触媒) 本研究(Mn 光触媒)
使用金属 貴金属(Re、Ru、Ir) Mn(安価・豊富)
 
必要な CO₂ 濃度 ほとんどの系で高濃度 1–10% の低濃度で可
CO₂ 濃縮工程 ほとんどの系で濃縮が必須 濃縮不要
反応効率(希薄 CO₂) ほとんどの系で反応速度が大幅に低下 10%:88%、1%:44%(純 CO₂と比較した反応速度)
 
工業的スケール性 高コストで困難 低コストで拡大可能

謝辞

 本研究は、科学技術振興機構知財活用支援事業「スーパーハイウェイ」の支援を受けて行われた。

用語解説

*1 金属錯体: 
金属イオンが配位子と呼ばれる分子やイオンと結合することでできた化合物
*2 有機色素の役割: 
可視光を吸収し、還元剤から触媒に電子を渡す役割をする。
*3 CCU技術:
Carbon Capture and Utilizationの略、低濃度CO2を捕集して資源化する技術の総称
*4 4DPAIPN: 
EL素子用の化合物として開発された。可視光をよく吸収し、酸化還元反応にも安定で、光触媒反応に利用できる基本的性質を有している。図2に構造を示す。

 

【お問い合わせ先】

 広島大学大学院先進理工系科学研究科 石谷 治
 Tel:082-424-7340 FAX:082-424-7340
 E-mail:iosamu*hiroshima-u.ac.jp
 (*は半角@に置き換えてください)
 


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