広島大学大学院医系科学研究科 肝臓学 柘植 雅貴
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本研究成果のポイント
B型肝炎の治療前および治療中において、「肝臓内でのウイルスの増えやすさ」を予測できうる新しい指標を発見しました。
治療の効き具合をよりリアルに把握し、薬の選び方や治療を続けるかどうかの判断に役立つ可能性があります。
概要
広島大学病院肝疾患センターの研究チームは、B型肝炎の治療継続や再発予測に関し、従来とは異なるアプローチでの測定を行う方法を発見しました。既存の方法では「肝臓内にどれくらいウイルスが作られているか」という量を測定していましたが、「肝臓内でウイルスがどれくらい増えやすいか」を評価する方法を見出し、その効果を検証しました。
本研究は、学術誌「International Journal of Molecular Science(Q1)」に掲載されました。
<発表論文>
掲載誌:International Journal of Molecular Science (MDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)、Q1)
論文タイトル:Utility of Serum HBV RNA Measurement During Nucleoside/Nucleotide Analog Therapy in Chronic Hepatitis B Patients
著者名:Keiichi Hiraoka, Masataka Tsuge, Michihiko Kawahara, Hatsue Fujino, Yasutoshi Fujii, Atsushi Ono, Eisuke Murakami, Tomokazu Kawaoka, Daiki Miki, C. Nelson Hayes, Seiya Kashiyama, Sho Mokuda, Shinichi Yamazaki, Shiro Oka
DOI: https://doi.org/10.3390/ijms262010141
掲載日時:2025年10月17日
背景
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスに感染することによって肝臓に炎症が起こる病気で、放置すると肝硬変や肝がんに進行する可能性がある病気です。
B型肝炎ウイルスは、肝臓の細胞にあるcovalently closed circular DNA (以下、cccDNA)というB形肝炎ウイルスの設計図からHBV RNAというB型肝炎ウイルスの部品の材料となるものを作ります。現在使用されている薬はウイルスそのものの量を大きく減らすことは可能ですが、cccDNAからのウイルス性タンパク質の産生は続く場合があり、長期的な病状の進行リスクを完全には抑えられません。そのため、B型肝炎ウイルスの治療薬の効果を評価する上で、単にウイルスの数を減らせるだけでは足りず、別の指標が求められてきました。
上記の新しい指標として、「HBV RNAを血清で測定する方法」が、治療の継続判断や病気の再発予測に役立つ可能性を指摘されていました。これは、血液の成分のひとつである血清の中に、どれくらいHBV RNAが含まれているかを調べる方法です。つまり「肝臓内にどれくらいウイルスがいるか」ではなく「肝臓内でウイルスがどれくらい増えやすいか」を測るものです。
本研究ではETVとTAFという代表的な薬剤を用い、上記方法の効果を検討しました。
研究成果の内容
本研究では、B型肝炎の患者さん86人を対象に、治療の「前」と「12週間後」「48週間後」に血液検査を行い、HBV RNAの量を調べました。結果として、HBV RNAが多い人ほど、他の検査の目印(HBs抗原=ウイルスが体にいる目印、HBV DNA=完成したウイルスの数、HBコア関連抗原=活動の強さの目印)も多い傾向があり、HBV RNAは「今後肝臓内でウイルスがどれくらい増えそうか」を示す指標になり得ると分かりました。
また、肝臓が硬くなっている人では、HBV RNAやウイルスそのもの量は低めでしたが、この二つの関係が大きく崩れているわけではないことも示されました。さらに、治療開始から48週の時点では、ウイルスが活発な人で、HBV RNAが相対的に多い傾向が見られました。一方、肝臓の炎症の数値(ALT)が高い人では、治療によってHBV RNAがより下がる傾向も確認できました。
使った薬による違いもありました。ETVとTAFのどちらでも、ウイルスの量は同じくらいよく減りましたが、HBV RNAは治療12週でTAFのほうが早く下がる傾向があり、薬によって違いが出る可能性が示されました。
以上から、HBV RNAを血清で測ることは、治療の効き具合をよりリアルに把握し、薬の選び方や治療を続けるかどうかの判断に役立つ可能性があります。
以下、具体的な研究成果です。
本研究は慢性B型肝炎患者86人について、治療前、治療開始後12週、48週の血清HBV RNAを測定しました。治療前のRNAはHBs抗原、HBV DNA、HBコア関連抗原と有意に相関していました。肝線維化が進むほどDNAとRNAは低値となりましたが、RNA/DNA比は変化がありませんでした。治療48週時にはRNA/DNA比がHBe抗原陽性例で有意に高くなり、ALTが100 U/L以上の患者ではRNAが12週・48週で低下する傾向がありました。薬剤別にみると、DNAの減少は両薬剤で大きな差はありませんでしたが、RNAの減少は12週時にTAFで顕著であり、薬剤ごとにRNAの動きが異なる可能性が示されました。これらの結果は、血清HBV RNAが肝臓内ウイルス複製を反映する有用な指標となり得ることを示唆しており、薬剤によるRNAの動的変化が治療戦略に影響を与える可能性を示しています。
今後の展開
本研究ではTAF使用症例が6例と限られており、症例を蓄積させ再検討する必要性があり、また大規模・他施設での検証や、他のNA薬剤の比較、肝機能指標や他のウイルス学的マーカーとの統合的評価が求められます。HBV RNAの減少が臨床的な長期治療成果とどの程度関連しているか、さらなる検証が必要だと考えています。

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