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【研究成果】世界初、超高性能熱電半金属に潜む「プラズモニックポーラロン」を直接観測 -半金属は熱電材料にならないという常識を覆す-

本研究成果のポイント

  • 半金属1)でありながら極めて高い熱電性能を示すTa2PdSe6の電子構造を直接観測しました。
  • 電子が集団的電荷振動と結合した新しい準粒子「プラズモニックポーラロン」2)を発見しました。
  • 電子と正孔3)の性質の違いが、半金属の高性能熱電変換を生むことを明らかにしました。

概要

 岡山大学学術研究院先鋭研究領域(異分野基礎科学研究所)の大槻太毅准教授と名古屋大学大学院理学研究科の中埜彰俊助教(現:同大学大学院工学研究科講師)、寺崎一郎教授、京都大学大学院人間・環境学研究科の吉田鉄平教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の長谷川巧准教授、広島大学放射光科学研究所の有田将司技術専門職員、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の堀場弘司准教授(現:量子科学技術研究開発機構上席研究員)、北村未歩助教(現:量子科学技術研究開発機構主任研究員)らの研究グループは、半金属でありながら極めて高い熱電性能を示す準一次元物質Ta₂PdSe₆において、電子と集団的電荷振動が結合した新しい準粒子状態「プラズモニックポーラロン」を世界で初めて直接観測しました。
 これらの研究成果は2026年2月5日、ネイチャー系国際科学誌「npj Quantum Materials」に掲載されました。
熱電材料4)は温度差から電気を取り出せるため、エネルギー回収や冷却技術への応用が期待されていますが、電子と正孔が共存する半金属では両者の寄与が打ち消し合い、熱電性能は小さいと考えられてきました。本研究では、KEKフォトンファクトリーと広島大学放射光科学研究所での角度分解光電子分光(ARPES)によりTa₂PdSe₆の電子状態を直接観測し、軽く寿命の長い正孔と、強く散乱される電子からなる非対称な電子構造を明らかにしました。さらに、電子バンドにのみ現れるレプリカ(複製)構造が、電子とプラズモンの結合によるプラズモニックポーラロンに由来することを示しました。これらの特性が、半金属でありながら高い熱電性能を実現する起源であると考えられます。
 本研究成果は、半金属を新たな熱電材料として捉え直す可能性を示し、低温で高効率に動作する次世代熱電材料の開発につながることが期待されます。

発表内容

 <現状>
 私たちの身の回りでは、多くのエネルギーが熱として捨てられています。熱電材料は、この無駄に捨てられている熱を、直接「電気」に変換するエネルギー技術で、捨てられてしまう未利用熱の回収や冷却技術への応用が期待されています。しかし、よく電気を流す材料ほど熱から電気を生み出しにくいという問題があり、高い電気伝導度と大きな熱起電力5)を同時に実現することは難しく、材料開発は大きな課題となってきました。特に、電子と正孔が同時に存在する半金属では、それぞれの寄与が打ち消し合うため、熱電性能は小さいと長年考えられてきました。一方で、半金属は電気伝導度が高いという利点を持ちます。我々の研究チームはこの半金属において電子状態をうまく制御することができれば、大きな熱起電力を生み出すことができる点に注目しました。

<研究成果の内容>
 本研究では、半金属でありながら高い熱電性能を示す物質 Ta₂PdSe₆ を調べました。強い光を作り出すことのできる放射光6)施設を用いて電子の動きを直接観測できる角度分解光電子分光(ARPES)7)を行ったところ、二つの異なる性質をもつ電気の運び手が存在することがわかりました(図1)。一つは軽くて動きやすい正孔、もう一つは動きにくく散乱されやすい電子です。一般に半金属では電子と正孔の動きやすさは同程度になりますが、この物質は電子と正孔で大きく違っていることを示しています。さらに、電子がまわりの電荷の揺れと結びついた特殊な状態「プラズモニックポーラロン」が電子キャリアにのみ働くことを発見しました。 

 <社会的な意義>
 この研究は、半金属は熱電材料に不向きであるという従来の常識を覆し、電子と正孔の振る舞い方の違い(電子状態の非対称性)を生み出す相互作用を活用することで熱電変換の高効率化が可能であることを示しました。これは、これまで見過ごされてきた半金属や低次元物質を新たな熱電材料として再評価する指針を与えるものです。今後、低温で高効率に動作する次世代熱電材料の開発や、エネルギー利用効率の向上に貢献することが期待されます。
 

図2. 電子バンドに主バンドと平行なレプリカ構造が観測されます。この構造は、電子と集団的電荷振動(プラズモン)の結合によって形成されるプラズモニックポーラロンに起因すると考えられます。この相互作用により、電子側では準粒子が強く修飾され、正孔との顕著な非対称性が生じています。

論文情報

論 文 名:Band-selective plasmonic polaron in thermoelectric semimetal Ta2PdSe6 with ultra-high power factor
掲 載 誌:npj Quantum Materials
著   者:Daiki Ootsuki, Akitoshi Nakano, Urara Maruoka, Takumi Hasegawa, Masashi Arita, 
Miho Kitamura, Koji Horiba, Teppei Yoshida, Ichiro Terasaki 
DOI:10.1038/s41535-026-00858-8
URL:https://www.nature.com/articles/s41535-026-00858-8

研究資金

 本研究は、JSPS科研費(Grant No. 17H06136, 21K13878, 21K13882, 23K1305, 24H01621, 25K07226, 25K07184)の支援を受けて実施しました。角度分解光電子分光(ARPES) は高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光共同利用実験課題(課題番号:2018S2-001, 2019G122, 2021G101, 2021S2-001, 2022G077, 2024G081)によりBL-28A、及び広島大学放射光科学研究所共同利用実験課題(課題番号:21AG030, 21BG022, 22BG010, 25BG029)によりBL-9Aで実施しました。本論文は岡山大学「インパクトの高い国際的な学術誌へのAPC支援」を受けています。

補足・用語説明

1)半金属
 伝導帯の下部と価電子帯の上部がフェルミ準位を跨いで僅かに重なり合ったバンド構造を示す物質。
2)プラズモニックポーラロン
 金属や半導体中の「電子」と「電子の集団的な振動(プラズモン)」が相互作用し、形成される状態であり、電子がプラズモンを引き連れて移動する状態のことである。
3)正孔
 電子が抜けたことで生じる「電子の穴(空席)」、プラスの電荷を帯びた粒子のように振る舞う電気の運び手。
4)熱電材料
 熱と電気を直接変換する材料。排熱から電力を回収するクリーンエネルギー技術や無振動・無騒音の冷却デバイスとして注目されている。
5)熱起電力
 温度差によりその温度差に比例した電圧が生じること(この現象を「ゼーベック効果」と呼ぶ)。
6)放射光
 加速器によりほぼ光の速さまで加速された電子から作られる指向性の高い非常に強い光。
7)角度分解光電子分光(ARPES)
 物質に光を照射することで物質から電子を直接取り出して調べる手法。特に電子の持つ運動エネルギーと放出角度を検出し、電子のエネルギー状態(エネルギーバンド)を決定することができる。

【お問い合わせ先】

(研究に関すること)
岡山大学学術研究院 先鋭研究領域
(異分野基礎科学研究所)
准教授 大槻 太毅
(電話番号)086-251-7901
(メール)ootsuki.daiki*okayama-u.ac.jp

名古屋大学大学院 工学研究科
講師 中埜 彰俊
(電話番号)052-789-2426
(メール)nakano.akitoshi.b0*f.mail.nagoya-u.ac.jp

広島大学大学院先進理工系科学研究科
准教授 長谷川 巧
(電話番号)082-424-6545
(メール)hase@hiroshima-u.ac.jp

(報道に関すること)
岡山大学 総務部 広報課
(電話番号)086-251-7292
(メール)www-adm*adm.okayama-u.ac.jp

名古屋大学 総務部 広報課
(電話番号)052-558-9735
(メール)nu_research*t.mail.nagoya-u.ac.jp

 広島大学 広報室
(電話番号)082-424-3749
(メール)koho*office.hiroshima-u.ac.jp

京都大学 広報室 国際広報班
(電話番号)075-753-5729
(メール)comms*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

高エネルギー加速器研究機構 広報室
(電話番号)029-879-6047
(メール)press*kek.jp

 (*は半角@に置き換えてください)


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