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【研究成果】人工呼吸器を外した後に起こる「抜管後肺炎」(PEP)を独立した疾患として初めて提唱—3万例超のビッグデータでリスク要因を初めて明らかに—

本研究成果のポイント

・ 予定全身麻酔手術患者3 万例超のビッグデータ(DPC(注1)、レセプト(注2)を解析しました。
・ 抜管後に発症する肺炎(PEP)(注3)が人工呼吸器関連肺炎(VAP)(注4)より多い可能性が示されました。
・ PEP のリスク因子として、高齢、やせ・低栄養、もともとの生活機能低下が抽出されました。
・ これまで見過ごされてきたPEP を「独立した臨床概念」として提唱しました。

概要

 広島大学病院の摂食嚥下支援チームは、予定全身麻酔下手術患者を対象に、「抜管後肺炎(postextubation pneumonia: PEP)」の発症頻度とリスク因子を、診断群分類(DPC)データおよび診療報酬(レセプト)データを用いて解析しました。
 その結果、31,828 例中212 例(0.67%)でPEP を発症し、これは従来重視されてきた人工呼吸器関連肺炎(VAP)よりも頻度が高いことが明らかとなりました。さらに、PEP は主に抜管後1~2 週間以内に集中して発症し、特に高齢、やせ・低栄養、もともとの生活機能低下患者でリスクが高いことが示されました。
 本研究は、PEP を『嚥下障害を基盤とする独立した病態』として位置づけ、早期からの嚥下評価と多職種による介入の重要性を示した大規模データに基づく研究です。

背景

 人工呼吸器管理中に発症する肺炎(VAP)は広く知られていますが、抜管後に発症する肺炎については、これまで体系的に研究されていませんでした。
 抜管後には、嚥下機能低下、咽頭・喉頭の感覚障害、呼吸と嚥下の協調障害などが生じやすく、誤嚥リスクが高まります。
 しかし、この病態は、術後合併症などとして扱われ、嚥下障害に注目した独立した疾患概念として扱われてこなかったのが現状です。

研究成果の内容

〇 対象:予定全身麻酔手術患者 35,535 例⇒最終解析:31,828 例
〇 方法:DPC、レセプトデータを抽出し、統計解析を実施。
〇 結果:
 ・ PEP 発症率:0.67%(212 例)
 ・ VAP 発症率:0.08%(27 例)
 ・ PEPのリスク因子:
   高齢、男性、低BMI、意識障害、ADL(注5)不良
 ・ PEPの発症時期:抜管後1週間以内に約80%、2週間以内に約93%

 これらの結果から、PEPはVAP等とは異なる独立した病態であり、周術期管理の盲点となってきた一方で、予防可能な肺炎であることが明らかになりました。

今後の展開

 今後は、多施設連携によるビッグデータ解析を進めるとともに、アプリやAIを活用して、嚥下機能のスクリーニングから評価、介入、リハビリまでを一体化した支援体制の構築を目指します。
 さらに、本研究で提唱した「抜管後肺炎(PEP)」という新たな概念により、これまで見過ごされがちであった“人工呼吸器を外した後の危険な時期”に注目した医療が可能になります。これにより、早い段階から嚥下の機能を評価し、多職種で予防的な対応を行うことで、肺炎の発症を防ぎ、術後の回復を早めることが期待されます。
 本成果は、患者さんの負担軽減や入院期間の短縮につながるだけでなく、医療全体の質の向上にも貢献することが期待されます。

発表論文

・掲載誌:Scientific Reports
・論文タイトル:Risk factors for postextubation pneumonia using diagnosis procedure combination and claims data in Japan
・著者:Junko Hirayama, Masahiro Nakamori*, Akihiro Matsumoto, Sanmei Chen, Kohei Yoshikawa, Yasushi Horimasu, Kohei Ota, Hirotsugu Miyoshi, Yoko Shimpuku, Yoko Sato
*:責任著者
・DOI:10.1038/s41598-026-44666-3

参考資料

図 抜管後肺炎(PEP)の発症時期の分布
抜管後肺炎(PEP)の発症時期を解析した結果、約80%が抜管後1週間以内、約93%が2週間以内に発症していることが明らかとなりました。このことは、人工呼吸器を外した後すぐの期間が最も危険な時期であることを示しており、術後早期から(術前の段階での評価と介入が最も望ましい)の嚥下機能評価や多職種による予防的介入が重要であることを示唆しています。

用語解説

(注1)診断群分類(Diagnosis Procedure Combination:DPC):日本の入院医療における診療報酬制度の一つで、診断名や治療内容に基づいて医療費を包括的に評価する仕組みです。全国的に標準化されたデータであり、大規模臨床研究に活用されています。

(注2)レセプト(診療報酬明細書):医療機関が保険診療の内容に基づいて、医療費を請求するために作成する明細書です。診断名、処置、手術、投薬、検査などの詳細な医療情報が記録されており、日本では全国で統一された形式で管理されています。本研究では、このレセプトデータを活用することで、多数の患者を対象とした大規模な解析が可能となりました。

(注3)抜管後肺炎(Postextubation pneumonia: PEP):人工呼吸器を使用するために挿入した気管チューブを抜いた後に発症する肺炎です。抜管後は、嚥下(飲み込み)機能の低下や気道防御機能の障害により、食物や唾液が気管に入りやすく(誤嚥)、肺炎を引き起こすことがあります。本研究では、抜管後30日以内に新たに抗菌薬治療を要した肺炎をPEPと定義しました。

(注4)人工呼吸器関連肺炎(Ventilator-associated pneumonia: VAP):人工呼吸器を装着している間に発症する肺炎です。気管チューブや人工呼吸器回路への細菌の付着・増殖が主な原因とされ、集中治療領域で重要な院内感染症として知られています。

(注5)日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL):食事・移動・排泄・入浴など、日常生活に必要な基本的な動作能力のことです。 本研究では、ADLが低い患者ほど肺炎リスクが高いことが示されました。

【お問い合わせ先】

大学病院 脳神経内科
講師 中森 正博
Tel:082-257-5201  Fax:082-505-0490
E-mail:mnakamo*hiroshima-u.ac.jp

 (*は半角@に置き換えてください)


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