<広報に関すること>
広島大学 宇宙科学センター
植村 誠 准教授
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広島大学 広報グループ
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・国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の辻本匡弘 准教授と広島大学宇宙科学センターの植村誠 准教授らの研究チームは今回、宇宙望遠鏡のX線分光撮像衛星(XRISM:クリズム)で観測した中性子星連星の鉄蛍光輝線(※1、2)に対し、ガスの動きを立体的に調べるドップラートモグラフィーを適用し、X線で世界初となる輝線の放射領域を特定しました。
・ブラックホールや中性子星のような非常に重い天体はふつうの星(※3)とペアを組んで回っていることがあります。このとき、相手の星からガスが引き寄せられてブラックホールのようなコンパクト天体が吸い込まれるとき、とても強いX線が発生します。
・ふつうの星とペアを組んでお互いに回り合う連星系をなす場合、ペアの星からコンパクト天体に対して物質が落ち込むことで、非常に明るいX線源になります。
・この連星運動による輝線の波長変化(ドップラーシフト)(※4)を1周期分観測することで、医療のCTスキャンのように目に見えないガスの流れを“画像”として表すことができます。この手法はドップラートモグラフィーと呼ばれます。
・ドップラートモグラフィーは今まで観測機器の性能限界によるX線帯域での応用は長らく実現できませんでしたが、非常に高い性能を持つ宇宙望遠鏡「XRISM」の登場により、X線でもこの方法を使えるようになりました。
・本成果は、宇宙望遠鏡のXRISMにより初めて実現したX線でのドップラートモグラフィーが、ブラックホールや中性子星のまわりで、ガスがどのくらいの速さで動いているのかを詳しく調べる有力な方法であることを示したものです。
宇宙には、非常に大きな質量がごく小さな領域に集中した高密度天体があり、こうした天体はコンパクト天体と呼ばれます。ブラックホールや中性子星がその代表例です。こうした天体は、2つの星が互いの重力で結びついて回り合う連星系をつくっていることがよくあります(図1)。このような連星系では、コンパクト天体の強い重力によって、相手の星からガスが引き寄せられ、中心へと流れ込んでいきます。流れ込んだガスは、天体のまわりで円盤のように広がりながら回り、落ちていく途中でエネルギーを放出します。そのため、このしくみ全体はとても明るいX線を出す天体として観測されます。ただし、このガスの流れはとても遠くにあるため、望遠鏡でも写真のように直接見ることはできません。
図1: コンパクト連星系のイメージ図。一方の星からコンパクト天体へ質量が流れ込み、コンパクト天体周りには円盤及び高温の物質が存在する。(出典:BinSim を用いて東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻/宇宙科学研究所修士2年 鮫島直人作成)
一方で、連星系では天体だけでなくその周囲の物質も重力の影響を受けて軌道運動しているため、物質の運動に応じて光のエネルギーがわずかに変化(ドップラーシフト)します。この変化を連星軌道周期に渡って調べることで、どの方向に・どのくらいの速さで流れる物質からの放射が強いのか、すなわち物質の「速度分布」を明らかにできます。連星系の中を流れる物質をさまざまな方向から観測しているという点は、人体をさまざまな方向から調べて内部の断面像を作るCTスキャンと似ています。この手法はドップラートモグラフィーと呼ばれます(図2左)。ドップラートモグラフィーはこれまで主に可視光で確立されてきた手法で、X線では、エネルギーを細かく見分ける性能と十分な光の量を同時に得ることが難しく、長らく実現できませんでした。20年以上前の文献には、このように記されています ― Doppler tomography using X-ray Fe lines ... may become possible with the new X-ray satellites.(X線の鉄輝線を用いたドップラートモグラフィーは、新しいX線観測衛星によって可能になるかもしれない、 Halraftis et al. 2001)-。
そして今回、宇宙望遠鏡のXRISMによってこの夢がついに実現しました。同衛星に搭載するX線分光器は、光速の約10万分の3の速度を識別できる精密装置で、X線でドップラートモグラフィーを適用することを可能にしました。ぼうえんきょう座にある4U 1822–371という名前の中性子星連星系をXRISMで観測した結果、連星軌道運動に伴い鉄蛍光輝線の中心エネルギーが周期的に変動していることが分かりました(図2右)。このデータからドップラートモグラフィーの手法を用いて物質の速度分布を”画像化”した結果、鉄の蛍光X線が対称な円盤や星の表面ではなく、伴星から流れ込んだ物質がコンパクト天体まわりの円盤と衝突し円盤上空に拡散した領域から放射されていることを明らかにしました(図3)。これは、X線でコンパクト天体周辺物質の流れを“画像化”し、その放射場所を直接突き止めた初めての成果です。可視光のドップラートモグラフィーが主に可視光を放つ比較的低温な物質の流れを明らかにしてきたのに対し、X線ドップラートモグラフィーはコンパクト天体近傍で強烈なX線を受け止めて光る物質を浮かび上がらせます。この手法は、ブラックホールや中性子星のまわりで、物質がどのように流れ込み、どのような構造になっているのかを詳しく調べることができるようになると期待されます。
図2: (左)ドップラートモグラフィーの概念図。連星系が重心周りに公転するため、観測者はこの系を医療CTスキャンのように様々な角度から見て、運動速度に応じた光のエネルギーのずれ(ドップラーシフト)を測定できる。(右)XRISMで観測された連星軌道位相(Phase)ごとの鉄蛍光輝線のスペクトル。連星系を見る方向によって輝線の中心エネルギーが変動していることがわかる(ドップラーシフト)。(出典:Sameshima et al. (2026) をもとに東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻/宇宙科学研究所修士2年 鮫島直人作成)
図3: X線初のドップラートモグラフィーによる鉄蛍光輝線の速度マップ。縦軸•横軸は速度であり、一般的な位置の地図ではなく速度の地図であることに注意。(出典:Sameshima et al.(2026)をもとに東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻/宇宙科学研究所修士2年 鮫島直人作成)
本研究は、JAXAとの共同研究です。
● タイトル: 低質量X線連星4U1822-371におけるFe Kα輝線のX線ドップラートモグラフィー
● 原題: X-ray Doppler tomography of Fe Kα emission in a low-mass X-ray binary 4U1822–371 — a localized reflector at the accretion stream–disk overflow
● 掲載誌: Publications of the Astronomical Society of Japan, psag033,
● DOI: https://doi.org/10.1093/pasj/psag033
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掲載日 : 2026年06月26日
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