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【研究成果】植物乳酸菌で発酵させたステビア葉エキスが膵がんを抑制 ―マウス膵がん移植モデルで抗腫瘍効果を実証―

本研究成果のポイント

  • 広島大学大学院医系科学研究科「未病・予防医学共同研究講座」では、多様な植物から分離・同定した1,300株以上の植物乳酸菌を保有している。生薬の水抽出液を培地として、これら植物乳酸菌を培養し、得られた発酵液中に新たに生じる「生理活性物質」」を、未病の改善と予防医学に活用する研究を進めている。
     
  • 今回、バナナの葉から採取した Lactobacillus (L.) plantarum SN13Tをステビア抽出液にて培養し、得られた発酵液(FSLE)を膵がん細胞移植マウスに経口投与すると、非投与群と比べて膵がんの増殖が著しく抑制され、それに伴い炎症の改善、抗酸化能の亢進、アポトーシスシグナルの増加が認められた。
     
  • これらの結果から、本発酵液の抗がん作用は、ミトコンドリア経路を介したアポトーシスの活性化によるものと考えられる。 

概要

 漢方医学では、人類の健康を支え、病気の治療に必要な薬として、長く薬用植物が用いられてきた。これらの薬用植物には、体を守る働きをもつ成分(抗酸化作用や抗炎症作用)が含まれている。
 「未病・予防医学共同研究講座」では、多様な植物から分離した乳酸菌と各種生薬エキスの組み合わせにより生薬発酵液を調製し、発酵させることで新しい有効成分を生み出すことを目指した。
その結果、バナナの葉由来の乳酸菌と甘味植物「ステビア」の組み合わせがヒト膵臓癌PANC-1細胞(※3)に対して最も効果的であることを発見した。さらに、その有効成分がクロロゲン酸メチルエステル(CAME)(※4)であることを解明し、CAMEがPANC-1細胞に対してがん細胞のアポトーシスを誘導することを突き止めた1)
 今回は、細胞試験で確認された有効性が生体内でも再現されるかどうかを検証した。その結果、PANC-1細胞を移植したモデルマウスを用いた実験において、SN13T株による発酵ステビアエキス(FSLE)を投与した群では、非投与群と比較して膵がん腫瘍の増殖が顕著に抑制されていた。

さらに、この腫瘍増殖抑制に伴い、生体内での炎症性サイトカインIL-6産生の低下と、抗酸化シグナルであるNrf2/HO-1経路(※5)の活性化が認められた。 

発表論文

掲載誌:Antioxidants (Q1, IF: 6.6)

論文タイトル
Anti-Tumor Activity of Stevia Leaf Extract Fermented by the Plant-Derived Lactiplantibacillus plantarum SN13T in a Pancreatic Tumor Xenograft Model  

● 著者:Rentao Zhang1, Danshiitsoodol Narandalai1,*, Masafumi Noda1 and Masanori Sugiyama1,*  

1) Department of Probiotic Science for Preventive Medicine, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University
* corresponding authors

電子版アクセス先 https://doi.org/10.3390/antiox15050581 
 

背景

 膵がんは進行が速い悪性腫瘍であり、早期発見の難しさと化学療法の限定的効果から、その予後は著しく悪いことが知られている。膵がんの治療における既存抗がん剤の適用は患者への身体的負担と副作用が大きく、良好な治療成績が得られていない。そこで、有効かつ安全性の高い新規治療法の開発が急務となっている。一方で、漢方および生薬製剤の原料となる薬用植物には、配糖体、フェノール酸、フラボノイド、タンニンなどの多種多様な植物の二次代謝産物が含まれており、高い生理活性が期待できると考えている。
 当研究室では、薬用植物、果物、野菜、花と葉などの植物資源からの乳酸菌の探索分離を進めており、これまでに1,300株を超える植物乳酸菌株を保有するライブラリーを構築し、この独自のライブラリーを活用した発酵技術研究を進めてきた。
 本研究では、当研究室の保存乳酸菌株を各種の生薬抽出液で培養し、得られた発酵液中で最も高い抗がん活性を示す乳酸菌と生薬のコンビネーションを選択した。さらに、膵がんのモデルマウスを用いて、抗がん効果のメカニズムの解明に挑戦した。 

研究成果の内容

 膵がん細胞のPANC-1を用いて腫瘍を形成させたマウスを、生理食塩水投与群(NC群)、未発酵ステビア葉抽出物投与群(Unfer群)、L. plantarum SN13Tによる発酵ステビアエキス投与群(Fer群)、およびカペシタビン投与群(PC群; 400 mg/kg, 200μL)の4つのグループに無作為に分類した。実験期間中、体重と腫瘍体積を継続して測定した。試験終了時に血清、腫瘍、肝臓、および腎臓のサンプルを採取し、生化学的検査、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色および免疫組織化学(IHC)染色、サイトカイン測定、ウェスタンブロット法およびqPCR(定量的PCR)分析、並びに抗酸化能を測定した。その結果、発酵エキスには、腫瘍の体積および重量を減少させ、腫瘍の増殖を有意に抑制した。血清中のプロインフラマトリー(炎症性)サイトカイン(IL-6、TNF-α、IL-1β)は著しく減少し、それに伴い肝損傷マーカー(ALT、AST)および乳酸脱水素酵素(LDH)の改善が認められた。腫瘍組織において、発酵エキスの投与は、カパーゼ-3(cleaved caspase-3)およびBaxのタンパク質発現上昇、ならびにBcl-2レベルの低下と関連することが判明した。特に、腫瘍組織におけるNrf2タンパク質の発現は低下(ダウンレギュレーション)しており、腫瘍内のIL-6も減少していた。一方、肝臓においては、治療に伴いNrf2およびHO-1のmRNA発現が上昇し、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性の増強、およびマロンジアルデヒド(MDA)レベルの低下が認められた。

今後の展開

 ステビアは(Stevia rebaudiana)はその葉に「ステビオシド」や「レバウディオシドA」などのジテルペン配糖体を多く含み、砂糖の数百倍の甘さを持ちながらカロリーがほぼゼロであるため、天然甘味料として利用されている。本研究論文では、植物乳酸菌 L. plantarum SN13Tによるステビア発酵液が、膵臓がんを委嘱したモデルマウスを用いて、抗腫瘍活性と優れた細胞組織の保護作用が両立することを明かにした。今後は、同定済みのクロロゲン酸メチルエステル(CAME)を始めとした「生理活性物質」の化学構造の解析を行う。さらに、Nrf2経路に着目し、Keap1やp62などの上流に位置する調節因子の探索とマルチオミクスアプローチを導入することで、FSLEの抗腫瘍活性の分子基盤及びシグナルネットワークを解明する予定である。これにより、安全で効果の高い天然由来抗がん素材として、将来的な実用化へと繋げることを目標とする。 

参考資料

図1.膵臓がん異種移植モデルにおける腫瘍増殖に対する発酵ステビア抽出物の抗腫瘍効果

A. in vivo 実験方法;  B. モデルマウスを用いた膵がんの増殖抑制作用 

1) Zhang R, Danshiitsoodol N, Noda M, Yonezawa S, Kanno K, Sugiyama M. Stevia leaf extract fermented with plant-derived Lactobacillus plantarum SN13T displays anticancer activity to pancreatic cancer PANC-1 cell line. Int J Mol Sci. 2025 Apr 28;26(9):4186. 

用語解説

※1:膵がん細胞移植マウス(モデルマウス)
 人のがん細胞を移植して作った実験用のマウス。薬や食品の効果を体の中で調べるために使われる。

※2:ステビア発酵液(FSLE)
 ステビア(甘味植物)の葉の抽出液を、植物乳酸菌(L. plantarum SN13T)で発酵させて作った液体。

※3:ヒト膵臓癌PANC-1細胞
ヒトの膵臓がんから作られた実験用のがん細胞。

※4:クロロゲン酸メチルエステル(CAME)
 ステビア発酵液の中で新たに見つかった成分で、がん細胞の増殖を抑える働きや、細胞が自ら死ぬ仕組み(アポトーシス)を引き起こす作用があると考えられている物質。

※5:Nrf2/HO-1経路
 体を酸化ストレスから守るために働く仕組み(防御システム)の一つ。抗酸化作用に重要とされる。 
 

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科  

未病・予防医学共同研究講座 教授 杉山 政則

Tel:082-257-5280 FAX:082-257-5284

E-mail:sugi*hiroshima-u.ac.jp

(*は半角@に置き換えてください)


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