宇宙科学センター 准教授 稲見華恵
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広島大学宇宙科学センターの稲見華恵准教授を含む国際共同研究チームは、ビッグバンから約7億年後の宇宙に存在した遠方銀河「REBELS-25」において、星形成の直接的な材料となる「冷たい分子ガス」を大量に検出することに成功しました。
研究チームは、米国の大型電波望遠鏡群「Very Large Array(VLA)」および、チリに設置された「アルマ望遠鏡(ALMA)」を用いて観測を行いました。その結果、宇宙誕生から間もない時代においても、銀河の中にすでに大量の星形成の原料となる水素分子ガスが存在していたことが明らかになりました。
これまで、初期宇宙の明るく巨大な銀河には大量のガスが存在すると予想されていましたが、これほど遠方の銀河で、冷たい水素分子ガスの指標となる一酸化炭素(CO)ガスを直接検出した例はありませんでした。本研究成果は、初期宇宙の銀河がなぜ急速に成長できたのかを理解する上で、重要な手掛かりとなります。
本研究成果は、英国王立天文学会誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に2026年6月11日に掲載されました。
論文タイトル:Direct detection of cool molecular gas in a star-forming galaxy at z=7.31
著者:Karin Cescon, Leindert Boogaard, Lucie Rowland, Rychard Bouwens, Paul van der Werf, Pavel Mancera Piña, Matus Rybak, and Sander Schouws of Leiden University, the Netherlands; Hiddo Algera of the Institute of Astronomy and Astrophysics, Academia Sinica, Taiwan; Dominik Riechers of the University of Cologne, Germany; Renske Smit of Liverpool John Moores University, the United Kingdom; Ilse De Looze of Ghent University, Belgium; Manuel Aravena of Universidad Diego Portales and the Millennium Nucleus for Galaxies, Chile; Elisabete da Cunha of the University of Western Australia and the ARC Centre of Excellence for All Sky Astrophysics in 3 Dimensions (ASTRO 3D), Australia; Pratika Dayal of the University of Toronto, Canada; Andrea Ferrara of Scuola Normale Superiore, Italy; Rebecca Fisher of the University of Manchester, the United Kingdom; Hanae Inami of Hiroshima University, Japan; Pascal Oesch of the University of Geneva, Switzerland, and the University of Copenhagen, Denmark; Andrea Pallottini of the University of Pisa, Italy; Laura Sommovigo of Columbia University and the Flatiron Institute, United States; Mauro Stefanon of the University of Valencia, Spain; and Livia Vallini of the Osservatorio di Astrofisica e Scienza dello Spazio, Italy.
掲載誌:Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
DOI:10.1093/mnras/stag924
公開日:2026年6月11日
宇宙は約138億年前のビッグバンによって誕生しました。誕生直後の宇宙にはまだ星や銀河は存在せず、長い時間をかけて現在の宇宙構造が形成されてきました。
近年のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)などによる観測によって、宇宙誕生から10億年にも満たない時代に、すでに非常に大きく明るい銀河が存在していたことが分かってきました。しかし、これらの銀河がどのように短期間で急成長したのかは、大きな謎とされてきました。
銀河が成長するためには、星を生み出す材料となる大量のガスが必要です。特に「冷たい分子ガス」は星形成の直接的な燃料に相当します。しかし、宇宙初期では宇宙背景放射が現在よりも強く、この冷たいガスの観測は非常に困難でした。
そのため、これまで初期宇宙の銀河で冷たい分子ガスを直接観測した例はありませんでした。
研究チームは、今から約131億年前、宇宙年齢が現在の約5%にあたる”宇宙の夜明け”の時代の銀河「REBELS-25」を観測対象としました。
観測には、米国ニューメキシコ州のカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群( Karl G. Jansky Very Large Array, 略称VLA)と、チリのアルマ望遠鏡(ALMA)を使用しました。
VLAでは、一酸化炭素(CO)分子が放射する特定周波数の電波を捉えることで、冷たい分子ガスを観測しました。その結果、宇宙初期としては過去最遠級となる低励起CO輝線の検出に成功しました。
さらにALMAの観測データと組み合わせることで、REBELS-25内部のガスの温度や密度を詳しく推定することができました。
今回検出された信号の強さは、この銀河がすでに大量の星形成ガスを持っていたことを示しています。これは、初期宇宙の銀河が非常に効率的に星形成を進めていたことを裏付ける重要な証拠です。
<広島大学 宇宙科学センターの稲見准教授は、次のようにコメントしています。>
「近年の観測によって、初期宇宙の銀河は、私たちがこれまで考えていたよりもはるかに速く成長していた可能性が見えてきました。今回の発見は、その背景に大量の星形成の材料となるガスが存在していたことを示す重要な証拠です。一方で、単に“燃料”が豊富だっただけなのか、それとも星形成を加速する特別な物理過程が働いていたのかは、まだ大きな謎として残されています。今回の成果は、その解明に向けた新たな一歩になると期待しています。」
今回の研究成果は、宇宙の極初期に存在した1つの銀河についての結果ですが、このような大量のガスが初期宇宙でどれほど普遍的だったのかを明らかにするには、今後さらに多くの銀河を対象とした統計的な観測が必要です。
現在の最先端望遠鏡では感度が十分ではなく、このような観測を大規模に行うことは困難です。しかし、現在進められているアルマ望遠鏡(ALMA)の大規模アップグレードや、建設が計画されている次世代電波望遠鏡 ngVLA(Next Generation Very Large Array)によって、研究はさらに大きく発展すると期待されています。
これにより、REBELS-25のような特別に明るい銀河だけでなく、より暗く、さらに遠方に存在する初期銀河の観測も可能になります。将来的には、宇宙最初期の銀河がどのようにガスを集め、どのように星形成を開始し、現在の巨大銀河へ成長していったのか、その仕組みの解明につながると期待されます。
宇宙誕生から現在までの進化と、今回観測した遠方銀河「REBELS-25」の位置を示した模式図。REBELS-25は、宇宙誕生から約7億年後(約131億年前)の「宇宙再電離期」に存在していた銀河である。VLAおよびアルマ望遠鏡(ALMA)による詳細観測により、この銀河にはすでに大量の冷たい分子ガスが存在していたことが明らかになった。冷たい分子ガスは、星形成の直接的な材料となる。
■ 赤方偏移(redshift)
宇宙膨張によって天体の光の波長が赤く伸びる現象。値が大きいほど、より遠方・より過去の宇宙を見ていることを意味する。今回の観測対象となった赤方偏移7の天体は、約131億年前(宇宙誕生約7億年後)から届く光を捉えていることになる。
■ 冷たい分子ガス
主に水素分子からなる低温ガス。星形成の直接的な材料となる。一酸化炭素(CO)は、低温の水素分子ガスを観測する際の目印となる分子。
■ 宇宙再電離期
宇宙誕生後、最初の恒星や銀河が形成され、宇宙全体の状態が大きく変化した時代。
■ アルマ望遠鏡( Atacama Large Millimeter/submillimeter Array, 略称ALMA)
チリ・アタカマ砂漠に設置された世界最大級の電波望遠鏡群。アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計。
■ カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(Karl G. Jansky Very Large Array, 略称VLA)
米国ニューメキシコ州に設置された大型電波干渉計。
宇宙科学センター 准教授 稲見華恵
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掲載日 : 2026年06月19日
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