北里大学薬学部の小林 啓介 講師、長井 賢一郎 講師、供田 洋 名誉教授、大城 太一 教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の西村 慎一 教授らの研究グループは、真菌由来ペプチド「ネクトリアタイド」およびその誘導体 (NCTs) について、既存の抗真菌薬アムホテリシンB(AmB)※1の効果を増強する機構を生化学的に解明しました。
本研究では、NCTsが真菌細胞膜脂質のエルゴステロール(Erg)※2に結合し、AmBを細胞膜へ集積させることで、その抗真菌作用を増強する新たな作用機序を明らかにしました。
単独では抗真菌活性を示さない化合物が、既存薬の効果を高めるという本知見は、既存薬の短所を補いそのポテンシャルを最大限に引き出す新たな創薬戦略として重要な意義を有します。
本研究成果は、2026年5月13日付で、国際学術誌『ACS Omega』に掲載されました。
研究成果のポイント
◆ 抗真菌活性を示さない化合物NCTsが、既存抗真菌薬AmBの作用を最大32倍増強
◆ NCTsが真菌細胞膜脂質エルゴステロールに結合し、AmBを膜へ集積させる新しい作用機序を解明
◆ NCTsはAmBの細胞毒性は増強せず、副作用低減型治療への応用に期待
図1 研究成果の概略図
ネクトリアタイドおよびその誘導体 (NCTs) はErgに結合し、Candida albicansの細胞膜にAmBを集積させ、AmBの抗真菌活性を増強します。
研究の背景
深在性真菌感染症は、免疫不全患者やCOVID-19感染患者の増加などを背景に世界的に増加しており、重篤な症状を引き起こす感染症です。特にカンジダ属真菌は深在性真菌症の主要な原因菌の一つです。代表的な治療薬であるアムホテリシンB (AmB) は強力な殺真菌活性や広域な抗真菌スペクトルを持つものの、腎毒性などの副作用を示し、臨床での安全性の確保が大きな課題となっています。
そこで研究グループは、それ自体は抗真菌活性を示さないにもかかわらず、AmBの効果を増強する化合物があれば、AmBの投与量を減らしながら治療効果を維持・増強できるのではないかと着想し、微生物資源を用いた探索研究を展開してきました。このようなアプローチは、既存薬を強化する“ポテンシエーター”という新しい創薬戦略として注目されます。
研究内容と成果
本研究では、AmBの効果を高める化合物(ポテンシエーター※3)として、微生物資源から発見した真菌由来の環状テトラペプチド「ネクトリアタイド」およびその誘導体(NCTs)を用いました。これらの化合物は単独では抗真菌活性 (抗カンジダ活性) を示さないものの、AmBと併用することで、その抗真菌活性を最大32倍に増強します (図2)。
図2 ネクトリアタイド (1) および鎖状合成中間体 (2) の構造とAmB抗真菌活性増強作用
この作用機序を明らかにするために、蛍光標識体およびビオチン標識体を作製し生化学的な解析を行いました。まず、蛍光標識体をカンジダ菌 (C. albicans) に作用させたところ、細胞膜への蛍光局在が観察されたことから、NCTsは細胞膜成分に結合していることが示唆されました。続いて、ビオチン標識体を用いて、細胞膜脂質分子に対する結合試験を行ったところ、真菌細胞膜に特異的に存在する脂質であるエルゴステロールに選択的に結合することを明らかにしました。一方で興味深いことに、ヒト細胞膜に存在するコレステロールには結合せず、この結果を裏付けるように、NCTsはAmBの溶血活性 (細胞毒性) は増強しませんでした。さらに、LC-MS解析から、NCTsが共存することで、カンジダ菌に結合するAmB量が増えることを明らかにしました。AmBもエルゴステロールに結合して抗真菌活性を発揮する薬剤ですが、NCTsが細胞膜上で“糊”のような役割をすることで、AmBを効率的に真菌に集め、その効果を高めるという作用機序が示されました(図1)。
以上の結果に基づき、本研究は、抗真菌活性を持たない化合物が既存薬の効果を増強するというポテンシエーター戦略を実証するとともに、その作用機序を明らかにしたものです。
今後の展開
本研究成果は、NCTsを併用することにより、AmBの投与量を低減させ、その副作用頻度を減少させうる可能性を示し、より安全な抗真菌治療法の開発に貢献することが期待されます。
また、本研究で示された「ポテンシエーター」という概念は、抗真菌薬に限らず、他の感染症治療や創薬分野への応用も期待される新しい戦略です。
今後は、動物モデルでの詳細な薬効評価や安全性検証を進め、臨床応用を視野に入れた研究を展開していきます。
論文情報
掲載誌:ACS Omega
論文名:Nectriatides with No Antifungal Activity Bind to Ergosterol and Potentiate the Antifungal Activity of Amphotericin B
著 者:Kobayashi K, Miyake R, Nagai K, Sato Y, Seki R, Sakai-Kato K, Nishimura S, Ohshiro T, Tomoda H.
DOI:10.1021/acsomega.5c12037
■本研究はJSPS科研費 JP19K05719, JP21K15284, JP22K05333, JP25K10019、公益財団法人 東京生化学研究会 (現 公益財団法人 中外創薬科学財団)、公益財団法人 薬学研究奨励財団、北里大学学術奨励研究資金の助成を受けて達成されたものです。
用語解説
※1 アムホテリシンB (AmB)
強力な抗真菌薬であるが、副作用が課題。
※2 エルゴステロール (Erg)
真菌細胞膜に存在する脂質で、ヒト細胞膜に存在するコレステロールに相当する。
※3 ポテンシエーター
単独では薬理作用を示さないが、他の薬の効果を増強する物質。
【お問い合わせ先】
≪研究に関すること≫
北里大学薬学部 微生物薬品製造学教室
教授 大城 太一
e-mail:ohshirot*pharm.kitasato-u.ac.jp
講師 小林 啓介
e-mail:kobayashikei*pharm.kitasato-u.ac.jp
≪取材に関すること≫
学校法人北里研究所 広報室
〒108-8641東京都港区白金5-9-1
TEL:03-5791-6422
e-mail:kohoh*kitasato-u.ac.jp
広島大学 広報グループ
〒739-8511広島県東広島市鏡山1-3-2
TEL:082-424-4518
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