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【研究成果】植物油を固体状にする「オレオゲル」の硬さの仕組みを解明 ―健康的でジューシーさ、満足感のある代替肉への応用期待―

本研究成果のポイント

  • 少量で油を固めることができる植物由来の成分のひまわりワックス※1を材料として形成される「オレオゲル※2」の硬さが、結晶内の「ラメラ周期(層の繰り返し間隔)※3」のばらつきによって決まることを初めて解明しました。 
  • 作るときの冷やし方や混ぜ方を変えることで、この結晶の並び方を調整し、かたさや弾力を自由にコントロールできることを実証しました。 
  • バターなどに多く含まれる飽和脂肪酸を抑えた健康的で美味しい代替油脂の食感設計の実現が可能になります。

概要

  広島大学大学院統合生命科学研究科 三上春菜 氏(当時修士2年)、小泉晴比古 准教授、上野 聡 教授、公益社団法人高輝度光科学研究センター(JASRI) 関口博史 主幹研究員の共同研究グループは、低コストかつ健康的で、クリーンラベル(無添加表示)への対応も可能な食品素材として注目される「ひまわりワックス」を用いた植物油を固体状にするオレオゲル形成について、どのようにして硬さが決まるのか物理的なメカニズムを明らかにしました。
 植物油を固体状にする「オレオゲル」は、バターなどに多く含まれる飽和脂肪酸の過剰摂取を抑える代替油脂として期待されています。中でもひまわりワックスは、少量の添加で油を強固に固める能力に優れ、機械的に安定したネットワークを形成できるため、使いやすく実用性の高い食品素材です。
 研究グループは、大型の放射光施設(SPring-8(BL40XU)、フォトンファクトリー)のX線を用いた解析により、オレオゲルを支える結晶の中に周期がわずかに異なる2つの構造が共存していることを発見しました。この2つの構造の比率が、製造プロセスの違いによって変化し、それが最終的なオレオゲルの硬さに直結していることを突き止めました。特に、SPring-8の強力なX線を用いて、この構造のズレが結晶化の極めて初期段階から生じていることを確認しました。本成果は、これまで経験的に行われてきた食品製造に理論的な裏付けを与え、理想的な食感を持つ健康的な食品開発を加速させるものです。
 本研究成果は、日本時間2026年6月17日に国際学術誌「Food Chemistry」に掲載されました。

背景

 現在、食品業界では、健康への悪影響が懸念される飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を多く含む動物性油脂の代替として、液体の植物油を固体状に構造化する「オレオゲル」の研究が世界的に進められています。中でも、ひまわりワックス(SFW)などの植物由来ワックスは、低コストで入手しやすく、少量の添加で油を強固に保持できるため、健康的な代替油脂としての実用性が高く評価されています。
 これまで、製造時の「冷却速度」がゲルの硬さ(貯蔵弾性率)に影響を与えることは知られており、冷却を遅くするとゲルが柔らかくなることが報告されていました。しかし、なぜ結晶のネットワーク構造が変化し、硬さが変わるのかという「結晶学的な原因」については未解明のままでした。特に、結晶のサイズだけでなく、結晶内部の「ひずみ※4」や、分子が層状に重なる「ラメラ周期」の分布が、マクロな食感にどう関わっているのかを明らかにすることが課題となっていました。
 

研究成果の内容

 本研究では、強力な放射光X線回折(SAXD/WAXD)測定※5を用いることで、ひまわりワックス由来のゲル内部に、分子の並び方は同一(多形変化はない)ながらも、層状構造の繰り返し間隔(ラメラ周期)がわずかに異なる「長い周期」と「短い周期」の分析の結果、ゲルの硬さ(貯蔵弾性率)はこの2つの成分の比率(再分配)によって決定されており、総結晶量や分子パッキングの変化ではなく、構造の「分布」そのものが物理的特性を支配していることが明らかになりました。
 特に重要な知見は、それぞれの結晶成分が持つ内部状態の違いにあります。結晶学的な解析により、「短い周期」の成分には「長い周期」の成分よりも多くの「ひずみ」が蓄積されており、結晶の欠陥を示す「転位密度※6」が著しく高いことが判明しました。この欠陥の多い成分がゲル内に増えるほど、結晶ネットワーク全体の機械的な堅牢性が損なわれ、結果としてゲルは柔らかくなります。
 さらに、製造プロセスにおける冷却速度の調整や「せん断(かき混ぜ)」の付加が、これら2つの成分の比率を操作する強力な手段となることも実証しました。例えば、急速な冷却や攪拌を行うと、柔らかさの原因となる「短い周期」の成分が減少して構造が均一化され、ゲルの弾性は大幅に硬くなります。SPring-8を用いたリアルタイム計測では、この構造のズレが結晶化の極めて初期段階から生じていることが確認されており、製造条件の最適化が理想的な食感(テクスチャー)の設計に直結することを示す、新たな結晶学的基盤を確立しました。

今後の展開

 本研究によって明らかになった「ラメラ周期の再分配」というメカニズムを活用することで、これまで経験則に頼っていたオレオゲルの硬さを、結晶構造のレベルから自在かつ精密に制御することが可能となります。
 今後はこの技術を、植物ベースの代替肉の開発へと応用することで、動物性油脂の代わりに、本手法で硬さを最適化したオレオゲルを用い、従来の代替肉では再現が難しかった「肉本来のジューシーさ」や満足感のある食感を創出できると期待されます。今後ひまわりワックス以外の植物性ワックスへの展開も進め、飽和脂肪酸を抑えつつ「美味しさ」と「健康」を両立させた、持続可能な次世代食品の実現に貢献します。

論文情報

タイトル:“Lamellar Periodicity Population Redistribution and Elasticity in Sunflower Wax-based Oleogels”
著者名:Haruhiko Koizumi1※, Hana Mikami1, Hiroshi Sekiguchi2, Satoru Ueno1
著者所属:広島大学 大学院統合生命科学研究科1、高輝度光科学研究センター2
責任著者
掲載誌:Food Chemistry
掲載日:2026年6月17日(水)
DOI:10.1016/j.foodchem.2026.150081

なお、本研究は、ロッテ財団 奨励研究助成(A)(23-029)の支援により行われました。また、広島大学から論文掲載料の助成を受けました。

用語解説

※1 ひまわりワックス
 ヒマワリの種子から抽出・精製される植物由来のワックス(ろう成分)。液体の植物油を固体状に構造化する「低分子ゲル化剤」として機能し、次世代の代替油脂である「オレオゲル」を形成する材料として世界的に注目されている。

※2 オレオゲル
 液体の植物油に少量の凝固剤(ワックス等)を加え、油を保持したまま固体状にしたもの。

※3:ラメラ周期
 結晶の中で分子が層状に積み重なった構造の繰り返しの幅。

※4:ひずみ(結晶ひずみ)
 結晶を構成する原子や分子の並びが、理想的な状態からわずかにずれたり、歪んだりしている度合いのこと。

※5:放射光X線回折
 強力なX線を用いて、物質の原子・分子レベルの構造を精密に調べる手法。

※6:転位密度
 結晶の中にある「ずれ(欠陥)」の多さを示す指標。本研究では、この密度が高い結晶成分がゲルの弱点になることを示した。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学 大学院統合生命科学研究科 
准教授 小泉 晴比古(こいずみ はるひこ)
Tel:082-424-7935
E-mail:h-koizumi*hiroshima-u.ac.jp

公益財団法人高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室
主幹研究員 関口 博史(せきぐち ひろし)
E-mail:sekiguchi*spring8.or.jp

<広報・報道に関すること>
広島大学 広報室
TEL:082-424-4383
E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
TEL:0791-58-2785 / 050-3502-3763
E-mail:kouhou*spring8.or.jp 

 (*は半角@に置き換えてください)


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