大学院医系科学研究科免疫学 教授 保田 朋波流
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広島大学大学院医系科学研究科免疫学の研究グループは、エプスタイン・バーウイルス(EBV)関連B細胞疾患において、新たな治療標的となり得る分子「CD80」を発見しました。
EBV感染は多くの場合無症状で経過しますが、リンパ腫などのがん発症と関連するほか、ウイルスが体内で長く活発に増え続けさまざまな症状を引き起こす慢性活動性EBウイルス病(CAEBV)やウイルスの感染がきっかけで免疫が過剰に働きすぎてしまうEBV関連血球貪食性リンパ組織球症(EBV-HLH)などの重篤な疾患へ進展することがあります。これらの疾患は治療が難しく、新しい治療戦略の開発が求められています。
本研究では、EBV陽性リンパ腫細胞に特異的に発現する細胞表面分子を解析し、CD80が有力な治療標的であることが分かりました。さらに、CD80をねらった抗体を使い、その機能を評価した結果、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を介して腫瘍細胞を効率的に排除できることが明らかとなりました。一方で補体依存性細胞傷害(CDC)は誘導されず、結びつく相手によって攻撃の仕方が変わることが分かりました。
さらに、抗CD80抗体存在下においてもEBV感染細胞に対するT細胞応答は概ね維持されており、免疫機能を保ちながら治療に応用できることが期待されます。
本研究は、ロンドン時間の2026年5月26日にSpringer Nature出版による国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。
論文タイトル:CD80 (B7-1) as a potential therapeutic target in Epstein–Barr virus‑associated B cell diseases
著者:吉里倫1,2、三浦真梨子1、田村結実1、河野洋平1、外間裕也1、宗田七海1、大田祐誠1、山下琴巳1、福島大誠1、石村 匡崇2、大賀 正一2、保田朋波流1,‡
1 広島大学大学院医系科学研究科免疫学、2 九州大学大学院医学研究院周産期・小児医療学、‡責任著者
掲載雑誌:Scientific Reports (Q1)
DOI番号:https://doi.org/10.1038/s41598-026-55043-5
エプスタイン・バーウイルス(EBV)はヒトに広く感染するウイルスで、感染後はB細胞に潜伏し生涯にわたって体内に存在します。通常は免疫によって制御されますが、免疫異常が生じるとB細胞リンパ腫や各種がん、リンパ増殖性疾患など、さまざまな疾患を引き起こします。
特に、ウイルスが体の中で長く活発に増え続けてしまう状態の慢性活動性EBウイルス病(CAEBV)やウイルスの感染がきっかけで、免疫が過剰に働きすぎてしまう重い病気のEBV関連血球貪食性リンパ組織球症(EBV-HLH)といった疾患は、強い炎症や免疫異常を伴い、生命に関わる重篤な経過をとることがあります。これらの疾患では、EBV感染細胞の制御が困難であり、造血幹細胞移植以外に有効な治療法が限られているのが現状です。
B細胞リンパ腫の治療においては、がん細胞表面のCD20と呼ばれる分子を標的とする抗体医薬リツキシマブが使用されています。しかしリツキシマブを用いた治療では十分な効果を示さない症例が存在することや、補体系を強く活性化することで過剰な全身炎症反応を誘発することが問題となっており、新たな治療標的の探索が重要課題となっています。
本研究では、まずEBV陽性B細胞リンパ腫に特異的に発現する膜タンパク質を網羅的に解析し、CD80が正常B細胞やEBV陰性リンパ腫と比較して有意に高発現していることを明らかにしました。さらに、EBV感染によって樹立されたリンパ芽球様細胞株(LCL)においてもCD80の高発現が確認され、その発現は主にリンパ系組織および抗原提示細胞に限局していることが示されました。これらの結果から、CD80は選択性の高い有望な治療標的である可能性が示唆されました(図1)。
図1.EBV陽性リンパ腫細胞およびEBV感染細胞における高いCD80発現
(A) 16種類のEBV陽性細胞株データセットおよび12種類の正常B細胞データセットにおけるCD80転写発現量.
(B) EBV陽性Bリンパ腫細胞株(Raji細胞)と健常人由来PBMCから樹立したリンパ芽球様細胞株(LCL)における細胞表面のCD80発現. CD80欠損(KO)細胞でシグナルが消失することを確認した.
(C) 正常組織におけるCD80発現量. 扁桃、リンパ節、虫垂、脾臓、胸腺、骨髄などリンパ系組織やランゲルハンス細胞、単球、B細胞、マクロファージなど抗原提示細胞で特異的なCD80発現が認められた.
次に、CD80に対するモノクローナル抗体を作製し、これらの抗体がCD80分子およびCD80発現リンパ腫細胞に特異的に結合することを確認しました(図2)。
図2.EBV陽性リンパ腫細胞表面CD80分子との結合能を有する抗CD80モノクローナル抗体の樹立
(A) 新規に樹立したCD80特異的モノクローナル抗体の抗原結合能. CD80-His組換え蛋白質でコーティングしたプレートを用いて、ELISAによりCD80への結合活性をELISA測定した. #37711: 既存抗CD80抗体.
(B) CD80特異的抗体のEBV陽性リンパ腫Raji細胞表面結合能の評価. WTは野生型Raji細胞、80KOはCD80遺伝子ノックアウトRaji細胞を示す.
さらにこれらCD80特異的抗体が、EBV陽性リンパ腫のRaji細胞やEBV感染した自家LCL に対して、NK細胞を介した抗体依存性細胞傷害(ADCC)を強く誘導することが確認されました(図3)。また、複数ドナー由来PBMC を用いた解析においても一貫してCD80を認識する抗体によるADCC活性が確認されました。
図3.Raji細胞および自家LCLに対する抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性
(A-C) EBV陽性リンパ腫Raji細胞に対するNK細胞依存的な細胞傷害活性(ADCC)を、エフェクター細胞と標的細胞の比率(E:T比)で評価した. IGHG1*08型キメラ抗体 (A6G1*08, E3G1*08, E5G1*08)、リツキシマブ型キメラ抗体 (E3R, E5R)、およびIgG3 DLE型キメラ抗体 (A6G3DLE, E3G3DLE, E5G3DLE)を用いた. 試験には野生型Raji細胞(A)、CD80欠損Raji細胞(B)、自家LCL細胞(C)を用いた.Isotype: ヒトIgG1 (A, B)、ヒトIgG3 (C).
一方で、補体依存性細胞傷害(CDC)はほとんど誘導されませんでした。さらに、リツキシマブの抗原認識部位をCD20からCD80に置き換えた抗体を用いた実験から、もともとCDC活性を有する抗体であっても、CD80を標的とした場合にはCDC活性が消失することが明らかとなりました(図4)。これらの結果は、抗体のエフェクター機能がFc領域だけでなく、標的抗原の構造や特性にも大きく依存しうることを示唆しています。
図4.Raji細胞に対する補体依存性細胞傷害(CDC)活性
(A-B) ヒト血清を用いたRaji細胞に対するCDC試験.
(A) IGHG1*08型キメラ抗体(A6G1*08, E3G1*08, E5G1*08)およびリツキシマブ型キメラ抗体(E3R, E5R)を各濃度で用いた. Rtx: リツキシマブ; Isotype: ヒトIgG1.
(B) IgG3 DLE型キメラ抗体(A6G3DLE, E3G3DLE, E5G3DLE)を各濃度で用いた. Isotype: ヒトIgG3.
(C) ウサギ補体を用いたRaji細胞に対するCDC試験. IGHG1*08型キメラ抗体(A6G1*08、E3G1*08、E5G1*08)を各濃度で用いた. Isotype: ヒトIgG1.
CD80は、T細胞上のCD28や抗原提示細胞上のPD-L1と相互作用することでT細胞の活性化や増殖を促進する重要な共刺激分子です。そのためCD80を標的とする抗体が、腫瘍細胞排除の一方で、腫瘍免疫を担うT細胞機能を阻害してしまう可能性が考えられました。そこで、抗CD80抗体がEBV感染細胞に対するT細胞応答を阻害しないか調べたところ、抗CD80抗体存在下においてCD8陽性T細胞の増殖がわずかに低下するものの、EBV感染細胞に対するT細胞増殖応答は維持されることが明らかとなりました(図5)。これらの結果から、抗CD80抗体は腫瘍細胞を効果的に排除する一方で、抗腫瘍免疫は維持されうると考えられました。
図5.抗CD80抗体はEBV感染細胞に対して増殖応答するCD8陽性T細胞を阻害しない
CFSE標識したCD8陽性T細胞を、EBV感染させた自家リンパ芽球様細胞株(LCL)とともに120時間共培養し、抗CD80抗体の存在下または非存在下での増殖挙動を評価した. 分裂増殖したCD8陽性T細胞の割合を数字で示す.
本研究は、抗体による細胞傷害機構が抗体定常部だけでなく、細胞表面に発現する標的抗原の特徴に強く依存する可能性を示した点で重要です。CD80を標的とする場合、補体成分との相互作用が制限されることでCDCが誘導されにくいと考えられる一方、ADCCは維持されるという特徴的な性質が明らかとなりました。また、CD80は主に造血系細胞に発現することから、正常臓器への影響は限定的であると考えられます。
一方で、本研究にはいくつかの限界があります。抗体の糖鎖修飾やエピトープの詳細な解析は行われておらず、患者由来腫瘍やin vivoモデルにおける検証も未実施です。さらに、抗体薬物複合体などへの応用も今後の重要な課題として残されています。今後これらの点を検討することで、CD80を標的とした抗体治療の臨床応用に向けた研究が一層進展することが期待されます。
本研究は、CD80を標的とした抗体治療がEBV関連疾患に対する新たな治療戦略となり得ることを示しました。特に、CD80が発現し既存治療薬が有効でないリンパ腫、CAEBVやEBV-HLHといった、現在の治療選択肢が限られている難治性疾患に対して、新しい治療法として応用できる可能性があります。
今後は、
・患者由来細胞を用いた検証
・動物モデルでの有効性・安全性評価
・抗体薬物複合体(ADC)などへの展開
を進めることで、臨床応用に向けた研究の発展が期待されます。
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、三井住友信託銀行「新型コロナワクチン・治療薬開発寄付口座」、READYFORクラウドファンディング、日本医療研究開発機構(AMED)新型コロナウイルス感染症研究開発事業、日本学術振興会「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)、JSTスタートアップ・エコシステム共創プログラム、国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費、ならびに放射線災害・医科学研究拠点共同利用・共同研究事業の支援を受けて実施されました。本研究の一部は広島大学自然科学研究支援開発センターおよび原爆放射線医科学研究所の共用機器を利用して行われました。また、本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。
※1 エプスタイン・バーウイルス(EBV):
ヒトに広く感染するヘルペスウイルスの一種で、B細胞に潜伏感染し、リンパ腫などの疾患に関与する。
※2 B細胞疾患:
免疫に関わる「B細胞」に異常が起こることで発症する病気で、リンパ腫などが含まれる。
※3 CD80:
免疫細胞表面に発現する分子で、T細胞上のCD28やCTLA-4、抗原提示細胞上のPD-L1と相互作用し、T細胞の活性化や抑制に関与する重要な免疫調節分子。
※4 抗CD80抗体:
CD80という分子に結合する人工的に作られた抗体で、病気の細胞を狙って攻撃するために使われる。
※5 NK細胞:
異常な細胞を即座に攻撃する自然免疫の主要なリンパ球。
※6 ADCC(抗体依存性細胞傷害):
抗体が標的細胞に結合した際に、NK細胞などの免疫細胞がそれを認識して標的細胞を破壊する機構。
※7 EBV陽性リンパ腫:
EBウイルスに感染した細胞が関与して発症するリンパ腫(血液のがん)の一種。
大学院医系科学研究科免疫学 教授 保田 朋波流
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掲載日 : 2026年07月07日
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