令和3年度 入学式

学長式辞 令和3年度入学式 (2021.4.3)

 今日の佳(よ)き日、広島大学に入学された3,869人の皆さん、おめでとうございます。
 
 1年余に及ぶ新型コロナウイルス感染症パンデミックという逆境にめげず、見事に志を貫かれた皆さんに、心から祝意と敬意を表します。
 今回の入学式はコロナ禍の現状を鑑み、入学生の皆さんのみが参加する形での開催となりました。皆さんを支えてこられたご家族、先生、そして関係者の方々への感謝の気持ちを、これからも持ち続けていただきたいと思います。
 
 今からちょうど50年前、私は広島大学医学部に入学しました。皆さんの先輩の一人として、晴れの時と場を共有できますことを、何よりうれしく思っております。
 今日から皆さんの学び舎となる広島大学はどんな大学なのかを、まず知っていただきたいと思います。
 
 第一は「平和を希求する大学」であることです。広島大学の誕生は原爆投下から4年後の1949年、広島文理科大学、広島高等学校、広島高等師範学校、広島工業専門学校など専門分野や伝統の異なる前身諸学校が一つになり、平和を愛し、守る、強い精神と意志のもとに建学された大学だということを心に留めてください。その一つ、広島師範学校の前身である白島学校の開校は、明治維新から10年も経たない1874年にさかのぼります。
 文部大臣を経て初代学長に就任した森戸辰男先生が掲げた「自由で平和な一つの大学」は、今も変わらぬ広島大学のバックボーンです。こうした歴史を踏まえて現在、30の平和科目を設け、新入生全員の必修科目にしております。
 教育・研究面では、2014年度に「スーパーグローバル大学創成支援事業」(トップ型)13大学、さらに2018年度には「卓越大学院プログラム」13大学にそれぞれ中四国で唯一選ばれました。全国有数の総合研究大学として高い評価を受けているところです。皆さんには、素晴らしいこの大学で学べることを誇りに思っていただきたいと思います。
 広島大学はキャンパスの国際化にも力を注いでいます。学部・大学院を含めた在学生1万5千人のうち、海外からの留学生は63カ国・地域の1750人に上り、学生の9人に1人が留学生です。
 また、今年8月からは東広島キャンパス内に誘致した米国アリゾナ州立大学の広島大学グローバル校(学士課程)の学生受け入れをスタートします。グローバルなキャンパスで存分に多様な価値観と歴史に触れて、平和を希求しチャレンジする国際的教養人としての一歩を踏み出してください。
 
  さて、皆さんに理解していただきたいことが一つあります。大学入学はゴールではなく、スタートラインに立ったに過ぎないということです。大学のブランド以上に、「何を学んだか」が問われる時代になっています。出発点に立った今こそ、大学で何を学ぶのか、自分なりにしっかり考えてほしいと思います。
 専門知識を身につけることは重要ですが、それだけで十分とは言えません。コロナ禍をはじめとして気候変動、自然災害、貧困、国際紛争などの危機に直面する世界は、今まさにパラダイムシフトを迫られています。かつて経験したことがない課題や革新的な取組に対し、従来の細分化された知識で対応することは困難であると言わざるを得ません。
 
 そのためにも、視点をより高く取り、横の広がりを持った360度の多様な見方が必要です。大学での学びも、一つの正解を探し求めることではなく、多様な知識を血肉としながら、自ら「問い」を見つけ、自分の頭で考えて広い視野から解決の道を探ることにあるといえます。
 その根本は「リベラルアーツ」にあると私は考えています。リベラルアーツとは本来、自由な人間として生きていくための「素養」を示します。大学においては、人類の叡知の結晶である自然科学や人文・社会科学、芸術などの幅広い学問分野に触れ、多角的な視座を身に付けるための教養教育であるとも言えます。
 16世紀ルネサンス期のフランスを代表する哲学者モンテーニュは、書物について「わが人生という旅路(たびじ)で見いだした、最高の備(そな)えにほかならない。だから、知性がありながら、書物を欠いている人が、大変に気の毒でならない」と述べています。時代は変遷したとは言え真実を突(つ)いています。普段の授業に加えて、古今東西の古典を含め、さまざまな本をひもといてください。本との対話を通じ、How(どのような方法で)のみならず、物事のwhy(どうしてなのか)をじっくりと考える習慣を育ててほしいと希望しています。そして、友人や先輩また先生方と語らい、考えた上で、困難な事にどんどんチャレンジする大学生活にしていってほしいと願っています。そして大学での学びを、一生を通じての生きる姿勢として持続するよう心から希望します。わが広島大学の卒業生が社会人となってからめざましい活躍に注目が集まっているのも、大学で身につけた学びの姿勢が持続しているからに他なりません。
 
 コロナ禍での入学に不安を感じる人もいるでしょう。広島大学は皆さん一人一人が健やかに安心して勉学に励めるように、教職員一同、全力を挙げて支援してまいります。
 終わりに、皆さん一人一人にとってキャンパスでの日々が充実したものとなることを心よりお祈りして、私からのお祝いの言葉といたします。 
 

令和3(2021)年4月3日
広島大学長 越智光夫


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