令和4年度 学位記授与式

学長式辞 令和4年度学位記授与式 (2023.3.23)

 本日、広島大学を巣立っていかれる3,611人の皆さん、誠におめでとうございます。令和4年度の学位記授与式に当たり、広島大学を代表してお祝い申し上げます。4年ぶりにご家族の皆さんをこの会場にお迎えして共に喜びを分かち合うことができますことを、心よりうれしく思います。

 多くの皆さんにとりましては、コロナ禍に翻弄され続けた学生生活であったと思います。学内外でのマスクの着用はもとより、オンライン授業、課外活動や会食の自粛という厳しい一時期もありました。ひとりパソコンの画面に向かいながら、「これが憧れていた大学での学びなんだろうか」と、心が折れそうになった日もあったことでしょう。

 こうした苦難にめげず、きょうの日を迎えられた皆さんに、学長として心より敬意を表します。そしてこの間、陰になり日向になり皆さんを支えてくださいましたご家族をはじめ、指導教員や先輩、後輩の皆さんにも、感謝の気持ちを伝えることを忘れないでいただきたいと思います。

 さて、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始して、あすで1年1カ月になります。戦争の長期化と核兵器使用さえ懸念される中、広島大学は学内募金や避難学生の受け入れを行ってきましたが、被爆地・広島にある大学として果たすべき使命は何なのか、私たちは絶えず問い続けていかなければならないと考えています。たとえ、行動として形として結実しなくとも考え続けることを止めてはならないと考えます。

 近代哲学の祖として知られるイマヌエル・カントが71歳の時に発表した「永遠平和のために」という著作があります。ドイツ語の初版本は広島大学図書館にも所蔵されており、平和論の古典といわれる名著です。

 カントは永遠平和のための6つの予備条項を示しました。その中の第5条項に「いかなる国家も他の国家の体制や統治に暴力をもって干渉してはならない」、第6条項には「いかなる国家も他国との戦争において、将来の平和への相互信頼を不可能にしてしまうような行為をしてはならない」と記しています。

 出版から200年以上を経た今なおカントの主張は色あせないばかりか戦争と平和に対する鋭い洞察力にあらためて驚かされます。ただ、現下のウクライナ侵攻をはじめ国際情勢を重ね合わせてみると、他国の理不尽な行為に対してどう向き合っていくのか、国際社会は厳しい試練にさらされていると言わざるを得ません。

 来たる5月19日から21日まで、広島でG7サミットが開催されます。主要7か国の首脳が被爆の実相に触れ、平和への思いを共有することで、「核兵器のない世界」の実現に向けた歩みが着実に前へ進むことを願ってやみません。「平和を希求する精神」を掲げる広島大学としても、しっかりと使命を果たしてまいりたいと思っています。
 その一環として、4月15日、国内外の専門家が広島市に集う読売新聞社主催のG7広島サミット記念シンポジウム「核兵器のない世界に向けて-安全への道筋は」に特別協力いたします。
 さらに4月25日~27日には国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)が主催し、広島大学が共催・共同実施する「広島G7ユースサミット」が東広島キャンパスをメイン会場として実施されます。世界の若者や学生を招き、核兵器の非人道性を学び、そしてともに、核兵器廃絶に向けた議論を通して、次世代の平和の担い手を育成していきたいと考えています。

 広島大学の今とこれからについて少しお話しします。
 東広島キャンパスでは、3月18日、新しい交通結節点として「広大中央口」のバス停周辺が装いを一新し、大学と街が交わるモビリティ・ハブが誕生しました。昨年8月には、米国アリゾナ州立大学サンダーバードグローバル経営学部広島大学グローバル校がキャンパス内に開校し、本格的な学生受け入れが始まりました。広島大学発祥の地、東千田キャンパスにはこの4月に法学部と大学院法学・政治学プログラムが移転します。霞キャンパスは昨年末に新たな講義棟の「凌雲棟」が完成するとともに、放射線影響研究所の学内への移転も決まり、医療人養成の拠点としての一層の高度化が進行します。
 研究では、昨年10月、本学が提案した「持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点」が、世界トップレベル研究拠点(WPI)に採択されました。WPIがスタートして16年になりますが、中四国で初めての快挙です。マサチューセッツ工科大学を始め世界トップレベルの研究者を招聘し、持続可能な社会を先導する科学と技術を創成する人材育成を行い、その成果を世界に向けて発信する「知のコモンズ」でありたいと願っています。

 広島大学は来年の2024年、新制大学開学から75周年、最も古い前身校の創設から150周年を迎えます。この節目を「第三の開学」と捉え、「100年後にも世界で光り輝く大学」に向けて、名実ともに中四国を代表する総合研究大学として一層羽ばたいていくことをお誓いします。

 さて、皆さんは就職、進学、あるいは起業する人もおられるでしょうが、どのような道に進まれても、広島大学の卒業生、修了生であることに自信と誇りを持って、果敢にチャレンジしていただきたいと思います。

 終わりに、皆さんへのはなむけとして、先ほどご紹介したカントが、知恵に導く行動原理として挙げた言葉を贈ります。
「自分で考えること」
「あらゆる他の人の立場に身を置いて考えること」
「つねに自分自身と一致して考えること」

あらためて、本日はおめでとうございます。

令和5(2023)年3月23日
広島大学長 越智光夫


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