就任3期目にあたっての所信表明 2023.4.5
〈はじめに〉
引き続きまして4月1日から広島大学長を拝命いたしました。第12代学長に就任して以来8年間、広島大学の立脚点である「平和を希求する精神」の下、「平和を希求し、チャレンジする国際的教養人」を育てていくことを柱として、国際化と大学改革の両輪で大学運営に努めてきました。
国際化に関しては米国アリゾナ州立大学サンダーバードグローバル経営学部広島大学グローバル校が昨年夏に開学しました。コロナ禍の影響のために入学生数は限られておりますが、今後徐々に増してくるものと思っています。広島大学は海外の大学との連携を進めてまいりました。大学間の国際交流協定を結んでいる大学は381校、また海外拠点も23カ所と、いずれも私が学長に就任する前に比べて約2.5倍に増えています。これらを通して学生や研究者が行き来できる環境を密につくっていきたいという思いがありました。
コロナ前までは海外から1800人以上の留学生が来学し、広島大学から海外に留学する学生も845人いましたが、ともに今後増やしていきます。
グローバルに活躍できる人材は、バックグラウンドの異なる文化・歴史を持つ人と国際語である英語で、いかにコミュニケーションできるかが大変重要になると強く思っております。TOEICスコアでみると、本学の学生はぐんぐん英語の実力をつけています。海外の大学に行ける基準とされる730点以上の学生は、広島大学全体で15%、医療系では33%に達しています。
また、留学生だけでなく研究者にも来ていただくために、東広島市の支援を受けて国際交流拠点施設ミライクリエを建てました。市民との交流スペースや研究者が住める居室もあります。
大学改革では、7年前に学術院を創設しました。それまでは部局ごとに人事を決定していたのを、学術院を通して全学人事を行うことになりました。これによって必要とされる新たな学部や人材育成に多くの人材を適切に配置することができるようになりました。そのおかげで情報科学部、総合科学部国際共創学科が設置されて6年が経過しました。
それとともに、社会全体が大きく変動する中で、新たに必要とされる領域が生まれています。そのような分野に適切に対応するため、11あった大学院研究科を4研究科に統合・再編し、今年4月からは農学、工学、医学、経済学などで構成する6つの研究領域からなる全研究科連携型の研究院を開設し、「Society 5.0」の実現に向けスマートエネルギーやスマート農業などに取り組んでいきます。
ここまでやってこられたのも執行部、構成員の方々のご理解とご尽力の賜物であると感謝いたしております。ただ、広島大学は今、魅力ある研究大学として生き残っていけるかどうかが問われています。今後、教育、研究、社会貢献、大学改革を一層進めていく必要があると思っております。
〈教育〉
まず、入試です。知識を詰め込むことも社会に出ていくためには必要ですが、問われているのは課題解決型の教育です。高大接続をうまく使いながら、できるだけ一発勝負の入試の比率を少なくしたいと考えています。総合型選抜や学校推薦型選抜の割合を増やしていきます。
また情報関係の高度人材の育成に加え、米国の半導体大手マイクロンテクノロジーの生産・技術開発拠点が近くにある地の利を生かして、半導体分野の専門知識を持つ人材の育成にも努めます。
霞キャンパスでは昨年末の「凌雲棟」(講義棟)完成に加え、放射線影響研究所の学内移転も決まるなど一層、基礎研究の充実に努めます。医学部・大学病院は、臨床医学領域のトップレベル論文数では中四国で第1位、国内82大学中のトップ10にランクインするなど、臨床力もどんどん上がっていると理解しています。
今年4月、東千田キャンパスに移転した法学部と大学院の法学・政治プログラムは、法科大学院と連携して法曹養成に力を入れ、まずは司法試験に挑む学生を増やして合格者数増につなげていきたいと考えています。
〈研究〉
「持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点」が、文部科学省の令和4年度世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択されました。10年間で70億円の資金を得てマサチューセッツ工科大学やケンブリッジ大学など世界最高峰の研究機関からトップ研究者11人に来ていただきます。この拠点が生み出す世界に輝ける業績と一緒になって、本学の研究も進んでいくものと期待しています。
本学が日本をリードしているゲノム編集を核とした「バイオDX産学共創拠点」も、科学技術振興機構(JST)の令和4年度「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」共創分野本格型に採択されました。また、音楽の効果を脳科学で解明する研究もJSTのムーンショット型研究開発事業に選ばれました。広島大学が誇れる唯一無二の研究分野が幾つもあり、一層力強く支援していきます。
このほかにも食料問題、ブルーオーシャン(競争のない未開拓市場)、海事、核兵器に対する課題などに平和の視点から取り組んでまいります。
〈社会・産学連携〉
社会・産学連携は、教育、研究とともに大学の大きな使命です。Town & Gown構想が既に動き始めており、キャンパスを小さな「まち」と捉え、カーボンニュートラルや自動運転等に続いて、電気自動車(EV)のカーシェアリングも学内で試行し、東広島市域に広げていければと考えています。
昨年9月、経済産業省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」に広島大学が大学で唯一採択されました。平時は企業のニーズに応じたバイオ医薬品を製造し、感染症のパンデミック発生時にはワクチン製造へ切り替えられるデュアルユース設備を有する拠点を霞キャンパスに整備して積極的に役割を果たしていきます。
こうしたことは構成員と密に連携を取りながら大学が一体となって進めてまいりたいと思っています。
〈G7広島サミット〉
5月19日から21日に開催されるG7広島サミットでは、主要7か国の首脳の方々に核兵器の怖さと悲惨さを十分に認識していただき、「核兵器のない平和な社会」に向けての第一歩をぜひ踏み出していただきたいと願っております。
広島大学としても、次の平和の担い手である若者が平和について考え、そのために何ができるかを考える機会となるよう、シンポジウムを企画したり開催協力したりいたします。
〈75+75周年〉
最も古いルーツである白島学校創設から150周年、広島大学開学75周年を2024年に迎えます。それに向けて様々な企画をしております。中四国を代表する大学として一層羽ばたいていくために、皆さま方にも広島大学の役割と価値を認識していただけるよう取り組んでまいります。
〈おわりに〉
19世紀イギリスの哲学者J.S.ミルは「大学が道徳的あるいは宗教的影響を学生に及ぼすことができるとするのならば、それは特定な教育によるのではなく、大学全体にみなぎっている気風によるのです」と述べています。
私自身もそのように考えています。広島大学が持つ平和を希求する気風を大切にしながら、大学一体となって進んでまいります。
どうぞよろしくお願いいたします。
令和5(2023)年4月5日
広島大学長 越智 光夫