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[研究成果]超強力X線による極微小プラズマ生成を発見



超強力X線による極微小プラズマ生成を発見

X線自由電子レーザーを利用したイメージングに重要なメッセージ

模式図

図 クラスターがナノプラズマ化する仕組みの概念図

【概要】

東北大学多元物質科学研究所上田潔教授・福澤宏宣助教のグループ、京都大学大学院理学研究科八尾誠教授・永谷清信助教のグループ、広島大学大学院理学研究科和田真一助教、理化学研究所放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループ矢橋牧名グループディレクター及び高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室先端光源利用研究グループ実験技術開発チーム登野健介チームリーダー等による合同研究チームは、原子のクラスター(*1)にX線自由電子レーザー(XFEL)(*2)施設SACLA(*3)から供給される非常に強力なX線を照射すると、ナノメートル(*4)程度の大きさのプラズマ(*5)(ナノプラズマ)を生成することを見出しました。

XFELの非常に強力なX線パルスを用いると、非常に小さな結晶や結晶化していない試料からでも1発のX線パルスでX線散乱を計測できるため、これまで構造が決定できなかった様々な物質や過渡的な状態にある物質の構造が決定できると期待されています。本研究の結果は、SACLAの強力X線パルスをどのような物質に照射してもナノプラズマ化という現象が起こり得るため、X線散乱の解析においてもこの現象による影響を正確に知ることが必要であることを示しています。

本研究の成果は、英国の科学雑誌『Scientific Reports』で、平成27年6月16日にオンライン出版されます。

本研究は、合同研究チームの上田を代表とする文部科学省 X線自由電子レーザー利用推進研究課題、 理化学研究所SACLA利用装置提案課題、文部科学省 X線自由電子レーザー重点戦略研究課題の各事業の一環として行われました。

【今後の展望】



今回の研究は、SACLAの強力なX線パルスを原子の集団に照射すると、X線のエネルギーや原子の種類によらず低エネルギー2次電子を大量に放出し、この2次電子が束縛されてナノプラズマを生成する可能性が常につきまとうことを示すものです。このことは、SACLAの強力なX線パルスを用いた物質の構造解析を行う上で、ナノプラズマが生成される反応素過程を正確に知り、考慮したうえで解析を行うことが必要不可欠であることを示しています。超強力X線と物質との相互作用に関する問題をひとつひとつ解決していって初めて、SACLAを用いて、これまで見えなかった超微細・超高速な現象を見ることも可能になると期待されます。

【論文】

雑誌名:Scientific Reports 5, 10977 (2015)

論文タイトル:Nanoplasma Formation by High Intensity Hard X-rays

著者名:T. Tachibana, Z. Jurek, H. Fukuzawa, K. Motomura, K. Nagaya, S. Wada,

P. Johnsson, M. Siano, S. Mondal, Y. Ito, M. Kimura, T. Sakai, K. Matsunami,

H. Hayashita, J. Kajikawa, X.-J. Liu, E. Robert, C. Miron, R. Feifel, J. P. Marangos,

K. Tono, Y. Inubushi, M. Yabashi, S.-K. Son, B. Ziaja, M. Yao, R. Santra, K. Ueda

DOI番号:10.1038/srep10977

※用語解説

(*1) クラスター

原子・分子が複数個集まって生成した集合体のことをクラスターと呼ぶ。不活性な原子でも弱い分子間力(ファンデルワールス力)により数個から数万個を超えるサイズのクラスターを生成することができ、気体でも固体でもないその中間にある状態。



(*2) X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free-Electron Laser)

X線領域で発振する自由電子レーザー(Free-Electron Laser)であり、可干渉性、短いパルス幅、高いピーク輝度を持つ。自由電子レーザーは、物質中で発光する通常のレーザーと異なり、物質からはぎ取られた自由な電子を加速器の中で光速近くに加速し、周期的な磁場の中で運動させることにより、レーザー発振を行う。



(*3) SACLA

理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられ、2006年度から5年間の計画で整備を進めた。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。諸外国で稼働中あるいは建設中のXFEL施設と比べて数分の一というコンパクトな施設の規模にも関わらず、 0.1ナノメートル以下という世界最短波長のレーザーの生成能力を有する。



(*4) ナノメートル

1メートルの10億分の1。

(*5) プラズマ

同じ空間内に正の電荷をもつイオンと負の電荷をもつ電子が混在している状態。気体、液体、固体に次ぐ第4の状態とも呼ばれる。



【お問い合わせ先】

広島大学大学院理学研究科 

和田 真一

電話:082-424-7401

E-mail:swada
sci.hiroshima-u.ac.jp(*は@に置き換えて送信してください。)


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