広島大学大学院理学研究科物理科学専攻
教授 木村 昭夫
TEL:082-424-7400
E-mail:akiok*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)
東京大学物性研究所 極限コヒーレント光科学研究センター
助教 石田 行章
TEL:04-7136-3381
E-mail:ishiday*issp.u-tokyo.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)
広島大学大学院理学研究科 角田一樹JSPS特別研究員(DC1)、広島大学創発的物性物理研究拠点 木村昭夫教授と東京大学物性研究所極限コヒーレント光科学研究センター 辛埴教授、石田行章助教らを中心とする研究グループは、世界最高エネルギー分解能を有する時間・角度分解光電子分光(*1)装置を用いることで、トポロジカル絶縁体(*2)における非平衡状態の持続時間が結晶内部の絶縁性とディラック点(*2)の位置によって支配されていることを実験的に突き止め、結晶の表層にいる質量ゼロのディラック電子の光に対する応答時間を飛躍的に長くすることに成功しました。
トポロジカル絶縁体は、結晶内部は絶縁体にも関わらず、その表面では金属的な状態が存在しています。しかしながら、結晶中に存在する欠陥によって結晶内部も金属的になってしまうことが問題でした。今回、結晶内部の絶縁性をキャリアドーピングにより制御し、各ドープ量での電子構造と超高速キャリアダイナミクスを系統的に追跡しました。その結果、結晶内部が金属的な場合は非平衡状態が数ピコ秒以内で終了するのに対し、絶縁性が高くなると非平衡状態が約100倍長くなることを実験的に初めて実証しました。本研究で得られた知見は、トポロジカル絶縁体の光機能を利用した新しいデバイス開発に大きな指針を与えるものと期待されます。
本研究の成果は、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
【用語解説】
*1.時間・角度分解光電子分光
物質に光を照射すると、光電効果と呼ばれる現象によって、電子が固体表面から放出されます。この放出された光電子のエネルギーと放出角度を測定し、エネルギー保存則と運動量保存則を利用して固体内部の電子のエネルギーと運動量の決定する手法を角度分解光電子分光と言います。
この角度分解光電子分光に、2種類の短パルスのレーザー光源を用いたものを時間・角度分解光電子分光といい、ポンプ光と呼ばれる光パルスによって生じた電子状態の動的変化をプローブ光によってスナップショットとして捉えることができます。
この時間・角度分解光電子分光は、通常の光電子分光では捉えることのできない非占有電子状態(電子が元々いない状態)や電子の超高速ダイナミクスを直接観測することができるため、基礎から応用に渡る幅広い分野で有用な実験手法となっています。
*2.トポロジカル絶縁体・ディラック点
透明なガラスは電気を通さずアルミホイルは電気を通すように、日常生活の中で「電気を通すかどうか」という感覚は物質の色を見るだけである程度判断できてしまいます。また、その自然に身に付いた感覚は、物理的な理由づけも可能であり、透明なガラスは「絶縁体」、アルミホイルは「金属」というように物質中の電子の状態で区別されます。
一方、「トポロジカル絶縁体」に属する物質は特殊で、「絶縁体」でありながら、その表面で金属と同じように電気を流す性質を持つ特殊な物質です。トポロジカル絶縁体の表面に電流を担う電子はスピン(電子の自転)[図1(a)(b)]をそろえて運動し、「光」と同じように質量を持たないのが最大の特徴です。この様子を、横軸を電子の運動量、縦軸を電子のエネルギーとして表すと、右図(c)の様に、電子エネルギーと運動量が比例関係にあり一般にディラック・コーンと呼ばれる。また、ディラック・コーンの中心にあたる直線が交わる部分はディラック点と呼ばれる。また通常の物質とは異なり、トポロジカル絶縁体の表面を動き回る電子は、普通とは違い、欠陥や不純物によって邪魔されることなく(エネルギーを損失することなく)伝導ができるというとても魅力的な性質を持っています。
図1.トポロジカル絶縁体の表面電子
図2.時間・角度分解光電子分光によって観測したトポロジカル絶縁体(Sb1-xBix)2Te3の超高速キャリアダイナミクス。
ビスマスをドープしていない場合は非平衡状態が約5ピコ秒以内で緩和しているが、ビスマスのドープ量を増やすと非平衡状態の持続時間が飛躍的に長くなることが明らかとなった。特に、ビスマスを43%ドープした試料では、非平衡状態が400ピコ秒以上経過しても存続しており、ビスマスをドープしていない試料より約100倍長い持続時間を観測した。
当研究室では2010年よりトポロジカル絶縁体研究を行なっています。大学院生の粘りと物性研との密接な研究の結果、今回初めて「真の」トポロジカル絶縁体のキャリアダイナミクスを明らかにすることができ、今後の展開を大いに期待しております。
広島大学大学院理学研究科物理科学専攻
教授 木村 昭夫
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掲載日 : 2017年10月26日
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