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【研究成果】薬剤耐性遺伝子検出の新技術を開発!実用化し、5月に製品化

本研究成果のポイント

  • 抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が世界的に増加し、感染症による治療が長期化するケースが増加している中、早急な対策が求められています。
  • 薬剤耐性菌の内、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(以下CRE)の検出に関して、従来の技術を更に高度化させ、近年問題視されるようになっており従来の方法では検出が難しかった2種類の遺伝子型を追加した、計7種類の遺伝子型を約3時間で同時検出できる技術を開発しました。
  • 薬剤耐性菌の内、AmpC型β-ラクタマーゼ(以下AmpC)の検出に関して、これまで一般的なPCR法※1で複数種を検出するには半日から数日の時間を要していましたが、AmpC遺伝子型6種類を、約3時間で同時検出できる技術を開発しました。
  • これらの技術を実用化した製品が本年5月1日からそれぞれ販売を決定。病院や研究機関等で行う薬剤耐性菌検査の大幅な迅速化・効率化等が可能となります。

※1 PCR法とはDNAを増幅させる手法の一つです。一般的なPCR法では1つの遺伝子を増幅しますが、マルチプレックスPCR法は同時に複数の遺伝子を増幅する方法です。一部の細菌は自身の染色体とは別に、プラスミドと呼ばれる環状のDNAを持つことがあります。プラスミドは細菌同士の接合により、他の細菌に伝播する場合があります。

研究成果の内容

<カルバペネマーゼ遺伝子型の検出>
CREは、抗菌薬の最後の切り札として使用されるカルバペネム系抗菌薬に耐性を持ち、「悪夢の耐性菌」と呼ばれています。さらに、ほぼ全てのβ-ラクタム系抗菌薬に対して耐性を示し、他の系統の抗菌薬に対する多剤耐性を獲得していることが多いため、治療に難渋する傾向があり、特に問題視されています。

この内、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(以下CPE)は、カルバペネム系抗菌薬を分解する酵素(カルバペネマーゼと呼ばれる)を産生する細菌であり、薬剤耐性遺伝子を他の細菌に伝播させることがあるため、感染制御の観点から特に注意が必要です。しかし、CPEの中には、従来の培養法では判定が難しい菌株が存在するため、日常的に実施可能な検査法が求められていました。

去る2016年6月、広島大学院内感染症プロジェクト研究センターと関東化学株式会社は、CPEの薬剤耐性遺伝子検出法に関する共同研究を行い、日本に多く存在する主なカルバペネマーゼ遺伝子型5種類を約3時間で検出できるマルチプレックスPCR法を用いた迅速検出技術を開発し、実用化しました(当時の成果)。ところがその後、新たに2種類のカルバペネマーゼ遺伝子が特に西日本では問題視されるようになってきており、検出技術が求められておりました。

この度、同研究センターの鹿山鎭男助教、菅井基行客員教授、大毛宏喜教授と関東化学株式会社の研究チームは、その2種類のカルバペネマーゼ遺伝子型(カルバペネマーゼ型GESグループ、IMP-6遺伝子)を検出する技術を開発しました。この技術を、前述のマルチプレックスPCR法に組み込むことで、国内に多く存在するカルバペネマーゼ遺伝子型の検出の迅速化を実現しました。

カルバペネマーゼ型GESを保有する菌とESBL型GESを保有する菌は、治療に用いる化学療法薬の選択範囲が異なるため、これらの判別は臨床的に非常に重要であったものの、塩基配列が似ていることからこれまでの一般的なPCR法での判別は非常に困難でした。しかし、今回の新技術の導入により、これらの遺伝子型の判別が非常に容易になりました。
また、IMP-6遺伝子とIMP-1遺伝子も判別が困難でしたが、今回の新技術により判別が容易になりました。

<AmpC遺伝子型の検出>
AmpCは、細菌による感染症の一般的な治療に広く使用されているセファロスポリン系抗菌薬を分解する酵素です。多くのグラム陰性桿菌は染色体上にAmpC遺伝子を保有しており、抗菌薬の曝露等によってAmpCの過剰産生が誘導されます(染色体性AmpC)。また、染色体上にAmpC遺伝子を保有しない菌種でも、AmpCをコードするプラスミド※2を獲得することがあります(プラスミド性AmpC)。

染色体性AmpCの過剰産生株やプラスミド性AmpC産生株は、第三世代セファロスポリン系やセファマイシン系を代表とする多くのβ-ラクタム系抗菌薬に耐性を示します。

また、プラスミド性AmpC遺伝子は、菌種を超えて広がる危険性があり、感染制御の観点から特に注意が必要です。しかし、AmpC産生株の中には、従来の培養法では判定が難しい菌株が存在し、このような菌株の薬剤耐性を判断するためにはPCR法などによって薬剤耐性遺伝子の保有状況を調べる必要があります。ところが、一般的なPCR法では、1回の反応で1種類のAmpC遺伝子しか検出できず、複数種類存在するAmpC遺伝子を検出するには半日から数日の時間を要します。

この度、同研究センターの鹿山鎭男助教、原稔典技師、菅井基行客員教授、大毛宏喜教授と関東化学株式会社の研究チームは、AmpC遺伝子の迅速検出技術の確立を目指した共同研究を実施し、対象遺伝子を一度に検出できるマルチプレックスPCR条件を確立。国内に存在する主なプラスミド性AmpC遺伝子型全6種類を約3時間で同時検出できる技術を開発することに成功しました。

※2 一部の細菌は自身の染色体とは別に、プラスミドと呼ばれる環状のDNAを持つことがあります。プラスミドは細菌同士の接合により、他の細菌に伝播する場合があります。

開発した技術

本技術は、2種類のマルチプレックスPCR法を用いて、7種類のカルバペネマーゼ遺伝子型、又は6種類のAmpC遺伝子型を同時に増幅し、電気泳動パターンを元に遺伝子型を決定する手法です。

電気泳動例

発売される製品

本研究成果は、実用化に向けた開発が進んでおり、2018年5月1日に関東化学株式会社より「シカジーニアス® カルバペネマーゼ遺伝子型検出キット2」、「シカジーニアス® AmpC遺伝子型検出キット」として製品化し発売を決定しています。

【お問い合わせ先】

(研究内容に関するお問合せ先)
広島大学大学院医歯薬保健学研究科 細菌学
助教 鹿山 鎭男
TEL: 082-257-5636
FAX: 082-257-5636
E-mail: kayama*hiroshima-u.ac.jp(注:*は半角@に置き換えてください)

(製品に関するお問合せ先)
関東化学株式会社試薬事業本部試薬技術部バイオケミカル課
小林 崇良
TEL: 03-6214-1090
FAX: 03-3241-1047
E-mail: bio-info*gms.kanto.co.jp(注:*は半角@に置き換えてください)


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