このたび、広島大学大学院理学研究科の高橋弘充助教、宇宙科学センターの水野恒史准教授、東京大学大学院理学系研究科 釡江常好名誉教授、名古屋大学宇宙地球環境研究所 田島宏康教授、早稲田大学理工学術院先進理工学研究科 片岡淳教授ら、日本とスウェーデンのPoGO+(ポゴプラス)国際共同研究グループは、ブラックホール連星系である「はくちょう座X-1」からの硬X線放射の偏光観測を実施しました。
この際、これまで技術的に観測が困難とされていたX線やガンマ線の偏光観測を直径100mにも膨らむ気球に搭載して実現し、硬X線の帯域において世界で初めて信頼性の高い偏光情報を得ることに成功しました。この結果、「はくちょう座X-1」において、恒星からブラックホールに吸い込まれている物質は相対論的な効果を強く受けておらず、ブラックホールまで約100kmの位置から内側では広がった幾何構造をしていることが明らかになりました。
従来の測定方法では、物質の幾何学的な構造がブラックホールの近傍では広がっているのか、コンパクトな状態で存在しているのかの判断が困難でしたが、今回の偏光観測という新しい手段によって、前者であることが強く支持されることになります。
今後は、改良した気球実験や人工衛星のX線偏光の観測結果、理論研究から、様々な質量のブラックホール(太陽質量の数倍から100億倍もの超巨大サイズ)において、ブラックホールに吸い込まれつつある物質が重力の影響をどのように受けているが明らかにされ、中心に存在するブラックホールの特性(自転速度)やブラックホールが及ぼす相対論的な効果(時空のゆがみ)などの理解が進むと期待されます。
本研究は、日本学術振興会・科学研究補助金科研費JP23740193、JP25302003などサポートを受けて行われ、また米国SLAC国立加速器研究所、東京工業大学、宇宙科学研究所(JAXA)からも多大な支援をいただきました。
本研究成果は、2018年6月26日に英国科学誌「Nature Astronomy」(オンライン版)で公開されました。
6月25日、本件について、広島大学東広島 キャンパスにおいて記者説明会を行いました。
説明を行う高橋助教(左)、水野准教授(中央)、内田和海さん(理学研究科 D1、右)
【参考資料】
注1)硬X線:X線とガンマ線の間のエネルギーをもつ電磁波
注2)偏光:通常の光は色んな方向に電場が振動しています。人工的にはサングラス、自然界では水面での反射などにより、ある特定の方向のみに振動している状況を偏光した光と呼びます。注3)ブラックホール連星系「はくちょう座X-1」:宇宙で一番初めにブラックホールの存在が提唱された天体で、地球から約6000光年の距離にあります。相手の恒星から、ブラックホール(太陽の約15倍の質量)へ物質が降着し(降り積もり)、その際に強い重力によって非常に高温に熱せられ、X線で明るく輝いています。ブラックホールに物質が吸い込まれる直前(ブラックホール周辺の100kmのサイズ)は、画像では空間分解できません。PoGO+研究チームでは、反射や散乱によって生じる偏光情報から、この構造の推定に成功しました。はくちょう座X-1における100kmは、600km先(広島から名古屋まで)における1ナノメートル(原子1個)サイズに対応します。
注3)ブラックホール連星系「はくちょう座X-1」:宇宙で一番初めにブラックホールの存在が提唱された天体で、地球から約6000光年の距離にあります。相手の恒星から、ブラックホール(太陽の約15倍の質量)へ物質が降着し(降り積もり)、その際に強い重力によって非常に高温に熱せられ、X線で明るく輝いています。ブラックホールに物質が吸い込まれる直前(ブラックホール周辺の100kmのサイズ)は、画像では空間分解できません。PoGO+研究チームでは、反射や散乱によって生じる偏光情報から、この構造の推定に成功しました。はくちょう座X-1における100kmは、600km先(広島から名古屋まで)における1ナノメートル(原子1個)サイズに対応します。
注4)ブラックホール近傍での降着物質の幾何構造(降着円盤とコロナ):太陽の光球とコロナのように、ブラックホールに降着する物質も降着円盤とコロナを形成していると考えられています。しかし遠方にあるため太陽のように高解像度な画像は撮れず、時間変動(測光)、エネルギー(分光)、偏光観測から、これらの幾何学的な構造を推定する必要があります。世界初の硬X線偏光の観測から、ブラックホールの近傍100kmあたりで、降着円盤とコロナの幾何学的な構造を明らかにできたことが本研究の成果です。
注5)30年来の論争であったブラックホール近傍での降着物質の幾何学的な構造(ハード状態において):
注4)の想像図におけるブラックホールのごく近傍をポンチ絵にしたもの。
注6)PoGO+気球実験:直径100mの大気球で北極圏の上空40kmから天体観測を実施しました。