世界初の取り組み ~ がんの増殖に必要な遺伝情報を読みとれなくする革新的技術開発 ~
がんの発生やその進行に役割を果たす遺伝子は、ドライバー遺伝子と呼ばれます。現在多くのがんでこのドライバー遺伝子に対する小分子化合物や抗体薬の開発が進められていますが、この中には創薬が困難な遺伝子もあります。CRISPRiは従来型の標的薬開発の問題点を解決し、標的薬未開発のがんに対する治療法開発の基盤となり得る新技術であり、開発コストも低く、医療経済の面からも新しい創薬のかたちを提案しています。
川崎医科大学総合外科学講座の深澤拓也准教授と広島大学大学院理学研究科の佐久間哲史講師、国立がん研究センター研究所エピゲノム解析分野の牛島俊和分野長らの研究グループは、CRISPRi (クリスパー インターフィアランス) と呼ばれるゲノム編集を応用した遺伝子の転写調節技術を用いて、がんの増殖を阻害することに成功しました。一度に複数のゲノム領域を標的にできるマルチガイドCRISPRiの応用としては、世界で初めての取り組みとなります。このシステムは、標的のがん遺伝子の情報を読みとれなくすることにより、がんが増殖できないようにするもので、新しいがん治療法開発の基盤となりうる新技術として期待できます。
本研究成果は、がん治療分野の総合科学雑誌「Oncotarget」のオンライン版に公開されました。なお本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業「癌関連遺伝子の発現を多重制御するエピゲノム編集ベクターの開発と応用」(研究代表者:佐久間哲史)等による支援を受けて行われました。
本研究では、マルチガイドCRISPRi を用いて、肺がん及び食道がんで高発現しがん化を促進する「ΔNp63遺伝子」の発現を効果的に抑制することで、腫瘍の増殖を止められることを動物実験にて確認しました。このシステムは、他のがん関連遺伝子にも適応可能であり、複数の標的遺伝子を同時に読めなくすることもできます。またこのシステムは、がん以外の疾患関連遺伝子にも応用できる革新的技術として期待されます。