アンモニア分解ガスから燃料電池自動車注1)用高純度水素を高効率で回収する水素精製装置を10Nm3/hの規模で開発し、水素回収率注2)90%を初めて達成しました。また、10%のオフガスをアンモニア分解用熱供給装置に供給することができ、エネルギー効率注3)80%以上で高純度水素の製造が可能となりました。本成果によって、アンモニアから安価な高純度水素を製造でき、燃料電池自動車や燃料電池フォークリフトの燃料として供給することが可能となります。
内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」(管理法人:国立研究開発法人 科学技術振興機構【理事長 濵口 道成】)の委託研究課題「アンモニア水素ステーション基盤技術」(研究責任者:広島大学【教授 小島 由継】)において、大陽日酸㈱は、アンモニア分解ガスから燃料電池自動車用高純度水素を高効率で回収する技術を開発しました。
アンモニアはNH3で示されるように、多くの水素を含んでおりエネルギーキャリア注4)として期待されています。しかし、アンモニアの分解(脱水素)反応は吸熱反応であり、反応熱を供給する必要があります。開発した水素精製装置は、4塔式の圧力変動吸着法注5)(PSA法)を用いた水素精製装置に新プロセスを組み合わせることにより、精製時に発生するオフガスを一定の流量かつ一定の水素濃度で供給することが可能となります。このオフガスを空気と触媒で燃焼させることで、効率的にアンモニア分解熱を供給することが可能となり、高水素回収率かつ高エネルギー効率での水素製造を実現することができます。
今回、10Nm3/h規模でのアンモニア分解模擬ガスを用いた水素精製装置のパイロット試験に成功し、300~1,000Nm3/hの実用化規模の精製装置製作に目途を付けることができました。「アンモニア水素ステーション基盤技術」で並行して開発が進められているアンモニア分解装置、熱供給装置やアンモニア除去装置と組み合わせることで、アンモニアより高純度水素を効率的に製造することが可能になります。
今回の成功は、アンモニアを燃料電池自動車用水素燃料へ利用するための技術の大きな進展であり、将来、燃料電池自動車や燃料電池フォークリフト用の水素ステーションの原料としてカーボンを含まないアンモニアが利用できるようになり、CO2削減に大きく貢献することになります。
開発内容の詳細は、10月31日に米国ピッツバーグで開催される2018 AIChE Annual Meeting(米国化学工学会年次大会2018)で発表いたします。
注1) 燃料電池自動車:搭載した固体高分子形燃料電池で燃料(水素)と空気中の酸素から発電し電動機を動かして走行する自動車である。2014年12月にトヨタ自動車㈱から、世界初の量産型燃料電池自動車MIRAIが発売され、2016年3月には本田技研工業㈱から、新型燃料電池自動車CLARITY FUEL CELLが発売された。
注2) 水素回収率(水素精製効率):高純度水素量/アンモニアに含まれる水素量。
注3) エネルギー効率:アンモニア分解によって得られた高純度水素の燃焼エネルギー/投入アンモニアの燃焼エネルギー。
注4) エネルギーキャリア:液体水素やメチルシクロヘキサン、アンモニアなど水素を多く含む物質のことで、エネルギー生産地で合成して、化学的に安定な液体として保存、運搬し、エネルギー消費地で水素を取り出すか直接エネルギーに変換して使用する。
注5) 4塔式の圧力変動吸着法:圧力変動吸着法(Pressure Swing Adsorption法:PSA法と略す)とは、精製するガスを高い圧力で吸着剤に接触させることで不純物を選択的に吸着除去してガスを精製し、不純物を吸着した吸着剤は圧力を下げることで不純物を脱離させることで再利用する方法である。この精製工程と脱離工程を交互に繰り返すことで、連続的なガスの精製が可能となる。このPSA法は2塔のシステムで可能であるが、本開発では4塔式にしてガス流れを詳細にコントロールする事で高いガス回収率と高純度化が達成できた。