• ホームHome
  • 【研究成果】量子力学の不確定性原理における測定誤差の相関の測定に成功 -不確定性原理により隠れた二つの物理量の関係の解明に貢献-

【研究成果】量子力学の不確定性原理における測定誤差の相関の測定に成功 -不確定性原理により隠れた二つの物理量の関係の解明に貢献-

本研究成果のポイント

  • 量子力学では不確定性原理※1によって、相補的な関係にある二つの物理量は同時に正確な値が得られないとされています。この原理を成立させる両者の関係は数学的に表現されていますが、物理的な関係やメカニズムについては、ほとんど分かっていません。
  • 二つの物理量を同時に測定する際に、測定誤差を生じさせる測定装置の間違いが両方とも起こるか、あるいはどちらか一方のみ起こるかの傾向の強さを表す量の測定に成功し、上記の物理的な関係解明に繋がる成果を確認しました。
  • 今回の結果を相補的な物理量の統計的性質の解析に利用することによって、長年に渡り議論されている量子力学の根底に存在する謎(不確定性原理により導き出せない事象)の解明に繋がることが期待されます。

概要

広島大学大学院先端物質科学研究科 飯沼昌隆助教、ホフマンホルガ准教授らの研究グループは、光子の相補的な二種類の偏光の同時測定について、測定誤差を生じさせる測定装置の間違いが両方とも起こるか、あるいはどちらか一方のみ起こるかの傾向の強さを表す量(測定誤差の相関)の測定に世界で初めて成功し、それらの非古典的な関係を実験から確認しました。

量子力学では不確定性原理によって、相補的な二つの物理量※2は同時に正確な値が得られないとされています。この原理を成立させる両者の関係は数学的に表現されていますが、物理的な関係やメカニズムはほとんど分かっていません。両者の関係を実験から明らかにするのは容易ではありませんが、測定誤差の相関が評価されていれば、同時測定から相補的な物理量の統計的な関係※3を得ることはできます。

本研究では、偏光※4のもつれ合った光子対※5を用いて相補的な二種類の偏光の同時測定の測定誤差を非局所量子相関※6の解析によって調べました(図1)。その結果、それぞれの測定誤差以外に測定誤差の相関が初めて実験的に評価され、非古典な関係が確認されました。今回の結果を相補的な物理量の統計的性質の解析に応用することによって、量子ビットとして使われる二準位系※7の量子現象の直感的な理解につながることが期待されます。

本研究成果は、英国学術誌「Physical Review A」のオンライン版に掲載されました。

用語解説

※1 不確定性原理:量子力学での基本的な原理の一つで、一方の物理量が正確であれば、もう一方の物理量が不確定になる性質を原理として示したもの。

※2 相補的な物理量:不確定性原理を満たす二つの物理量のペアのことを表す。相補的な物理量のペアとして、例えば位置と運動量、直交している角運動量の二成分などがある。

※3 統計的な関係:二つの物理量の結合確率分布から得られる積の平均値のこと。

※4 偏光:古典電磁気学では、光は進行方向に対し垂直方向に振動する横波として理解されており、振動方向が一様ではなくある特定の方向に偏っている状態を偏光状態と呼ぶ。ここでは振動方向が一直線上に限定される直線偏光状態のみを扱う。振動方向は直交する二方向の成分に分解することが可能で、ここでは分解されたこれらの振動強度の割合の差を偏光としている。二成分への分解方法はいくつも存在するが、独立な方法は二種類しかない。したがって独立な偏光は二種類存在し、それらは相補的な関係になる。なお量子力学では光を光子として扱うため、偏光状態も光子の偏光状態を扱っている。

※5 偏光のもつれ合った光子対:二つの光子のそれぞれの偏光を空間的に離れた二地点で独立に測定する場合を考える。両者の測定結果の間に関係が存在し、かつ偏光の種類に依存しないとき、偏光のもつれ合った状態と呼ぶ。

※6 非局所量子相関:もつれ合った光子対の二つの測定結果の間に現れる関係は、空間的に離れた二地点でのそれぞれの測定操作に依存しない。この非局所的な性質は古典物理学では説明できない現象で、非局所量子相関と呼ばれている。

※7 二準位系:独立な状態が二つのみから構成される物理系で、量子情報科学での量子ビットとして利用される。光子の偏光の他に、電子や陽子の磁気モーメントの上向きと下向き、超伝導ジョセフソン結合回路で発生する磁束の上向きと下向き、などが対応する。

図1. 二種類の偏光xyの同時測定の測定誤差とそれらの相関をもつれ合った光子対で評価する。xyの量子相関が負となる状態を用意すると、xyの量子相関は正となる。

論文情報

  • 掲載雑誌: Physical Review A
  • 論文題目: Experimental evaluation of non-classical relation between measurement errors using entangled photon pairs as a probe
  • 著者: 飯沼昌隆1、中野雅之1、ホフマンホルガ1、鈴木佑太朗2
    1) 広島大学大学院先端物質科学研究科
    2) 京都大学大学院理学研究科
  • DOI: 10.1103/PhysRevA.98.062109
【お問い合わせ先】

広島大学大学院先端物質研究科 量子物質科学専攻 高エネルギー物理学研究室 
助教 飯沼 昌隆

TEL: 082-424-7037

FAX: 082-424-7037

E-mail: iinuma*hiroshima-u.ac.jp (*は半角@に置き換えてください)


up