国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平朝彦、以下「JAMSTEC」という。)の諸野祐樹主任研究員、稲垣史生上席研究員、国立大学法人高知大学(学長 櫻井克年)の浦本豪一郎特任助教/卓越研究員(JAMSTEC 客員研究員)らは、南太平洋環流域等の外洋の海底堆積物(図1)の中に、直径数ミクロンの鉄マンガン酸化物微粒子(以下「微小マンガン粒」という。図2)が、堆積物1ccあたり1億~10億個存在することを世界で初めて発見しました。
微小マンガン粒は、外洋域の酸素に富む堆積物環境にのみ見つかりました。外洋地層全体での存在量を計算した結果、1028~1029個もの微小マンガン粒が海底下に存在することが分かりました。また、この微小マンガン粒は鉄やマンガン等の主要金属元素だけでなく、レアアースのような有用希少金属を多く含むことも分かり、特にマンガンについては、地層中に含まれるマンガンの30~60%、重さにして1.28~7.62兆トンのマンガンに相当することが明らかとなりました。これは、海底表層に広く存在することが知られる球状や板状の鉄マンガン酸化物(マンガン団塊やコバルトリッチクラスト)に含まれるマンガン総量の100~1000倍に相当します。さらに、レアアースについては最大33~194億トン程度が微小マンガン粒に含まれており、マンガン、レアアース等の膨大な金属元素が微粒子状の形で海底下に埋もれていることを示しています。
また本研究では、精密元素分析等を実施することにより、この微小マンガン粒が海水中で形成したことが示唆されました。これにより、これまで存在すら知られていなかった金属酸化物の微粒子が、海洋での金属元素循環や物質保持メカニズムを理解する上で重要な役割を果たすことが明らかとなりました。本研究成果は、環境試料から特定の微細粒子を精密かつ高速に分離・回収する基盤技術の確立に立脚しており、今後、様々な応用展開が期待されます。
なお、本研究は統合国際深海掘削計画(IODP、※1)第329次研究航海「南太平洋環流域生命探査」により採取されたコア試料(※2)を用いて行われたものです。大型放射光施設SPring-8(BL47XU, BL20XU, BL20B2)において高分解能CT計測および、高エネルギ-加速器研究機構物質構造科学研究所フォトンファクトリー(BL-9A、BL-13A)において、走査型透過X線顕微鏡分析およびX線吸収スペクトル分析を実施しました。日本学術振興会の科研費JP24687004、JP25871219、JP26251041、JP14J00199、JP15H02810、JP17H04582、JP17H06458、JP18H04134、最先端・次世代研究開発支援プログラム(GR102)および、文部科学省卓越研究員事業の支援を受けて実施されました。
本成果は、英科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
(※1) 統合国際深海掘削計画 (IODP:Integrated Ocean Drilling Program):
平成15年(2003年)10月から平成25年(2013年)9月まで実施された多国間国際協力プロジェクト。日本が運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を推進する。平成25年(2013年)10月からは、国際深海科学掘削計画(IODP:International Ocean Discovery Program)として実施されている。
(※2) コア試料:
掘削等によって採取される柱状の地質試料。JAMSTECと高知大学が共同運営する高知コアセンター(高知県南国市)には、IODP等の科学海洋掘削によって全海洋の約1/3の海域(西太平洋やインド洋等)から採取されたコア試料(全長約130キロメートル分)が保管・管理されている。
図1 研究試料を得た海底堆積物の掘削サイト。
青:高い確率で酸素が海底表層から玄武岩まで到達している範囲
水色:酸素が海底表層から玄武岩まで到達していると推定される範囲。
図2 海底堆積物に含まれる微小マンガン粒の走査電子顕微鏡写真。
樹脂で固めた堆積物の断面の写真(黄色の矢印で示すのが微小マンガン粒)(左)と、比重分画・光学特性の解析で分離した微小マンガン粒の拡大写真(右)。