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本研究成果のポイント
- 自分でやっていることなのに、やめたくてもやめられないという一見矛盾した現象が「過剰な責任感」によって引き起こされていることを、質問紙調査によって明らかにしました。特に、一人で責任を抱えて自分を責める人や、考え続ける義務感を感じる人は、心配や強迫症状が強いことが分かりました。
- 心配や強迫傾向は、生活に支障がでるほどになると、それぞれ全般性不安症と強迫症という精神疾患になります。この2つの疾患はこれまで別個のものとされてきましたが、本研究の結果は双方を共通の方法で治療できる可能性を示すものです。
概要
広島大学大学院総合科学研究科の杉浦義典准教授とセントラルフロリダ大学のBrian Fisak准教授との研究グループは、過剰な責任感を感じやすい人は、心配や強迫傾向(ミスを恐れて繰り返し書類などを確認するなど)が強くなることを明らかにしました。特に一人で責任を抱えて自分を責める人や、考え続ける義務感を強く感じる人でそれが顕著でした。 (図1)
心配や強迫傾向の強い人は、やめたいと思っているにもかかわらず、やめられずに苦しんでいます。それでいて心配や強迫傾向は勝手に起きてくるわけではありません。(例えば郵送するために一度封筒に入れた書類を、ミスがないか確認するために封筒が破れないようにもう一度出すなど。)そうであれば自分の意志でやっているのに、なぜやめられないのかという疑問が沸きます。さらに、全般性不安症と強迫症は現在では別の疾患と考えられていますが、この研究では同じメカニズムが両方の問題を引き起こしていると考えました。
アメリカ人大学生539人を対象として調査を行った結果、2つのことが明らかになりました。第一に、統計的な方法を使って分類したところ、過剰な責任感は3つのタイプの内容に分かれました。(1)よくないことが起きるのを、避けなくてはいけないと考える。(2)よくないことが起きるのは自分のせいだと考えて自分を責める。(3)困った問題についてはとことん考え抜かなくてはいけないという義務感を感じる。第二に、この3種類のうち、どのタイプの責任感を心配や強迫傾向と関連するかを分析した結果、自分を責める傾向と、考え続ける義務感が、心配と強迫傾向の双方を強めることが分かりました。
心配や強迫傾向は生活に支障が出るほどになると、それぞれ全般性不安症と強迫症という精神疾患になります。現在は、全般性不安症も強迫症を治療する方法もそれぞれ別個のものです。しかし、自分を責める傾向と考え続ける義務感という2つの要因が双方を強めることが明らかになったため、そこに働きかけることで同じ方法で2つの問題を治療できる、より効果的な方法が可能になると期待されます。
本研究成果は、科学誌「International Journal of Cognitive Therapy」のオンライン版に掲載されました。
図1. 3種類の責任感のうちの2つ(「責任を一人でかかえて自分を責める傾向」と「考え続ける義務感」)が、心配と強迫傾向の双方を強めることが明らかになった。「よくないことを避けなくてはいけない」という責任感からは有意な影響力は示されなかった(図の点線)。
矢印に付した数値は標準偏回帰係数(β)で、それぞれの責任感が単独で心配/強迫傾向へどの程度影響を及ぼしているかを示す。「NS」は有意な結果が得られなかったことを示す。大学生539人の結果。
論文情報
- 掲載雑誌: International Journal of Cognitive Therapy
- 論文題目: Inflated Responsibility in Worry and Obsessive Thinking
- 著者: 杉浦義典1、Brian Fisak2
1. 広島大学大学院総合科学研究科
2. Department of Psychology, University of Central Florida, Orlando, USA - DOI: dx.doi.org/10.1007/s41811-019-00041-x
広島大学大学院総合科学研究科
准教授 杉浦 義典