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【研究成果】簡便かつ安価な雌雄産み分け方法の開発に成功! ~哺乳類のX精子とY精子に機能差があることを初めて実証~

本研究成果のポイント

  • X染色体をもつ精子(X精子)とY染色体をもつ精子(Y精子)に潜在的な機能差があることを明らかとしました。
    マウス精子に存在するRNAを網羅的に検出し(*1)、それらがどの染色体から発現したかを解析することで、X染色体をもつ精子(X精子)にのみToll 様受容体(TLR7とTLR8)(*2)が発現していることを発見しました。さらに、両者を薬理的に刺激することで、X精子が不動化することを見出しました。これらの成果は、これまで精子形成過程でブリッジ(*3)を介して、X精子もY精子も同一の機能を獲得すると考えられていた定説を覆す新知見です。
  •  TLR7とTLR8のリガンド(*4)によりX精子とY精子を分離し、それらを用いた体外受精による新規雌雄産み分け法を開発しました。
    X精子が、TLR7とTLR8を薬理的に刺激すると沈殿する反応を利用し、マウス精子を下層のX精子と上層のY精子に分離回収後、それらを体外受精(*5)に用いました。その結果、正常な受精率と発生率を示し、その初期胚を移植することで、雌雄を選択的に生産する雌雄産み分け法を開発しました。さらに、ウシ精子とブタ精子においても半数の精子にTLR7/8が発現することを確認し、ウシでは体外受精で、ブタでは人工授精(*6)により雌雄産み分けにも成功しました。 

概要

広島大学大学院統合生命科学研究科 島田 昌之 教授、梅原 崇 助教および辻田 菜摘 研究員の研究グループは、マウスを用いて精子形成過程で分配される性染色体(X染色体とY染色体)(*7)の違いが、X染色体を有する精子(X精子)とY染色体を有する精子(Y精子)の機能差を発揮させることを見出しました。具体的には、X染色体にコードされているTLR7とTLR8がX精子にのみ発現していること、そのTLR7とTLR8を薬剤で活性化することによってX精子とY精子の分離が簡便に行えることを明らかとしました。さらに、ウシやブタにおいても半数の精子にTLR7とTLR8が発現していること、両者を刺激する薬剤によるウシとブタの簡便な雌雄産み分け技術の開発にも成功しました。

本研究のマウスをモデルとした研究成果は、「PLOS Biology」オンライン版に掲載されました。

2019年8月9日、本件について、東京オフィスで記者説明会を開催しました。

説明を行う島田教授

説明を行う島田教授(左)と梅原助教(右)

用語説明

(*1)発現遺伝子の網羅的な解析 (RNAシークエンス)
細胞内に存在する全てのRNAについて、全塩基配列を次世代シーケンサーによって決定する手法。決定された配列を既知遺伝子や染色体上にマッピングし、その発現を定量化することで、細胞内に存在する全ての遺伝子について発現や存在を定量化できる。 

(*2)Toll様受容体 (TLR)
細胞膜表面あるいは細胞内の小胞体にある受容体タンパク質であり、種々の病原体を感知して自然免疫(生体に侵入した病原体をいち早く感知し、発動する第一線の生体防御機構)を作動させる機能を有する。哺乳類において、TLR1からTLR13まで13種の存在が報告されている。本研究で着眼したTLR7とTLR8は、RNAウイルスの感染を認識する受容体であり、1本鎖RNAや合成低分子化合物により活性化される。 

(*3)細胞間架橋 (ブリッジ)
精巣内の生殖細胞同士をつないでいるIntercellular bridge (生殖細胞間架橋)と呼ばれる構造であり、mRNAやタンパク質、細胞内小器官の生殖細胞間の輸送を可能にする。この作用によって、生殖細胞の間の成熟や機能が均一化させると考えられている。

(*4)TLR7とTLR8のリガンド
リガンドとは、特定の受容体に特異的に結合して、受容体を活性化する物質であり、TLR7とTLR8両者に作用するリガンドとして低分子化合物であるR848が、TLR7にのみ結合するリガンドとしてR837が知られている。

(*5)体外受精
通常は体内で起こる受精を体外で行うこと。具体的には、排卵された卵を体外において回収し、それを体外環境において精子と共に培養することで受精卵を得る手法。

(*6)人工授精
体内で起こる受精を人為的に操作するため、精子を含んだ精液を雌の副生殖器(子宮、子宮頚あるいは膣)内に直接注入し、受精機会を高める手法。

(*7)性染色体
生物の雌雄を決定する染色体であり、哺乳類ではX染色体とY染色体、両生類、爬虫類、そして鳥類ではZ染色体とW染色体のことを指す。哺乳類において、X染色体のみを有するホモ型個体(XX)が雌となり、X染色体とY染色体を共に有するヘテロ型個体(XY)が雄となる。一方で、両生類、爬虫類、そして鳥類ではZ染色体のみを有するホモ型個体(ZZ)が雄となり、Z染色体とW染色体を共に有するヘテロ型個体(ZW)が雌となる。 

精子形成過程と染色体分配の仕組み

精子形成過程と染色体分配の仕組み。雄の生殖細胞である精子は、精巣内で精子幹細胞を起源として産生される。精子幹細胞は体細胞分裂をするとともに、一部の精子幹細胞が減数分裂過程に移行することで、精子形成は開始される。減数分裂に移行した精子幹細胞は、精祖細胞、一次精母細胞となったのち、染色体が分配された二次精母細胞となり、精子細胞へと分裂する、このとき、二次精母細胞間や精子細胞間は細胞間架橋(ブリッジ)によって連結されているため、常染色体+X染色体を有する精子細胞と常染色体+Y染色体を有する精子細胞の間でメッセンジャーRNAやタンパク質が輸送された結果、精子細胞間の機能は均一化されていると考えられていた。しかしながら、本研究より、精子細胞の中でも後期のステージ(ブリッジ消失後と推定される時期)に発現するX染色体由来遺伝子によって、X精子とY精子間に機能差が生まれることが明らかとなった。

論文情報

  • 掲載雑誌: PLOS Biology
  • 論文題目: Activation of Toll-like receptor 7/8 encoded by the X chromosome alters sperm motility and provides a novel simple technology for sexing sperm
  • 著者: 梅原 崇、辻田 菜摘、島田 昌之
    広島大学大学院統合生命科学研究科
  • DOI: 10.1371/journal.pbio.3000398

特許出願

  • 発明の名称
    哺乳動物精子の分離方法、人工授精方法及び体外受精方法
  • 発明者
    島田 昌之1、梅原 崇1、後藤 雅昭1、2、久々宮 萌果2
    1広島大学大学院統合生命科学研究科、2大分県農林水産研究指導センター畜産研究部
  • 出願人
    国立大学法人広島大学、大分県
  • 出願番号
    特願2018-120260
【お問い合わせ先】

広島大学大学院統合生命科学研究科
教授 島田 昌之
TEL:082-424-7899
E-mail:mashimad*hiroshima-u.ac.jp  (注:*は半角@に置き換えてください) 

大分県農林水産研究指導センター畜産研究部 企画指導担当
TEL:0974-76-1214
E-mail:a15087*pref.oita.lg.jp (注:*は半角@に置き換えてください) 


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