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【研究成果】脳の炎症に作用するTSPOを標的とした新たな抗うつ薬候補を発見 ~マウスの実験で確認~

本研究成果のポイント

  • 脳の炎症に作用するTSPOの阻害薬が抗うつ効果を持つことを発見しました。
  • 今回の結果は、これまでにない炎症を作用点とした新規抗うつ薬開発へつながると期待されます。

概要

広島大学大学院医系科学研究科 相澤秀紀教授、同脳・こころ・感性科学研究センター 山脇成人特任教授、九州大学病院精神科神経科 加藤隆弘講師、小野薬品工業らの研究グループは、脳の炎症反応に関わるTSPO分子の阻害薬が抗うつ作用を示すことを動物実験の結果から明らかにしました。

うつ病は広く見られる精神疾患であり、世界の全人口の約4%が苦しんでいます。一方で、自殺率や再発率が高いことからその治療薬や予防薬の開発が社会的な課題です。

うつ病の病態を詳しく調べるため研究グループは、慢性的にストレス状態に置かれることでうつ病のような行動を示すマウスの脳を調べ、炎症反応に関与するTSPO遺伝子の活性化を見出しました。この分子の阻害薬ONO-2952を投与したマウスでは慢性ストレスの影響が弱まっており、抗うつ効果・抗ストレス効果を示していました。

本研究は、脳の炎症細胞がうつ病の基盤にあることを示すと同時に、脳の炎症細胞を作用点とした新しい抗うつ薬の可能性を示唆するものです。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)脳科学研究戦略推進プログラムおよび日本学術振興会 科学研究費補助金新学術領域研究による支援を受けて行われました。

本研究成果は、米国科学雑誌「Neuropharmacology」オンライン版に掲載されました。

用語解説

慢性ストレスによるミクログリアのTSPO活性化

図. 慢性ストレスによるミクログリアのTSPO活性化
(A) マウス扁桃体の断面で対照群(上段)およびストレス群マウス(下段)のTSPO(緑)、ミクログリアマーカー(赤、Iba1)および核(青、DAPI)を示す。ストレス群でミクログリアの中に発現するTSPO(黄信号)が上昇している。
(B) 対照群(白)およびストレス群マウス(黒)の各脳部位におけるTSPO発現量を示す棒グラフ。扁桃体、海馬、手綱でのTSPOの有意な発現が観察された。アスタリスクは平均値の統計的有意差を示す。
(C) TSPO阻害薬の培養ミクログリアに対する抗炎症効果、培養ミクログリアを最近由来の内毒素で刺激すると対照群(上段)に対して、活性酸素などの炎症性物質の産生が増加した(中段、赤)。この刺激による炎症性物質の上昇はONO-2952の投与により抑えられた(下段)。

論文情報

  • 掲載誌:Neuropharmacology
  • 論文タイトル:Antidepressant effect of the translocator protein antagonist ONO-2952 on mouse behaviors under chronic social defeat stress
  • 著者 (研究当時):
    野崎香菜子1、伊藤日加瑠1、扇谷昌宏2、山脇洋輔3、Ezgi Hatice Sahin4、北島貴司5、勝又清至5、山脇成人6、加藤隆弘2、相澤秀紀1
    1. 広島大学大学院医系科学研究科神経生物学
    2. 九州大学病院精神科神経科
    3. 広島大学大学院医系科学研究科細胞分子薬理学
    4. ハジェペテ大学医学部
    5. 小野薬品工業株式会社
    6. 広島大学脳・こころ・感性科学研究センター
  • DOI:10.1016/j.neuropharm.2019.107835
【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科
​​​​​​​教授 相澤 秀紀

TEL:082-257-5115
E-mail:haizawa@hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)


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