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【研究成果】骨に貯蔵されるマイクロRNAが介在する骨代謝制御機構を解明 ~骨関連疾患の新規治療標的として期待~

本研究成果のポイント

  • 骨芽細胞のマイクロRNA(miRNA)(*1)が細胞外小胞(基質小胞(*2))によって選択的に骨基質に運搬され、貯蔵されることを発見しました。
  • 骨基質に貯蔵されるmiRNA-125b(miR-125b)が介在する骨芽細胞と破骨細胞の新しい細胞間コミュニケーション機構を解明しました。
  • 上記miR-125bの経路を利用した骨関連疾患治療の可能性が示唆されました。

概要

広島大学大学院医系科学研究科(硬組織代謝生物学研究室)の吉子裕二教授、南崎朋子助教を中心とした研究グループは、基質小胞に多くのmiRNAが内包され、基質小胞を介して骨組織に運搬・貯蔵されること発見しました。

同グループは、miRNA-125b(miR-125b)に着目し、同miRNAが骨吸収によって骨髄微小環境に放出された後、Prdm1(*3)を標的として破骨細胞の形成が阻害されること、その結果骨吸収が抑制され、骨量が増加することをマウスを用いて明らかにしました。

また、miR-125bを骨組織に過剰量蓄積したマウスでは、正常な骨形成が営まれる一方で、卵巣摘出あるいは不動化にともなう骨量減少が著しく抑制されること、miR-125bをマウスに投与すると炎症性の骨吸収が抑制されることを確かめました。

本研究は、miRNAが細胞外基質(骨基質)に貯蔵されることを発見した最初の報告となります。また、骨基質貯蔵タイプのmiR-125bを介した破骨細胞の分化制御は、骨芽細胞と破骨細胞の新しい細胞間コミュニケーション機構を示すもので、この経路を標的とした骨関連疾患の治療法開発が期待されます。

本研究の成果はオープンアクセス・ジャーナル「Communications Biology」に掲載されました。

用語説明

*1 マイクロRNA(miRNA)
21-25塩基長の非翻訳RNAで、標的メッセンジャーRNAに対して不完全な相同性ももって結合し、標的メッセンジャーRNAを不安定化、翻訳抑制する。ヒトゲノム上には1,000以上のmiRNAがコードされており、多くの細胞の様々な標的遺伝子の転写後発現調節を担う。

*2 基質小胞
骨芽細胞などの石灰化組織の形成を担う細胞から放出される細胞外小胞。骨芽細胞から未熟な骨(類骨)に放出された基質小胞はカルシウムやリン酸を取り込むシステムを有し、リン酸カルシウム結晶の形成、石灰化を促し、その結果、石灰化した骨が完成する。

*3 Prdm1
転写抑制因子。Bリンパ球が形質細胞へ分化する過程に必須の因子として発見された。破骨細胞前駆細胞が破骨細胞に分化する際は、破骨細胞の形成を抑制する因子(IRF8、MAFBなど)の転写を抑制する。

miR-125bによる骨代謝制御機構を示す模式図

miR-125bによる骨代謝制御機構を示す模式図

骨芽細胞から放出されたmiR-125bを内包する基質小胞は骨形成とともに骨基質に埋められる。貯蔵されたmiR-125bは破骨細胞による骨吸収によって骨髄中に放出され、破骨細胞前駆細胞に取り込まれる。miR-125bは破骨細胞前駆細胞のPrdm1に結合し、翻訳を抑制する。その結果、下流の破骨細胞形成抑制因子の発現が上昇し、破骨細胞の形成が阻害される。

論文情報

  • 掲載誌:Communications Biology
  • 論文タイトル: The matrix vesicle cargo miR-125b accumulates in the bone matrix, inhibiting bone resorption in mice
  • 著者名: 南崎 朋子1、中尾 裕子1,2、入江 泰正1,3、Faisal Ahmed1、伊藤 翔太1,2、Nushrat Sarmin1、吉岡 広陽1,8、信清 麻子4、藤本 千晴1、新飯田 俊平5、外丸 祐介4、谷本 幸太郎2、香西 克之3、杉山 稔恵6、Edith Bonnelye7、竹井 悠一郎1,9、吉子 裕二1
    1. 広島大学大学院医系科学研究科硬組織代謝生物学
    2. 広島大学大学院医系科学研究科歯科矯正学
    3. 広島大学大学院医系科学研究科小児歯科学
    4. 広島大学自然科学研究支援開発センター
    5. 国立長寿医療研究センターメディカルゲノムセンター
    6. 新潟大学大学院自然科学研究科
    7. CNRS ERL 6001/ INSERM U1232, Institut de Cancérologie de l’Quest
    8. 現所属: 国際医療福祉大学医学部解剖学
    9. 現所属: 高知県立大学健康栄養学部健康栄養学科
  • DOI番号: 10.1038/s42003-020-0754-2
【お問い合わせ先】

広島大学 大学院医系科学研究科 硬組織代謝生物学
教授 吉子 裕二

TEL: 082-257-5620

E-mail: yyuji*hiroshima-u.ac.jp (注:*は半角@に置き換えてください)


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