広島大学 大学院医系科学研究科 微生物医薬品開発学
教授 黒田 照夫
TEL: 082-257-5655
E-mail: tkuroda*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
本研究成果のポイント
- 広島大学が申請した「下痢症原因細菌の完全ゲノム配列を用いた可動性遺伝因子との関連解析~ヒト腸内における薬剤耐性伝播ポテンシャル~」の研究が、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による令和2年度新興・再興感染症研究基盤創生事業(海外拠点活用研究領域)に採択されました。
- 本事業では、岡山大学インド感染症共同研究センター(インド・コルカタ市)の協力を得て、下痢便から分離される複数の細菌種の遺伝子情報を用いて、細菌間での遺伝子の伝播がどのようにして起こっているのかを明らかにすることを目的としています。
- 本研究の推進により、将来的には薬剤耐性遺伝子の伝播を抑制することで、薬剤耐性菌の蔓延を防ぐことが可能となります。
概要
薬剤耐性菌は今や世界規模の問題となっており、今行動を起こさない限り2050年には薬剤耐性菌による年間の死者数は世界で1,000万人にも達するとも予想されています(※1)。薬剤耐性菌の蔓延を阻止するためには、細菌そのものが広がらないようにすることが重要ですが、それと同時に薬剤耐性に関係する遺伝子そのものが広がらないようにすることも重要です。
しかし遺伝子の伝播がどのように起こっているのかについて詳細は明らかになっていません。
このような状況の中、広島大学大学院医系科学研究科の黒田 照夫教授、森田 大地助教、広島大学学術・社会連携室の丸山 史人教授、法政大学生命科学部の今村 大輔准教授らの研究グループが進める「下痢症原因細菌の完全ゲノム配列を用いた可動性遺伝因子との関連解析~ヒト腸内における薬剤耐性伝播ポテンシャル~」の研究が、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による令和2年度新興・再興感染症研究基盤創生事業(海外拠点活用研究領域)に採択されました。
本事業では、岡山大学がインド・コルカタ市に設立したインド感染症共同研究センター(インド拠点)の協力を得て、隣接する国立コレラおよび腸管感染症研究所(National Institute of Cholera and Enteric Diseases, NICED)において分離される下痢症原因細菌(コレラ菌、赤痢菌、病原性大腸菌、カンピロバクター)を題材とした研究を推進します。
次世代シーケンサーを駆使して分離した細菌の遺伝情報、特に可動性遺伝因子(※2)に着目して解析をすることで、同種の細菌同士はもちろんのこと、種が異なる細菌、さらにはヒトの腸内に生息する常在細菌との間での遺伝子伝播がどの程度起こっているのかを明らかにします。そしてどのような遺伝子とどのような細菌の組合せの時に伝播の頻度が高いのかを推定し、その伝播を防ぐことができるような創薬の開発につなげます(図解参照)。
この研究は、比較的狭い地域で同じ時期に複数の細菌による下痢症患者が存在しないとうまく進めることができません。インドでは下痢症患者も多く、NICEDにはこのような患者がいるため、インド拠点の協力が不可欠です。これらの研究を進めることで、インドにおける薬剤耐性の蔓延阻止に有益であるだけでなく、日本を含めた世界中の国々における薬剤耐性の問題を解決に導くことができると考えています。
図 ヒト腸内における細菌間の遺伝子伝播の模式図
下痢症患者由来の細菌(コレラ菌、下痢原性大腸菌、シゲラ属細菌、カンピロバクター属細菌)において、次世代シーケンサーを駆使して完全ゲノム配列決定を行い、可動性遺伝因子の系統、構造解析を行う。それらの可動性遺伝因子の異種細菌間や腸内常在菌(主として非病原性大腸菌)との間での遺伝子伝播について関連(ネットワーク)解析を行うことで遺伝子伝播がどのように起こっているのかを解明する。
用語解説
(※1) 参考資料
O’NEILL, J. (2016) TACKLING DRUG-RESISTANT INFECTIONS GLOBALLY: FINAL REPORT AND RECOMMENDATIONS
(※2) 可動性遺伝因子
細菌間を比較的自由に移動することができる遺伝因子。代表的なものとしてプラスミド(図中には模式的に円で示している)やトランスポゾンが挙げられる。これらには薬剤耐性に関係する遺伝子を含む場合も多く、臨床現場における薬剤耐性の獲得にはこれら可動性遺伝因子が関わっていることも多い。
採択課題名
令和2年度新興・再興感染症研究基盤創生事業(海外拠点活用研究領域)
「下痢症原因細菌の完全ゲノム配列を用いた可動性遺伝因子との関連解析~ヒト腸内における薬剤耐性伝播ポテンシャル~」(研究代表者:黒田照夫)